ビットコインなど仮想通貨の動向-仮想通貨の「光」と「陰」

ビットコインなど仮想通貨の動向-仮想通貨の「光」と「陰」
ビットコインなど仮想通貨の動向-仮想通貨の「光」と「陰」(写真=PIXTA) (ZUU online)

■要旨

ビットコインなど仮想通貨への規制について、資金決済法などの改正案が2016年3月4日に国会に提出され、2016年5月25日に成立した。

この改正案は、ビットコイン業者であるMt.Gox社の破綻(2014年2月)や、G7での仮想通貨に対する規制の提言(2015年6月)などを踏まえ、仮想通貨交換業者に対する登録制、情報の安全管理義務、利用者への情報提供義務、利用者の財産の分別管理義務などを新たに導入したものである。

仮想通貨には、通貨と同様の流通性、送金手数料の低廉性・迅速性などのメリットがある一方で、価格が不安定であることや、マネーロンダリングなど犯罪の温床になりかねないことなどがデメリットとされている 。

仮想通貨最大の規模となっているビットコインを中心に、これまでの経緯や現状の分析を通じて、仮想通貨の「光」と「陰」を明らかにしたい。

■はじめに

ビットコインなど仮想通貨への規制について、資金決済に関する法律(資金決済法)などの改正案が2016年3月4日に国会に提出され、2016年5月25日に成立した。

この改正案においては、仮想通貨交換業者に対する登録制、情報の安全管理義務、利用者への情報提供義務、利用者の財産の分別管理義務などが新たに導入されている。

仮想通貨についての法整備は、ビットコイン業者であるMt.Gox社の破綻(2014年2月)や、G7での仮想通貨に対する規制の提言(2015年6月)などが背景となっている。

仮想通貨の約9割を占めるビットコインの概念は2008年10月、Satoshi Nakamoto(中本哲史)により、はじめて紹介された。

2009年に実際の運用が開始され、2011年2月にはビットコインの市場価格が初めて1ドルを上回り、現在の相場は約600ドルとなっている。

通貨と同様の流通性、送金手数料の低廉性・迅速性や、投資商品としての魅力、取引についての匿名性の高さなどがビットコインのメリットとされているが、一方で、価格が不安定であることや、マネーロンダリングなど犯罪の温床になりかねないことなどがデメリットとされている(*1)。

本レポートでは、仮想通貨において最大の規模となっているビットコインを中心に、これまでの経緯や現状を分析・報告することとしたい。

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(*1)岡田仁志、高橋郁夫、山崎重一郎『仮想通貨 技術・法律・制度』、東洋経済新報社、2015年6月、畠山久志「ビットコイン(BITCOIN)について(1)」『New finance』Vol.45No.7、地域金融研究所、2015年7月。
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■ビットコインの誕生とこれまでの歴史

◆Satoshi Nakamoto(中本哲史)によるビットコインの概念の紹介(2008年10月)

2008年10月31日、Satoshi Nakamoto(中本哲史)による論文“Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System"[ビットコイン:P2P(ピアトゥピア)の電子マネーシステム]により、ビットコインの概念がはじめて紹介された(*2)。

ビットコインとは、「公開鍵暗号によるデジタル署名のチェーン(連鎖)」であり、取引は、P2P(ピアトゥピア)、すなわち一対一の電子署名により行われ、この取引記録は第三者により承認される。

ビットコインには発行主体・管理主体がないが、第三者による取引記録の承認(一定の単位で取引がまとめられ、「ブロック」として保管される)により、データ改ざんによる偽造や二重使用が回避されている[なお、第三者による取引記録の承認に対しては一定のビットコインが付与され(ビットコインの新規発行)、一般に「採掘」と呼ばれている]。

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(*2)Satoshi Nakamoto “Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System"、 bitcoin.orgホームページ。なお、2016年5月には、オーストラリアの起業家がビットコイン考案者と名乗り出たが(「『自分がビットコイン考案』豪起業家が名乗り 英BBCなど報道」『日本経済新聞』、2016年5月2日)、真偽は不明。
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◆ビットコインの発行(2009年)と取引の拡大

こうしたビットコインの概念に賛同した研究者やプログラマーなどの有志がプロジェクトを結成、プログラミングを行い、2009年、ビットコインが初めて発行された。

第三者による取引記録の承認に対するビットコイン新規発行額は、当初の21万ブロックまでは、1ブロックごとに50ビットコイン、つぎの42万ブロックまでは、半分の25ビットコインが付与される。

