富裕層ほど得をする「1億円の壁」是正に現実味…ガソリン暫定税率廃止の代替財源、切り札には「金融所得課税」強化が浮上
富裕層ほど得をする「1億円の壁」是正に現実味…ガソリン暫定税率廃止の代替財源、切り札には「金融所得課税」強化が浮上

11月5日に与野党6党がガソリンの暫定税率廃止で正式に合意した。暫定税率はガソリンが2025年12月31日、軽油は2026年4月1日に廃止される。

これにより、ガソリンは1リットルあたり25.1円、軽油は17.1円下がることになる。ここに消費税10%が加算されていたため、実際はもっと価格が下がる計算だ。物価高に苦しむ庶民にとって影響は大きい。

 

しかし、今後の焦点は代替財源だ。金融所得課税の強化が案の一つに浮上しており、富裕層が得をしてきた「1億円の壁」解消が視野に入ってきた。

所得が1億円を超えると実効税率が下がるのはなぜ?

今回の暫定税率の廃止により、国と地方で1.5兆円の税収減となる見込みだ。暫定税率は道路整備の財源を補うために1974年に導入され、2009年に道路特定財源から一般財源へと切り替わった。

従って、社会保障や子育て支援など幅広い行政サービスに充当されていたことになる。

高市総裁の就任前、宮沢洋一氏が自民党の税調会長を務めていた際の代替財源は、自動車関連税の増税案などが検討されていた。しかし、国民民主党の榛葉賀津也幹事長が10月31日の会見で語った通り、自動車ユーザーや自動車業界に別の形で負担を求めるのは本末転倒である。

とはいえ、日本は債務残高がGDPの2倍を超えており、先進国の中でもトップクラスだ。将来の世代にツケを回さないためにも穴埋めは必要であり、インフレに苦しむ庶民に負担がかからない増税策が必要になる。

そうした中、財源確保の案の1つとして自民党が出したのが、「金融所得課税」の強化だ。

片山さつき財務大臣は10月24日の記者会見で、代替財源の1つとしての金融所得課税の強化の是非について問われ、「予断をもってお答えできる状況にはありません」と答えたものの、一般論として「税負担の公平性、それから貯蓄から投資への流れを引き続き推進し、かつ、一般の投資家が投資しやすい環境を損なわれないようにするということが重要」と発言した。

この発言の念頭には「1億円の壁」の是正があるとみられる。

「1億円の壁」は、所得が年間1億円を超えると実効税率が低下するという現象だ。所得税の最高税率は45%だが、株式や不動産の売却益の税率は一律15%。富裕層は株の売却益や配当などの金融所得が多いため、税負担が軽くなる。

財務省は長らく「1億円の壁」と呼ばれる富裕層の不公平な税負担を是正するタイミングを見計らっていた。岸田元総理は「1億円の壁」の打破を掲げたものの、超富裕層向けのミニマムタックスの導入に留まっていた。

しかし、日経平均が5万円を超えて株高の今こそ、不公平感を解消する絶好のチャンスなのだ。

税負担の公平性の観点からも異質な「1億円の壁」

富裕層に的を絞った金融所得課税の強化は合理的であるように見える。

まず、この問題は税負担の公平性の基準を逸脱している。税負担には垂直的公平という考え方があり、これは税負担能力が高い富裕層ほど納税額を大きくして公平にしようというものだ。「1億円の壁」は、この基準から外れている。また、同じ富裕層であっても所得の種類で税負担率が異なるというのは、水平的公平の観点からもおかしい。

インフレで不動産価格の高騰と株高が続いており、資産価値が上がっていることも見逃せない。千代田区、中央区、港区の都心3区のマンション価格は、リーマンショック時の2008年と比較して2.5倍を超える水準まで上がっている。

実質賃金が上がらない日本には、強気な利上げを行なえるだけの体力に欠けている。円安基調が続き、株高を呼び込みやすい。富裕層が持つ資産価値が上がりやすい状況にあるのだ。

そして、一般庶民はNISAによる税制優遇策で守られている。日本証券業協会「個人投資家の証券投資に関する意識調査」によると、年収300万円未満の52.6%、500万円未満の62.4%が新NISAの口座を開設しているという。

NISAの普及は相場を下支えしていると見ることもできる。富裕層の資産は政府が掲げる「貯蓄から投資へ」という流れの中で、価値が守られてきたわけだ。

「1億円の壁」の是正は税負担の公平性を担保し、一般大衆への影響も少ないものなのだ。

高市政権“サナエノミクス”による株高が是正のチャンス?

超富裕層向けのミニマムタックスは岸田政権時代に導入が決定し、2026年の申告時から課税される。実効税率が22.5%未満である場合、その差額を追加で支払うが、3.3億円もの控除が設けられている。

所得水準が30億円前後の超富裕層が追加負担の対象者とされている。

ミニマムタックスによる税収は推計で500億円程度。踏み込み不足の印象は拭えなかった。

ただし、「1億円の壁」撤廃には投資家心理を冷やさない丁寧な議論と説明が必要だ。岸田政権時代は超富裕層への増税の見返りのような形で、NISA枠の拡充を行なった。金融所得課税の強化策を打ち出すと、株価がトーンダウンするのは、岸田政権、石破政権誕生で相場が軟調になったことが示している。

一方、高市政権の積極財政に期待する動きは大きく、日経平均は5万円を超える高値圏で推移している。今後、市場との駆け引きが始まりそうだ。

取材・文/不破聡

編集部おすすめ