
ロサンゼルスに生まれた日系2世のロバート・ナカムラは、「アジア系アメリカ人メディアのゴッドファーザー」とも呼ばれる、偉大なる存在。6歳だった第二次対戦中、両親とともにマンザナー強制収容所に連行され、戦後はカメラマンを経てドキュメンタリー映画監督として活躍した。
そんな彼についてのドキュメンタリー映画『Third Act』を撮ったのは、ひとり息子で、やはりドキュメンタリー監督のタダシ・ナカムラ。7年かけて製作したこの映画のプレミアでの反響は、すばらしかったという。
「すごく感動した、笑って泣いたと言ってもらえました。僕と父の関係、あるいは家族の歴史、家族が抱えるトラウマという部分に共感してもらえたようです。アジア系の観客には、映画の中で父が脆い部分をさらけ出すことに心を動かされた人もいたようでした。父の世代のアジア系の男性はあまり感情を表に出さないですからね」と、タダシ。
数ある感動的な場面でも、とりわけ心に残るのは、父ロバートが「じいちゃん(ロバートの父で日本からの移民ハルキチ・ナカムラ)が日本人じゃなかったらよかったのにと思ったことがある。そのことに罪悪感を覚える」と告白して泣くシーン。アメリカに住むマイノリティならば、おそらく誰もが理解できる心情だろうが、その言葉が父から出てきたのは、タダシにとって驚きだった。
「アクティビストでもある父は、いつもしっかり自分のアイデンティティを持っていると思っていましたからね。父はじいちゃんを誇りにしてもいました。

タダシ・ナカムラ監督 (C)Sundance Institute
アイデンティティの葛藤は、タダシにもあった。これはロバートの話であると同時に、タダシ自身についての話でもある。
「この映画のナレーションを書く中で、僕はこれまで自分の感情にしっかり向き合ってこなかったことに気づきました。過去の僕の映画にはほとんどナレーションがないのですが、今作で書くにあたっては、自分が何を思っているのかを知る必要があったのです。僕は何を恐れているのか?この映画を観た人に何を感じ取ってほしいのか?父はこの映画の観客に何を受け止めてもらいたいのか?そういったことを考え、紙に書き留めていくのは、心理セラピーのようなプロセスでした」。
折しもアメリカは政権交代をしたばかり。マイノリティを嫌うトランプ大統領は、移民の強制送還を宣言している。
「この国にはいつも人種差別がありました。それでも、僕らはなぜか今もここにいます。今起きていることはとてもひどいけれども、それだけではとどまりません。ここで生まれたトラウマは後の世代にも引き継がれるのです。そんな中でも、父がそうしたように、少なくともそれを使って芸術を生み出したり、コミュニティとつながってお互いを癒し合ったりするようにしていければ。僕の父は、人種差別のせいで人生が破壊されることと、芸術とコミュニティのパワー、その両方を見せる例だと思います」。
USドキュメンタリー・コンペティション部門での上映。映画祭は2月2日まで。
文=猿渡由紀