このように、第三者による取引記録の承認(採掘)に対するビットコインの新規発行額は、21万ブロックごとに半減するように設定されており、現在の発行残高は1300万コインを超えている。

一方、ビットコインの最小単位は、0.00000001 ビットコインと設定されていることから、692万9999番目のブロックでビットコインの新規発行ができなくなり、その時点の発行残高は約2100万コインとなることから、ビットコインの発行総量は約2100万コインと予想される。

また、第三者による取引記録の承認は、1ブロック当たり約10分を要することから、全体の692万9999ブロックを乗じた約132年後に最後のビットコインが発行されることとなる(*3)。

ビットコインは当初、商取引に使用されることはなく、研究者やプログラマーなど一部の者が保有するに過ぎなかった(なお、Satoshi Nakamotoは、自分の身元を明かすことなく2010年にプロジェクトを去ったとされている)(*4)。

2010年5月18日、米国フロリダ州のLaszlo Hanyeczと称するプログラマーがピザ2枚を1万ビットコインで買いたいとのリクエストをビットコインフォーラム(ビットコイントークホームページ)に投稿したところ、同人より5月22日に取引が成立したとの報告があった(*5)。

このピザ2枚(約25ドル相当)の1万ビットコインでの購入が、ビットコインを使用した最初の商取引とされ、5月22日はBitcoin Pizza Dayと称されている(その後のビットコイン相場の高騰により、2013年12月には、「コンピュータープログラマーが600万ドルで2枚のピザを購入」などと報道されている)(*6)。

2009年に、トレーディングカード(鑑賞やゲームのためのカード。交換や収集が行われる)の交換所として設立されたMt.Gox(Magic: The Gathering, Online eXchangeの頭文字、マウント・ゴックス)社は、2010年7月17日、ビットコインの取引を開始した(本社は東京の渋谷)。

2011年2月9日には1ビットコインが1ドルとなり、ビットコインの発行額は5300万コインに達した。同年6月には30ドルまで上昇したが、Mt.Gox社のハッキング被害を受け、下落した。

2013年3月のキプロス金融危機(*7)に際し、通貨ユーロへの信頼は低下し、欧州投資家がビットコインを購入したことから、ビットコイン相場は急上昇し、2013年年初に1ビットコイン13ドルだったものが、2013年4月11日には100ドルとなった(*8)。

2013年10月、中国のネット検索大手の百度(バイドゥ)がビットコインを決済通貨として採用したことから、人民元に対して不満を感じる中国人が、投機目的もあり、ビットコインを買い、市場価格は急上昇し、同年11月末には1ビットコインが一時1242ドルとなった(*9)。

しかしながら、同年12月5日、中国人民銀行など関連5部門は、財産権と公共の利益の保護と金融の安定性の維持に向け、人民元の法定通貨としての地位を維持するとともに、マネーロンダリングのリスクを防止するために、金融機関に対しビットコインを用いた金融商品や決済サービスの提供、ビットコインの通貨との両替禁止、ビットコイン関連事業への保険提供の禁止などを通知した。

また、ビットコイン関連サービスを提供するウェブサイトについて、当局への登録を義務付け、マネーロンダリング防止に向けた監視対象とするとともに、利用者は個人情報を開示のうえ、実名で登録することが求められた(*10)。

このような規制導入の背景には、格安な手数料での人民元のビットコインを経由した他国口座への送金によるマネーロンダリングなどがあったとされ、通達によりこうした事態は根絶された(*11)。

