北海道の「ド田舎」から東京へ出てきた大久保篤志と、新宿で生まれ育った伊賀大介。二人のトップスタイリストが大久保の自伝『The Stylist ザ スタイリスト』(小学館)をきっかけに、北海道からの上京、新宿の青春、ドラマや映画の現場でつちかった服装哲学までを語り合った。
やっぱり「上京物語」
伊賀大介(以下、伊賀) 大久保さんの自伝『The Stylist』(小学館)、めちゃくちゃ面白かったです。
大久保篤志(以下、大久保) それは嬉しいな。
伊賀 家のリビングでビール片手に読み始めたら、もう止まんなくなって。そこから家のこと全部放っぽって、1日で読んじゃいました。僕は、大久保さんのことをスタイリスト界のゴッドファーザーみたいに思っているんですけど、やっぱり「上京物語」って強烈じゃないですか。北海道の歌登町(現・枝幸町)から、札幌を経由しての東京とか。
大久保 そっか。伊賀くんは東京の生まれだもんね。
伊賀 はい。
大久保 東京の、どのあたりなの。
伊賀 新宿です。
大久保 うわっ! バリバリじゃん。しかも70年代生まれでしょ?
伊賀 1977年生まれなんで、地元をウロチョロし始めたのは80年代、90年代。
大久保 それは凄い世代だわ。俺は1955年生まれで、そもそも時代が違うけど。上京してきたのは1975年頃だから、その2年後には伊賀くんが生まれてくるわけでしょ。ほぼ同期だね。
伊賀 いやいや。
大久保 「東京歴」だったら、ほんと同期じゃん。同じようにスタイリングの仕事をやってきて、そういう、生まれたときから「東京の人」がいったいどういう感覚というか、気持ちでファッションのほうに吸い寄せられてきたのか、興味あるな。
ちゃんと味出してんのよ
大久保 伊賀くんの青春時代、1980年代とか90年代の新宿だったら、音楽でも洋服でもだいたい何でもあったでしょ。俺はド田舎の、さらにもっと遠くにある北海道のド田舎の出身だから、ずっと「ここには何もないから、どこかに探しにいかなきゃ」って感覚だった。それで高校を卒業して、東京に来たの。伊賀くんはさ、生まれ育った新宿に対して「ここには何もない」なんて感じたことあるのかな。
伊賀 「何もない」というよりは「何でもある」のが、自分にとっての壁だったかもしれません。地元は、西新宿のほうだったので。
大久保 ああ、新宿の中でもとりわけコクのある場所だ。
伊賀 顔見知りにはホームレスの人もいれば、ヤクザの息子もいるし、リアルに金子正次の『竜二』(川島透監督)の世界でした。何でもあるからこそ、逆に「自分にフィットするものを選んでいかなきゃならない」っていう気分だったのかも。
大久保 怖い先輩とかに揉まれる感じか。
伊賀 レコード屋巡りなんかは、そうですね。先輩にいろいろ教えてもらって。
大久保 前から顔見知りだけど、そんなにきっちり話したことはなかったよね。
伊賀 撮影現場では、何度もご一緒してるじゃないですか。大久保さんご自身はグッドバイブスなんですけど、こっちが勝手に緊張しちゃって、なかなか話しかけられなくて。
大久保 俺はさ、相当前から注目してたんだよ。
(大久保さんが雑誌の切り抜きを見せる)
伊賀 うわっ!
大久保 これ、覚えてる? 馬場(圭介)とか、伊賀くんの師匠の熊谷(隆志)さんとか、11人のスタイリストがユニクロとコラボしてTシャツをデザインした企画。
伊賀 そりゃ、もう。
大久保 (編集者に)見てよ。伊賀くんひとりだけ、ただ着てんじゃないの。Tシャツの裾を切ってさ、ちゃんと味出してんのよ。
伊賀 若気の至りです……これは恥ずかしい……(笑)。
現場のドット率
伊賀 『The Stylist』を読んで、一番嬉しかったというか、頷いちゃったのが、フジテレビの月9『プライド』とか、TBSのドラマで木村拓哉さんのスタイリングをやったときの話でした。あの大久保さんですら、(他の演者を担当する衣装会社の)衣装さんたちに気を遣うんだ。目立たないようになるべくバスの端の席に座る、うんうん、わかります、わかります、みたいな(笑)。
大久保 やっぱり、伊賀くんもそう?
伊賀 もう、めちゃくちゃ気遣いますね。衣装さんやメイクさんは、女性の方が多いじゃないですか。僕の場合は、とにかく差し入れですね。せんべいとか、いろいろ持っていったり。
大久保 ははは。
伊賀 ドラマとか舞台の現場に出入りするようになると、だんだん大人になっていくというか。差し入れとかだけじゃなくて、自分の服装自体が変わってきませんか。いま、大久保さんが着てるドット(柄)のカーディガンを見て、思ったんですけど。僕も最近は、現場のワークウェア率が高くて。
大久保 自分が目立つのは違うから、モード(系)ではなくなってくるよね。ドットは無機質じゃないのに、わりとその場に溶け込みやすいデザインだと思う。
伊賀 ですよね。
大久保 大昔は、イタカジとか着てたけど。
伊賀 アルマーニ時代の大久保さんも好きでした! オールバックっぽい、撫でつけた髪型の頃、ネクタイのノットもめちゃくちゃ小さくてカッコ良かったな。
大久保 伊賀くんにもモード時代はあったの?
伊賀 アシスタントから独立したばっかりの頃は、初期の「NUMBER (N)INE」とかは「完全に俺のための服だ」って気分でした(笑)。
大久保 初期の「NUMBER (N)INE」は良いよね。そこから、どんなタイミングで脱モードになったんだろう。
伊賀 舞台とか映画の現場に出入りするうちに、自意識の在り方がだんだん変わっていったんだと思います。役者でもレギュラーの制作スタッフでもない人間が、舞台とか映画の現場にノースリーブのジャケットで出入りして、それで誰より目立つみたいなのは、まあ、カッコ悪いじゃないですか。そうなると結局、ツナギとかワークウェア。
大久保 今日のツナギも雰囲気あるね。
伊賀 これは、「Engineered Garments」のツナギです。
後編へつづく
取材・文/山田傘 撮影/高木陽春
『The Stylist: 伝説のスタイリスト 大久保篤志の人生と仕事論』(小学館)
大久保 篤志

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