「一切笑えない」「見られてよかった」妊産婦の自殺、産後うつ… 重いテーマを“バラエティ番組”で紹介した『上田と女がDEEPに吠える夜』の功績
「一切笑えない」「見られてよかった」妊産婦の自殺、産後うつ… 重いテーマを“バラエティ番組”で紹介した『上田と女がDEEPに吠える夜』の功績

テレビはまだまだトガっている。心に“刺さった”番組を語るリレー連載「今週のトガりテレビ」。

今回は、テレビウォッチャーのノブユキが、ゴールデン帯で放送された異例のトーク番組について語る。

深夜のトガった番組がゴールデン特別放送

日本テレビがゴールデン帯で放送している『上田と女が吠える夜』は、女性視聴者を主なターゲットに据え、日常に現れる「〇〇な女」をテーマに、女性芸能人たちが本音を語り合うトークバラエティだ。

上田晋也(くりぃむしちゅー)の巧みな司会とツッコミ、大久保佳代子(オアシズ)、いとうあさこ、MEGUMI、若槻千夏、ファーストサマーウイカといった腕利きのタレントたちによるトークが人気を博し、TVerのお気に入り登録数は336万人を記録している。

この姉妹番組として深夜帯で放送されているのが『上田と女がDEEPに吠える夜』だ。前者が女性同士のトークバトルをメインにしているのに対し、こちらは生理、子育て、ジェンダーなど、女性の悩みや社会問題をテーマに、経験者が意見を出し合い、互いを尊重しながら話を進めていくのが特徴である。

そして、この番組が優れているのは、単に“重いテーマを扱っている”からではない。むしろ本質は、友人同士でもなかなか面と向かって話しにくい問題を、重すぎないパッケージでテレビに乗せ、世の中に広く届けていることにある。

世の中のトーク番組には、失敗談を笑いに変えるものもあれば、芸能ゴシップを消費するもの、ちょっとした人生相談や雑学を気軽に楽しむものもある。だが『DEEPに吠える夜』がやっているのは、それらとは少し違う。

センシティブなテーマを“深刻な教養番組”として届けるのではなく、あくまでバラエティとして成立させているところが、この番組の大きな価値だろう。

6月1日には、同局のSDGsウィーク「Good For the Planet」(グップラ)の一環として、『DEEPに吠える夜』としては初のゴールデン特番が放送された。

他人だけでなく自分自身にも呪いをかけるルッキズムや、現役の国会議員を招いた女性政治家のリアルなど、深夜帯や配信向きと思われがちなテーマを、あえて地上波ゴールデンで届けたこと自体、この番組の“実験”として興味深い。

「産後うつ」や「妊婦の自殺」といったテーマでトーク番組

この特番の最初のテーマは「産後うつ」だった。ホルモンバランスの乱れや育児ストレスにより、気分の落ち込みやイライラ、さらには「死にたい」「消えたい」といった感情にまで至ることもあり、母親のおよそ10人に1人が経験するという。

切迫早産を経て、育児と撮影中断による詫び状を書き続ける生活に追われた木村多江、実の母親に「母乳が足りひんのちゃう?」と言われた高橋ユウ、双子の育児中に「双子はいっぺんに終わって楽よね」と無神経な言葉を投げかけられた大山加奈。ゲストたちの語る体験はどれも生々しかった。

情緒不安定で突然涙が出たり、夫に対して強い苛立ちを覚えたりする体験談も明かされた。男性ゲストとして出演した長谷川忍(シソンヌ)は、自身の妻が出産から3年後に同様の症状を見せたと話したが、精神科医の木村好珠は、数年後であればホルモンバランスとは別の要因が大きい可能性を指摘する。

これに対し上田は「ちょっと引っ込んでてもらえると……」とひと笑いを入れつつ、トークがうまくいかなかったと反省する長谷川をフォローもする。深刻なテーマの中でも空気を張り詰めさせすぎず、しかし軽くしすぎない。上田の司会術が最も光っていたのは、こういう瞬間だった。

後半では、周囲に4人以上のサポート役がいると産後うつの症状が軽くなるという研究結果も紹介された。子育てに直接参加しなくても相談相手になる存在の大切さ、家事や育児に加え、母親のメンタルケアも担う「産後ドゥーラ」という専門職の存在など、壮絶な体験談を並べるだけで終わらず、助けとなる手段まで提示していた点も重要だった。

やや煽り気味なテロップや効果音の付け方は、たしかに一般的なトークバラエティと同じだ。しかし出演者たちは当事者の声を軽視せず、上田も笑いのために話を矮小化しない。

こうして“いつものテレビの見やすさ”をあえて維持しているからこそ、普段こうしたテーマに関心のない視聴者にも届いたのではないか。

そして最後に取り上げられたのは、妊産婦の死亡原因として最も多いのが自殺であるという事実だった。出産=幸せというイメージがあまりにも強いがゆえに、辛さを気軽に吐き出せない風潮が最悪のケースを生む。衝撃的な事実に、スタジオの空気は一変した。

視聴者からは賛否「ゴールデンでこういう番組やれるのすごい」

木村多江は、友人も産後に自殺したことに触れ、「周りが気付けない状況になりかねないことをみんなが知っておく必要がある」とコメントした。

社会問題を知るきっかけは人それぞれだ。しかしネット社会ではアルゴリズムの影響もあり、どうしても自分の関心がある話題ばかりを選びがちになる。

視聴者の興味の有無や年齢、性別を問わず、不特定多数に広く情報を届けるマスメディアの特性と使命が、いま改めて重要性を増している。

この放送に対して、SNS上では賛否の声が上がっていた。

「旦那も見始めて、産後うつがテーマだったし旦那も興味持ったみたい。産後ドゥーラもググッたりもしてたし。一緒に見れてよかったかも」
「親の約10人に1人が産後うつ経験 こういうのもっと早く30年位前から知りたかったなぁ…」
「日テレのゴールデンでこういう番組やれるのすごい。面白かった…」
「産後うつ、内容が重すぎるわ。

ゴールデンにやる内容じゃないでしょ。一切笑えないんだけど」

重すぎると感じた視聴者がいたのも事実だろう。だが、それでも間違いなく意味のある内容だった。

6月9日には『上田と女がDEEPに吠える夜』の枠で、『ルッキズム 完全版』も放送される。

今回のゴールデン版は、おそらく一度きりの実験的な特番なのだろう。しかし、本来ならこうした番組が毎週ゴールデンにあってもいいはずだ。人との会話の中では知りづらく、当事者でなければ気づきにくい悩みを、世の中全体が知るべきテーマとして、重すぎない形で届ける。『上田と女がDEEPに吠える夜』は、テレビにしかできない橋渡しをやっていた。そこに、テレビの気合を見た。

文/ノブユキ

 

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