六本木の「グランドハイアット東京」のスイートルームで韓国籍の兄弟が逮捕された。彼らは5人で予約しながら室内に21人を招き入れたり、1100万円相当の備品を破壊したりして、1泊100万円の部屋を13日間使用不能にさせた。
あまり表に出ない外国籍富裕層による迷惑行為だが、こうした事例は他にもあるのか。富裕層の裏事情に詳しい現役の執事に話を聞いた。
横柄に振る舞うのは、「成り上がり」と一部の「親リッチ」
「お金がない」と悩む人は多い。それが解決された先には、一体なにが待っているのだろうか。
先日起きた六本木の事件は容疑者が外国籍だったが、実際、円安によって、日本で豪遊する海外の富裕層も増えている。1泊100万の部屋に泊まる海外の富裕層たちだが、その実態はどのようなものか。
世界中の富裕層に執事やメイドのサービスを提供する「日本バトラー&コンシェルジュ株式会社」の新井直之さん(リンク:https://butler-concierge.com/)は、彼らの日常を熟知しているという。
新井さんは、事件についてこう分析する。
「こうした事例は、『成り上がり』の方に多いです。一代で急にお金を手にしたことで『自分はなにをしてもいいんだ』と勘違いしてしまったのでしょう」(新井さん、以下同)
二代目や三代目の富裕層は、今回の事例のような振る舞いをしないのか。
「そうでもありません。二代目や三代目を我々執事は『親リッチ』と呼ぶのですが、親リッチで横柄に振る舞う方を見ていると、親が運やまぐれによって急に会社を大きくしたパターンが多いですね」
過去にも、ニューヨークのケネディ国際空港で大韓航空の副社長が機内でのナッツの提供のやり方に激怒し、離陸間際の自社便を引き返させた騒ぎがあった。
この副社長は大韓航空を傘下に置く財閥の最高経営責任者(CEO)の娘で、先述の『親リッチ』だったと言える。
「世界各国に共通して言えるのは、成り上がりにしろ、一部の親リッチにしろ、苦労して事業を成し遂げた経験がないと、『これをやることで、あんなに苦労して積み上げたものを失ってしまう』という考えができないこと。
同じ理由で、急に富裕層に嫁いだ奥様も横柄に振る舞いがちです。突然立場が変わり、周りがなんでも言うことを聞くようになるので、つい誤解してしまうのでしょう」
そんな「奥様」の迷惑行為によって、会社が立ち行かなくなることもあるのだという。
「従業員に暴言を吐いたり、昔からいる役員でも気に食わないと全員クビにしたりする奥様もいます。奥様の一存で女性社員の制服が変わることもありますし、オフィスがきらびやかになることもあります。
さらに、被害がおよぶのは、本社だけではありません。地方都市に支店があると、現地の従業員たちに送迎や、食事、娯楽などの手配を全てやらせるんです。これで従業員のモチベーションが下がり、離職が止まらないケースもありました」
このような創業家の一族による会社の公私混同を止めなければというリスクヘッジで、執事サービスを申し込むケースも多い。
「そうすれば『プライベートのことは執事に頼め。会社の人間を使うな』と言えますから。でも、そのような困った方たちは、我々執事でも手に負えないときもあります……」
困った富裕層による迷惑行為…「スイートで鍋パ」
どんなときだと、執事でも手に負えないのか。
「例えばレストランで、常連でもないにも関わらず、眺望のよい席に変えてほしいと言ったり、メニューにない料理をリクエストしたりします。
ホテルの客室のなかにはキッチンなんてないので、当然できません。でも『それなりのお金を払っているから許されるのでは?」という思いから、そういった要求をしてしまうんです』
過度な要求も今回の事件も、自己顕示欲という意味では似ているかもしれません。ホテルに友人や親戚を21人呼んで器物破損するのも、『こんな無茶もできるような立場になったんだぞ。俺にはこれだけ力があるんだぞ』と周囲に見せつけたいからではないでしょうか」
「お金を持てば持つほど、ある程度のわがままは聞いてもらえるようになるからこそ、セルフコントロールをする必要がある」と新井さん。
それができている富裕層など、はたしているのだろうか。
「時間をかけて代々ビジネスを続けてきた後継者は、謙虚で周りへの配慮を怠りません。たとえば、もし今回のように100万円相当の破損をしたら、すぐに迷惑料も込めて200万円を払うでしょうね。
過去に一脚500万円の工芸品の椅子を壊してしまい、2倍の1000万円を払って謝られた方もいました。小さい頃からの教育が行き届いていれば、外で荒れることはないんです」
最後に、今回の事件のように、日本を訪れる海外富裕層がトラブルを起こすケースは今後増えていくか聞くと……。
「実際、日本を訪れる海外富裕層は増えています。
――今後も訪日外国人が増えるだろうが、彼らが必ずしもなにかやらかすわけではないだろう。取材中の「『本物の富裕層』は意外とちゃんとして、普通の人よりも良識的だったりしますよ」という、新井さんの言葉を思い出される。
取材・文/綾部まと