この通達後、人民元建てビットコイン相場は、わずか1日で60%以上も値下がりした。

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(*3)「大石哲之のビットコインの仕組み入門(1) ビットコインの発掘とは実際には何をしているのか?」、「大石哲之のビットコインの仕組み入門(2)ビットコインの発行上限と、採掘量が減っていく仕組み」、日本デジタルマネー協会ホームページ。
(*4)「よくある質問」、bitcoin.orgホームページ。
(*5)Laszlo "Pizza for bitcoins?"(2010年5月18日)、bitcointalk.orgホームページ。
(*6)" How a programmer paid $6M in Bitcoin for two pizzas and other tales from the digital currency mine"(2013年12月22日)、venturebeat.comホームページ。
(*7)2013年3月16日、EUがキプロスに対して100億ユーロの金融支援を行う条件として、キプロス自身にも資金調達をするように促した。具体的には、キプロスの全預金に対し、10万ユーロ超の部分については9.9%、本来、預金保険の対象となる 10万ユーロ以下の部分についても6.75%を課税し、58億ユーロ捻出を目指したが、キプロス議会は3月19日、同課税法案を否決し、3月28日以降、キプロスでは1日当たりの預金引き出し額を300ユーロに制限したり、定期預金の解約が禁止されるなど、金融業界は大混乱に陥った(小林敏雄「ユーロの憂鬱」『国際通貨研究所ニュースレター』、2013年5月)。
(*8)小野将司「ビットコインの概要と海外の動向について」『警察学論集』第67巻第6号、2014年6月。
(*9)「ビットコイン、ギークが育てた無国籍通貨」『日本経済新聞』(2013年12月29日)、「広まるビットコイン、貨幣になる日は来るか 日本でも利用者が増加。仮想通貨の実体と今後は?」『週刊東洋経済』(2014年2月19日)。
(*10)「人民银行等五部委发布关于防范比特币风险的通知」(中国人民銀行など関連5部門、ビットコインのリスクの防止に向けた通知を発出)、工業情報省(工业和信息化部)ホームページ、「中国人民銀行、ビットコインに警鐘―フランス中銀も」『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2013年12月6日)。
(*11)大石哲之「なぜ中国人はビットコインを買い漁ったのか?ビットコインをつかった送金の具体的な手口」『BLOGOS』(2013年12月6日)。
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◆Mt.Gox社の破綻

2014年2月7日、Mt.Gox社は、ビットコインからドルや円などへの換金などの取引を停止した。

同社は「換金の注文増加に対して技術的な対応が遅れている」と説明し、逐次最新状況を公表するとしたが、同日、ビットコイン相場は658ドルと前日比で約16%安い水準まで下げた(*12)。

さらに同年2月11日、ビットコイン取引所である「ビットスタンプ」(スロベニア)と「BTC―E」(ブルガリア)もサイバー攻撃により一時的に取引ができなくなり、ビットコイン取引のシステム上の脆弱性が浮き彫りとなった(*13)。

2014年2月25日、Mt.Gox社のサイトがアクセス不能となり(*14)、翌日アクセスは復活したものの取引停止が当面続くことを告知するにとどまり、利用者に不安が広がった(*15)。

2014年2月28日、Mt.Gox社は、東京地裁に民事再生法の適用を申請し、同日受理された。

顧客保有分の75万ビットコインおよび自社保有分10万ビットコイン(Mt.Gox社によれば、114億円程度。当時の取引価格である1ビットコイン=550ドル前後で計算すると、470億円前後)が消失し、ビットコイン購入用の顧客からの預り金も最大28億円程度消失していたことが判明した。

ビットコインおよび顧客からの預り金の消失で負債が急増、資産総額38億4187万円に対し、負債総額65億112万円と約26億円の債務超過状態に陥った結果、民事再生法の申請に至ったものである。

Mt.Gox社の顧客は12万7000人、その大半は外国人で、日本人は0.8%、約1000人であった。

Mt.Gox社は、ビットコイン消失の原因として、2月初旬にシステムの不具合(バグ)を悪用した不正アクセスが発生し、ビットコインが盗まれた可能性が高いと説明した(*16)。

2015年1月には、警視庁の解析の結果、消失した約65万ビットコインのうち、Mt.Gox社が説明してきた外部からのサイバー攻撃による消失は全体の約1%の約7000ビットコインで、残りの約64万3000ビットコインはシステムの不正操作によって消失した疑いが強いと報道された(*17)。

当局の捜査により、2015年8月1日、Mt.Gox社のマルク・カルプレス社長が社内システムを不正操作し、自身名義の口座残高を100万ドル分水増ししたとして逮捕された(*18)。

