「ドル箱」だった中国市場で、日本車メーカーの苦戦が続いている。比亜迪(BYD)をはじめとする電気自動車(EV)メーカーにシェアを奪われているのが原因だ。
中国市場で日本車販売に「急ブレーキ」
2024年7月の中国新車販売はトヨタ自動車<7203>が前年同月比6.1%減の14万3435台、ホンダ<7267>が同41.3%減の5万2757台、日産自動車<7201>が20.8%減の4万7102台と、いずれも減少した。前年7月もトヨタが同15.4%減、ホンダが32.8%減、日産が同33.6%減と大幅に落ち込んで降り、中国市場での日本車のシェアは下げ止まらない状況だ。
中国乗用車市場での日本車のシェアは2020年(通年)の23.1%から、2024年上期(1~6月)には12.0%とほぼ半減した。ここまでシェアを落とした要因は、中国市場におけるEVの急速な普及とEVシフトでもたついた日本車メーカーの商品戦略にある。
中国最大手のBYDは低価格のEVやプラグインハイブリッド車(PHV)が好調で、中国で販売台数を伸ばしているのに加えて輸出も好調。2024年第2四半期(4~6月)の世界販売は98万台で、ホンダ(92万台)や日産(79万台)を抜いて世界7位となった。
1位のトヨタグループ(263万台)や、2位の独フォルクスワーゲングループ(224万台)、3位の現代自動車・起亜(184万台)など、上位の自動車メーカーが軒並み前年割れなのに対して、BYDは40%増の高成長で、通年では米ビッグスリーの一角であるフォード・モーター(114万台)を追い越しかねない勢いだ。
世界に先駆けながらビジネスで失敗する日本
日本は2009年に三菱自動車<7211>が「i-MiEV」、2010年に日産が「リーフ」を発売して21世紀のEV市場を牽引したが、販売が伸び悩んだことから販売が好調なハイブリッド車(HV)に注力した。その間に米テスラやBYDといったEV専業メーカーが販売を伸ばし、日本製EVは存在感を失った。
これは薄型大画面テレビやスマートフォンなどで見られた典型的な「逆転負けパターン」だ。薄型大画面テレビでは液晶ディスプレイで圧倒的な強みを発揮し、その次世代となる有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイでもソニーが2007年に世界で初めて製品化した。
しかし、この有機ELテレビは高価な上に大画面化が難しかったため、ソニーは生産を中止。国内メーカーも追従しなかった。
スマートフォンも日本が1998年から2005年にかけて前身となる複数のモデルを発売したが、販売が伸びなかったことから「ガラケー」と呼ばれるフューチャーフォンに特化。ところが2008年に「iPhone」が登場すると、スマートフォン市場が世界規模で爆発的に成長する。日本メーカーはガラケーからの方向転換が遅れ、モバイル市場から撤退する日本メーカーが相次いだ。
世界市場から締め出されつつある日本車
今後のEV市場における日本車メーカーの見通しも暗い。日本市場ではEVの普及率が1%台と世界的に見ても低く、HVを含むガソリン車に「ガラパゴス化」している。そのため日本車メーカーは「エンジン車とHVで時間稼ぎができる」との判断のままだ。EV新車開発のスピードも相変わらず遅い。その間にEVを取り巻く外部環境は厳しくなる一方だ。
欧米は中国製EVの輸入増を食い止めるため、政府からの補助金を問題視した追加関税を課すなどの「締め出し」に乗り出している。そうなると中国製EVはこれまで以上に中国国内で出回ることになり、日本車の中国シェアはますます落ち込むだろう。
中国市場だけではない。
中国製EVの販売増で2024年上期(1~6月)のタイ新車販売台数は11%と二桁に乗った。日本とは全く異なる市場構造になりつつあり、中国市場同様に日本車の長期低落が懸念される。日本車メーカーはタイでの工場閉鎖や生産集約を進める方針だ。
EVが復調しつつある米国市場を失えば凋落は決定的に
こうした動きが中国に次ぐ巨大自動車市場である米国に波及した場合、米国市場に大きく依存する日本車メーカーは決定的な凋落(ちょうらく)の日を迎えることになる。米国では昨年後半からEV離れが起こり、日本車メーカー各社は胸をなでおろしていた。
ところが米自動車評価機関ケリー・ブルー・ブック(KBB)によると、2024年第2四半期(4~6月)のEV販売台数は前年同期比11.3%増の33万463台に盛り返し、新車販売台数に占める割合は8%と過去最高を更新した。「その日」は確実に近づいている。
文:糸永正行編集委員
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