企業のデレバレッジの緩和(企業貯蓄率の低下)、そして震災復興のアベノミクスの経済対策で財政が緩和気味だったことにより、ネットの資金需要(企業貯蓄率と財政収支の合計)が復活し、それをマネタイズする金融緩和の効果も強くなったことが、アベノミクス1.0の形であった。
■アベノミクス2.0スタートまでは空白期間?
グローバルな景気・マーケットの不安定感を警戒した企業行動の慎重化(企業貯蓄率の短期的なリバウンド)と、消費税率引き上げと税収の大幅増加などにより財政が過度に緊縮気味となり、ネットの資金需要が消滅してしまい、金融緩和の効果も限定的となり、アベノミクス1.0の基礎が瓦解し、停止した状態となってしまった。
財政による大規模な景気対策と企業活動の回復(企業貯蓄率の再低下)が合わさり、ネットの資金需要が復活すれば、アベノミクス2.0がスタートするだろうが、それまでしばらく時間がかかる。
■停止したアベノミクス1.0の3つの功績
アベノミクス1.0は停止した状態であるが、この3年間で成し遂げてきたレガシーは残っている。
一つ目は、名目GDPが2015年10-12月期までの3年間で+5.7%程度拡大しており、経済規模の縮小を止め、企業が前向きに動きやすい環境を整えたことだ。3年単位で、2012年までの-0.3%、2009年までの-7.3%、小泉改革を含む2007年までの+1.9%と比較すると、成果は目に見えて大きい。
二つ目は、総賃金(日本の雇用者の賃金の合計)が2015年10-12月期までの3年間で+4.7%程度拡大しており、家計への分配の縮小を止め、これまでのデフレと内需停滞の原因を取り除く環境を整えたことだ。3年単位で、2012年までの+1.5%、2009年までの-5.7%、2007年までの+1.8%と比較すると、成果は目に見えて大きい。
三つ目は、日本経済のアキレス腱とみられてきた政府の負債残高のGDP比率を、リフレ政策の推進による名目GDPの拡大で、ピークアウトさせることに成功したことだ。2015年10-12月の政府の負債残高のGDP比率(負債残高を直近1年間の名目GDPの合計で割る)は242.9%となり、2015年1-3月期のピーク(246.4%)から3四半期連続で低下している。
3四半期連続の低下はバブル崩壊直後の1991年10-12月期以来となり、政府の負債残高のGDP比率が膨張から縮小への転換点に来ている可能性がある。アベノミクス1.0は停止した状態であるため、アベノミクス2.0をスタートさせ、この改善の流れを止めず、加速させることが日本経済復活のために急務だろう。
会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト
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