同年10月28日には、顧客が預けた2000万円を着服したとして再逮捕された(*19)。

2016年7月14日には、マルク・カルプレス社長が保釈された。東京地裁で公判前整理手続が続いていると報道されている(*20)。

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(*12)「ビットコイン価格急落 大手取引所、換金・引き出し一時停止」『日本経済新聞』(2014年2月8日)。
(*13)「仮想通貨の取引所にサイバー攻撃―現金交換を一時停止」『共同通信』(2014年2月12日)。
(*14)「ビットコイン取引所アクセス不能―世界最大級、利用者不安」『共同通信』(2014年2月25日)。
(*15)「DJ-ビットコインのMt.Gox、取引停止続く―サイトは再開」『ダウ・ジョーンズ米国企業ニュース』(2014年2月26日)。
(*16)「民事再生手続開始の申立てに関するお知らせ」(2014年2月28日)、Mt.Gox社ホームページ、「マウントゴックス破綻 ビットコイン114億円消失」『日本経済新聞』(2014年2月28日)。
(*17)「ビットコイン不正操作 消失の99% 無断取引か 警視庁解析」『読売新聞』、2015年1月1日。
(*18)「ビットコイン消失で逮捕 取引所社長、口座改ざん容疑」『日本経済新聞』、2015年8月1日夕刊。
(*19)「『ビットコイン』社長再逮捕 顧客の2000万円着服の疑い」『日本経済新聞』、2015年10月28日夕刊。
(*20)「取引所運営の社長保釈 ビットコイン消失事件」『日本経済新聞』、2016年7月15日。
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■日本におけるビットコインの規制の動向

◆ビットコインに関する当初の政府見解(2014年3月)

Mt.Gox社取引停止を受け、2014年2月25日、大久保勉参議院議員(民主党)から、ビットコインについての質問主意書が参議院に提出された。

これについて、2014年3月7日、政府は答弁書を閣議決定し、

「ビットコインについては、特定の発行体が存在せず、各国政府や中央銀行による信用の裏付けもない等の特徴を有するとされているものと理解しているが、政府として、その全体像を把握しているものではないこと」

「ビットコインは通貨ではなく、それ自体が権利を表象するものでもないこと」

などと回答した(*21)。

さらに、2014年3月10日、同じく大久保勉参議院議員からビットコインについて再質問主意書が提出され、政府として、必要な関係法令を整備する時期の目処はあるかなどについて質問されたが、「法令整備の有無、時期について、現時点において、政府として確たることは申し上げられない」などと、今後の規制の方向性は示されなかった(*22)。

また、2014年4月9日、日銀の黒田総裁は、定例記者会見でビットコインは通貨ではなく、一般的な決済手段とはなっていないとした上で、規制は政府の問題であると回答している(*23)。

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(*21)「ビットコインに関する質問主意書」(2014年3月7日現在)、参議院ホームページ。
(*22)「ビットコインに関する再質問主意書」(2014年3月18日現在)、参議院ホームページ。
(*23)「総裁記者会見要旨」(2014年4月8日)、日本銀行ホームページ。
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◆自民党IT戦略特命委員会資金決済小委員会の中間報告(2014年6月)

2014年6月19日、自民党IT戦略特命委員会資金決済小委員会は、「ビットコインをはじめとする「価値記録」への対応に関する【中間報告】」を発表した。

同中間報告においては、これまで仮想通貨、暗号通貨と呼ばれていたものを、通貨でも物でもない、新たな分類に属するものとして、「価値記録」と定義した上で、

「ビットコインをはじめとする価値記録のやり取りはビジネスにおける新たなイノベーションを起こす大きな要素となりうる」

として、価値記録の交換を利用者の自己責任に帰す一方で、既存の規制で縛りつけることをできるだけ避けることを前提としたルールを確立することを提言した。

また、当時の価値記録に対する各国の対応状況として、

・容認する国家として、税制上の取扱を明確にした5か国(スウェーデン、シンガポール、ノルウェー、カナダ、ドイツ)
・黙認する国家として、2か国(イギリス、アメリカ)
・警告する国家として、3か国(キプロス、香港、インド)
・禁止する国家として、4か国(ロシア、中国、ブラジル、タイ)

を例示した上で、日本も同様に自己責任の原則の下で、価値記録の「採掘」、「交換」、「交換所への価値記録・金銭預託」につき、特段の規制をかけない方針とした。

さらに、出資法、銀行法、犯罪収益移転防止法の適用対象とはならないとしている。

課税方針としては、通貨と価値記録の交換、価値記録と物・サービスの交換、価値記録同士の交換に対して消費税を課税し、価値記録によるキャピタルゲインに対しても課税するとしている。

