
消費税というと、「消費税率の引き上げは、家計の負担増になるから反対だ」というように、受益面を考慮せずに負担面のみ語られる傾向がある。
しかし、地方公共団体(都道府県、市区町村)にとっては、消費税は地方行政サービスを提供するうえでの重要な財源である。そのため、税率だけでなく、国と地方、また個別地方公共団体間における税収配分の仕方も大きな論点となる。
現行の仕組みでは、東京都に地方消費税の配分額が偏り過ぎているという批判が一部ではなされており、12月8日に公表された与党の平成29年度税制改正大綱においては、配分基準の見直しが盛り込まれた。では、地方消費税配分額の東京都偏重は本当であろうか。本稿では、地方公共団体への税収配分状況(*1)に焦点を当てて、消費税の実態について紹介する。
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(*1)以下、各都道府県の税収額を比較する際は、都道府県と域内の市町村の合計額で比較した。
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■地方消費税とは
消費税は1989年4月に税率3%で導入され、その後1997年4月に5%、2014年4月に8%へ引き上げられ、現在に至っている。一方で、少子高齢化が進む中で、地方における社会保障財源を確保するという目的のもと、5%への引き上げ時に創設されたのが地方消費税である。
普段意識することが少ないかもしれないが、実は我々が支払っている消費税には地方消費税分が含まれている。5%の際には1%分、8%の現在は1.7%分が、地方消費税として、地方の財源となっている。つまり、いわゆる消費税率の8%とは、厳密には国税である消費税率6.3%分と地方消費税率1.7%分を合計したものを指している。
地方消費税は、事業として行った商品の販売、サービスの提供等の国内取引や外国貨物の引取りに対して課税される道府県税で、国税である消費税と一体のものとして、まず国に申告納付される。その後清算を経て、地方消費税分について最終消費地である都道府県に払い込まれ、さらに払い込まれた額の2分の1が当該都道府県から域内の市町村に交付金として配分される。
平成26年度決算においては、地方消費税は道府県税の約20%を占めており、地方公共団体にとって大きな財源となっている。
■地方消費税の配分の偏りについて
では、清算後の各都道府県への地方消費税の配分はどのようになっているのであろうか。図表4は、H27年度決算における都道府県別人口1人当たりの地方消費税の配分額を比較したものである。全国平均を100とすると、最大値は東京都の130.4であり、東京都の1人当たり地方消費税配分額は最小値の沖縄県の約1.6倍である。
しかし、沖縄県を除いて見ると、税収配分の偏りは必ずしも都市部と地方部の間で生じているのではなく、むしろ、都市部間で生じており、その中でも特に東京都が突出していることがわかる。例えば、東京都近郊の埼玉県、千葉県、神奈川県は、1人当たりの消費支出に対する1人当たりの地方消費税の配分額が相対的に少ない。この原因は、清算基準のウェイトの75%を占めている財・サービスの販売額基準および同10%を占めている従業者数であると言われている。
端的に言えば、前者は、(埼玉県民の他都道府県での消費額)>(他都道府県民の埼玉県での消費額)という構図になっており、埼玉県から他都道府県、特に東京都へ消費が流出していることを意味している。
後者は、(埼玉県民のうち他都道府県への通勤者数)>(他都道府県民のうち埼玉県への通勤者数)という構図になっており、埼玉県から他都道府県、特に東京都への通勤者数が多いため、埼玉県民の従業者数が東京都においてカウントされていることを意味している。
これらは千葉県や神奈川県についても同様であり、消費の流出先や従業者のカウントが東京都に集中する結果、東京都への配分額が突出するとされている。つまり、地方消費税配分額が過度に東京都に偏っている原因は、財・サービスの販売額基準や従業者数という清算基準が必ずしも適切ではないことにある(*2)と指摘できる。これらの清算基準に対する批判は以前からなされており、人口のウェイトを上げるべきだという意見もある。
今般、与党の平成29年度税制改正大綱において、清算基準におけるウェイトを、人口基準は15%から17.5%、従業者数基準は10%から7.5%とする変更案が盛り込まれた(*3)。この清算基準の変更は、配分額の東京都偏重の解消に一定程度寄与すると考えられる。