一方で、価値記録関連ビジネスの振興・課題解決を目的とした業界団体を設立し、当該団体による交換所ガイドライン(届出制、本人確認、情報開示、セキュリティ)策定を促している(*24)。

提言を受け、2014年9月、日本価値記録事業者協会[JADA、2016年4月に日本ブロックチェーン協会(JBA)へ改組]が設立され、2014年10月14日、「JADA自主ガイドライン概要」を策定・公表している(*25)。

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(*24)「ビットコインをはじめとする『価値記録』への対応に関する【中間報告】」(2014年6月19日)、Active ICT JAPANホームページ。
(*25)「JADA自主ガイドライン概要」(2014年10月14日)、一般社団法人日本価値記録事業者協会ホームページ。
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◆金融審議会スタディ・グループ、ワーキング・グループによる検討(2014年10月~)

2014年9月26日、金融担当大臣から金融審議会に、決済業務の高度化などに関する諮問が行われ、これを受け、同年10月9日、「決済業務の高度化に関するスタディ・グループ」が設置された。

同スタディ・グループにおいては12回の審議を経て、2015年4月28日、「決済業務の高度化等に関するスタディ・グループ中間整理」を公表し、

「仮想通貨等、新たな形態の決済手段についても、その利用実態や犯罪その他不正利用の可能性、国際的な規制の動向も踏まえた上で、対応のあり方について、必要に応じ、検討していくことが考えられるのではないか、との指摘があった」

とされた(*26)。

この中間整理の取りまとめを受け、スタディ・グループは、ワーキング・グループに改組し、さらに審議を進めた(2015年7月23日第1回開催)。

第1回ワーキング・グループにおいては、中間整理後の新たな動きとして、2015年6月のG7エルマウサミットにおいて、仮想通貨について、テロ資金対策として各国は適切な規制を含めた更なる行動を取ることが合意されたことが指摘されている(*27)。

また、各国での規制状況についても紹介している(たとえば、米国ニューヨーク州においては、2014年7月、仮想通貨会社向け規制として、顧客資産保護、マネーロンダリング防止、サイバーセキリュリティープログラムの策定など「ビットライセンス規制」を公表、意見公募(*28)、2015年6月、意見公募を踏まえた成案を策定した(*29))。

同ワーキング・グループにおいては、7回の審議を経て、2015年12月22日、「決済業務等の高度化等に関するワーキング・グループ報告」を公表した。

仮想通貨については、

・取引の状況(2015年11月時点でビットコイン取扱業者は世界で約10万、1日当たり取引件数は約17万件、時価総額は約52億ドル)

・マネー・ローンダリングやテロ資金供与対策の国際的要請(2015年6月G7エルマウサミット)

・ビットコイン業者であるMt.Gox社の破綻(2014年2月)

を踏まえた、利用者の保護やマネロン・テロ資金供与対策に向けた新たな規制の導入を提言した(*30)。

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(*26)「金融審議会『決済業務等の高度化に関するスタディ・グループ』中間整理の公表について」(2015年4月28日)、金融庁ホームページ。
(*27)「金融審議会『決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ(第1回)』」(2015年7月23日)、金融庁ホームページ。
(*28)" NYDFS RELEASES PROPOSED BITLICENSE REGULATORY FRAMEWORK FOR VIRTUAL CURRENCY FIRMS "(2014年7月17日)、ニューヨーク州金融サービス局ホームページ。
(*29)" Final BitLicense Regulatory Framework "(2015年6月24日)、ニューヨーク州金融サービス局ホームページ。
(*30)「金融審議会『決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ』報告の公表について」(2015年12月22日)、金融庁ホームページ。
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◆仮想通貨に関する法案の成立(2016年5月)

こうした提言を受け、「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」の一部として、仮想通貨に関する資金決済法および犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)の改正案が2016年3月4日に第190回国会に提出され、2016年5月25日に成立した。

この法律は、公布の日(2016年6月3日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとされている。

資金決済法第2条においては、仮想通貨は、

「(1)物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」

または

「(2)不特定の者を相手方として(1)に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」

と定義されている。

仮想通貨の売買や管理を行う仮想通貨交換業者に対しては、登録制の導入(同法第63条の2~7)、情報の安全管理義務(同法第63条の8)、利用者への情報提供義務(同法第63条の10)、利用者の財産の分別管理義務(同法第63条の11)、裁判外紛争解決制度(いわゆる金融ADR制度)の設定(同法第63条の12)などを定めている。

また、マネロン・テロ資金供与規制のため、犯罪収益移転防止法が改正され、仮想通貨交換業者に対し、口座開設時の本人確認、本人確認記録・取引記録の作成・保存、疑わしい取引の当局への届出義務などが課された(*31)。

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(*31)「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律(平成28年3月4日提出、平成28年5月25日成立)」『国会提出法案(第190回国会)』、金融庁ホームページ。
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■おわりに

資金決済法や犯罪収益移転防止法などの改正による仮想通貨に対する規制導入の最大の目的は、マネロン・テロ資金供与規制と消費者保護である。

たとえば、ロシア・中国などでの仮想通貨禁止は、アングラマネーなどのビットコインを経由した他国口座への安価な手数料での送金によるマネーロンダリング防止のために打ち出された。

東京渋谷に本拠を置くビットコイン業者Mt.Gox社の破綻は、顧客の大半は外国人であったものの、社長が顧客資金を横領したなどの容疑で逮捕され、仮想通貨に対する信頼を大きく損なう事件となった。これらは、仮想通貨の「陰」の部分といえる。

一方、仮想通貨には、金融分野の技術革新であるFintech(フィンテック)としての「光」の部分もある。

第一に、技術の革新性である。

ビットコイン技術の核心はブロックチェーン(取引履歴の連鎖)であり、その転々流通の仕組みは、「社会インフラストラクチャーの1つとして利用できる可能性を持っている」(*32)と指摘されている。

仮想通貨については、金融業界では三菱東京UFJ銀行がさまざまな取組を行っていると報道されており、とくに「MUFGコイン」(*33)と称される独自の金融サービス構想は、仮想通貨のブロックチェーンによる流通性に着目したものといえよう。

第二に、ビックデータとしての活用の可能性である。

仮想通貨に関する膨大な取引履歴は、決済行動の分析やマーケティングなどに大きく貢献しうる(*34)。

第三に、低コストであることである。

たとえば、海外送金については、現在銀行での通貨の送金では一件当たり数千円のコストを要しているが、仮想通貨の海外への移転については数十円程度であり、通貨における為替変動や、仮想通貨における価格変動および通貨への換金の際の手数料を除外して考えれば、顧客の負担は軽くなる。

銀行での取組みは、これまでの銀行特有の重厚長大なシステムに代えて、「ブロックチェーンを使うことで、コストを削減できた分だけ顧客の負担を軽くできる」35ものと評価されている。

銀行のほか、証券会社や保険会社など金融業界全般が顧客との膨大な取引データを維持・管理しており、効率的なシステム構築によって、顧客に対して低コストでサービスを提供できる可能性がある36。

このようなさまざまな可能性を秘めた仮想通貨について、規制導入を契機に、「光」と「陰」の両面を踏まえ、消費者保護や利便性向上を優先した健全な発展を期待したい。

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(*32)岡田仁志、高橋郁夫、山崎重一郎『仮想通貨 技術・法律・制度』前掲。
(*33)「三菱UFJ銀、独自の仮想通貨を開発中 コスト減へ期待」『朝日新聞』(2016年2月1日)、「三菱UFJ、独自の仮想通貨発行へ 一般向けに来秋」『朝日新聞』(2016年6月10日)。
(*34)岡田仁志、高橋郁夫、山崎重一郎『仮想通貨 技術・法律・制度』前掲。
(*35)真壁昭夫「三菱UFJ銀行、ひそかに一大計画推進・・・『莫大なカネ食い虫』巨大システムを捨てる日」『Business Journal』(2016年7月5日)。
(*36)ニュースリリース「日立と三菱東京UFJ銀行が、シンガポールにおいて小切手の電子化を対象としたブロックチェーン技術活用の実証実験を実施」(2016年8月22日)においても、小切手の電子化について、「ブロックチェーン技術の応用により、システム投資コストを低減しつつセキュリティを確保した利便性の高い金融サービスの実現」が期待できるとしている。
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小林雅史(こばやし まさし)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 上席研究員

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