一方で、地方税全体について同様の比較を行うと、最小値に対する最大値の倍率で見た1人当たりの税収額の格差は、地方消費税の1.6倍よりもはるかに大きく、2.6倍もある。税目別に見ると、地方法人二税(*4)の6.1倍を始めとして、すべての税が地方消費税を上回っている。
以上の事実を踏まえると、清算基準によって、地方消費税配分額が過度に東京都に偏っているといえる現状において、基準を変更することは配分額の東京都偏重の解消に一定程度寄与すると思われるが、そもそも地方消費税の1人当たりの税収額の格差は他の地方税と比較すると相対的に小さいことを認識しておくべきであろう。
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(*2)沖縄県が最小値となっているのは、人口1人当たりの財・サービスの販売額や従業者数が相対的に少ないからだと考えられる。
(*3)その他にも、インターネット販売等による通信販売額が本社所在地で集計されているため、配分額が都市部に偏る要因になっているという批判があり、平成29年度税制改正において、通信販売額を集計額から除外する方針が示されている。
(*4)地方法人二税とは、企業が都道府県や市町村に納める法人住民税>と法人事業税の2税を指す。
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■地方交付税を通じた消費税の地方への配分について
地方公共団体にとっての財源という意味では、8%の税率のうち、地方消費税率(1.7%)分に加えて、国税である消費税率分(6.3%)分も一定割合が、地方交付税を通じて地方に配分されていることも考慮する必要がある。地方交付税は、国税である消費税の一定割合を財源とすることが定められているからである。
具体的には、8%のうち、6.3%(国税である消費税率)×22.3%(消費税に係る交付税法定率)≒1.4%が交付税を経由する分となっており、地方消費税率1.7%と合わせて約3.1%が実質的な地方の取り分となっている。そのため、消費税の地方の取り分については、交付税1.4%分を、地方消費税分に合算した総額でも比較するべきである。
図表7(*5)は、都道府県別人口1人当たりの地方消費税額及び国税である消費税に由来する地方交付税の合計額を比較したものである。全国平均を100とすると、最大値は島根県の215.4、最小値は神奈川県の56.8、最小値に対する最大値の倍率は約3.8倍となり、地方消費税のみでの比較より税収格差は拡大している。内訳を見ると、地方消費税は神奈川県が50.7、島根県が55.0と大きな差はないが、消費税に由来する地方交付税は神奈川県が6.1、島根県が160.4と交付税部分で大きな差が生じている。
このように、消費税の実質的な地方への配分状況には、地方交付税の特色が色濃く反映されており、地方消費税との合計ベースで見た人口1人当たりの金額は地方部が都市部を大きく上回っており、東京都についても全国平均をかなり下回っている。
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(*5)試算に際しては、各都道府県の地方交付税額に、地方交付税総額に占める消費税(国税)由来分の割合を乗じるという簡便な方法を採用した。利用可能な最新データは、地方消費税がH27年度決算ベース、地方交付税がH27年度予算ベースであるため、これらを利用した。
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■まとめ
現在、一部でなされている地方消費税の配分額が過度に東京に偏っているという批判について、確かに清算基準によって適切な配分がなされていない部分があるため、平成29年度税制改正において基準を変更することは配分額の東京都偏重の解消に一定程度寄与するだろう。しかし、国税である消費税に由来する地方交付税分を合わせた消費税の実質的地方分で比較すると、東京都は全国平均を下回っており、地方消費税の清算基準のみを変更した場合、かえって配分が適正でなくなる可能性もあるだろう。
また、地方公共団体間の税収配分の地域的な偏りは、比較する税目によって、様相が大きく異なるため、税収配分の地域的な偏りを小さくするにあたっては、どの税目をもって判断するのか、どの程度の偏りであれば許容するのか、そのうえでどのように対応するのか、というような丁寧な議論が必要だと考える。
したがって、地方消費税について議論することは重要であるが、地方消費税の清算基準のみの変更に留まることなく、その他の税目を含めた包括的な議論を引き続き期待したい。
神戸雄堂(かんべ ゆうどう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部