野口悠紀雄の「ブロックチェーン」講義 第2回「2つのブロックチェーン」

■新ビジネスが続々と立ち上がりつつある

あらゆるビジネス、組織の在り方、さらには私たちの働き方にまで本質的な変革をもたらすという「ブロックチェーン」。

野口悠紀雄氏による前回の講義では、ブロックチェーンへの注目度を一気に高めた日本のメガバンクによる独自の仮想通貨構想が、実はブロックチェーンとは似て非なる「まがいもの」を用いていることが指摘された。

それは一体、どういうことなのか。この問題を考えることで、ブロックチェーンという革新的技術がどんな考え方で成り立っているのかをより深く理解できるはずだ。

■プライベートブロックチェーンは「まがいもの」?

――前回、「銀行が独自に進めている仮想通貨発行は、確かにブロックチェーンを使っているが、ここまで説明してきたブロックチェーンとは似て非なるものだ」というお話をうかがいました。具体的にはどういうことなのでしょうか。

野口 前回、その仕組みを解説したブロックチェーンは、誰が入っているかわからない、誰でも自由に入れるコンピュータの集まりによって運営されるというものでした。ビットコインの場合には、世界中で7千から1万のコンピュータが参加していると言われています。このように、誰でも自由に入れるブロックチェーンは「パブリックブロックチェーン」と呼ばれます。

これに対して、三菱東京UFJ銀行などが行なおうとしているのは、「ネットワークに入るコンピュータを自分たちが決める」というものです。そして、ブロックチェーン全体を自分たちがコントロールする。誰もが自由に入ることのできるP2Pとはまったく違います。これは「プライベートブロックチェーン」と呼ばれます。

プライベートブロックチェーンは、ネットワークに含まれるコンピュータの数が少ない。たとえば、日本取引所グループがプライベートブロックチェーンを証券業務に応用する実証実験を行っていますが、参加しているコンピュータは10台以下です。

――パブリックブロックチェーンとプライベートブロックチェーンの差は、参加しているコンピュータの台数ということなのでしょうか。

野口 そもそも、根本思想が違います。ブロックチェーンは、これまでインターネット上では不可能だった「信頼の確立」を可能にしたと言いました。ブロックチェーンという仕組みがあり、そこに十分に多いコンピュータが参加していることで、悪いことをしようとしても割に合わなくなる。だから信頼できるというのが、パブリックブロックチェーンが起こした「革命」です。何を信頼しているかというと、ブロックチェーンの仕組みを信頼しているのです。

一方、プライベートブロックチェーンでは、「三菱東京UFJ銀行は悪いことをやらないだろう」「日本取引所は悪いことをやらないだろう」という、企業や組織への信頼がベースとなります。これは「amazonのサイトだからクレジットカード情報を入力しても大丈夫だろう」という、従来のインターネット上での信頼の仕組みとまったく同じです。

――つまり、組織を信用しなければならない、ということですね。

野口 そうです。社会革命と呼ぶべきパブリックブロックチェーンに対して、プライベートブロックチェーンを「革命」と呼べるかどうかは疑問です。両者はまったく違うものです。ただ、新聞などの報道・解説で、その点が指摘されることはあまりありません。

■マウントゴックス破綻で証明された「ビットコインの信頼性」

野口 ブロックチェーンが革新的なのは、「組織を信頼しなくても、信頼できる事業ができる」からです。たとえばビットコインは今まで、一度も事故を起こしていません。

――そう言われるとどうしても、2014年にビットコイン取引所がサイバー攻撃を受けビットコインを盗まれ、引き出し停止に追い込まれた「マウントゴックス事件」を思い出してしまうのですが……。

野口 確かに、あの事件でビットコインの信頼性が失われたと、多くの人が考えているでしょう。マウントゴックスが破綻すると、大新聞は「ビットコインは破綻した」と報じました。

ただ、これは大きな間違いです。マウントゴックスはあくまで「円やドルをビットコインに替えるための両替所」に過ぎなかったからです。マウントゴックスが破綻したからといって、ビットコインの信頼自体はまったく揺らいでいないのです。

たとえるなら、現金輸送車がギャングに襲われて現金が強奪されたことに対して、「日銀券の価値がなくなった」「日銀のシステムはもはや破綻した」と言うようなものです。

――確かに、現金輸送車一台分のお金が奪われたからといって、日銀券への信頼はびくともしません。

野口 そうです。そして、そのことが逆説的にビットコインの価値を示しているとも言えるのです。「泥棒は価値があるものしか盗まない」――これを私は泥棒の第1法則と呼んでいます。第2法則は、「泥棒は自分が盗んだらダメになってしまうものは盗まない」。

ギャングが現金輸送車を襲うのはまさに、日銀券の価値を認めているからであり、自分たちが盗み出しても日銀券は無価値にならないという確信があるからです。ビットコインも同じで、「盗んだらビットコインが破綻する」と思ったら、誰もそんなものは盗まない。ビットコインの価値を認めているからこそ、盗んだのです。

■あらゆるリスクをヘッジできる時代が来る?

――ブロックチェーンがどういうものなのか、かなり理解できたような気がします。ただ、これがどのようにビジネスに応用できるのか、まだ具体的にイメージできないのですが……。

野口 すでにブロックチェーンを用いて行なわれている事業はたくさんあるのですが、興味深いものを一つ上げるとすると、「市場予測」があります。将来の出来事について賭けをする市場のことです。たとえば、「アメリカ大統領選でどちらが勝つか」に賭けて、勝てばお金をもらえるというものです。

こうした予測市場は昔からありますが、これまで解決されなかった大きな問題があります。それは、「胴元が不正をしないか」ということです。胴元が賭け金を懐に入れたり、結果を操作したりするという可能性を完全に排除することは難しい。

この問題を、ブロックチェーンによって解決することができます。ブロックチェーンを使えば、そもそも胴元のいない予測市場が可能になるからです。

ブロックチェーンを用いた予測市場はすでにアメリカでいくつか登場しています。代表的なものが「Augur」で、オッズの計算や賭け金の預かり、配当の支払いをブロックチェーンを使って進めていくので、誰かが不正を働くことはできません。

たとえばある人が「安倍政権は2年後も続いているかどうか」を賭けにしましょうという提案をする。それに対して、「続いている」と思う人、「続かない」と思う人がそれぞれお金を賭ける。その賭け率の計算から配当まで、ブロックチェーンを用いた仕組みによって自動的に進められていくのです。なお、結果の認定は外部の人間が参加して行ないます。

──つまり「管理者がいない」からこそ、誰も不正を働かないわけですね。

野口 予測市場は単なるギャンブルではありません。ビジネスにおいて、実にさまざまな応用範囲が考えられます。

たとえば、ビットコインは価格変動が大きいことがリスクだと言われます。そうであれば、予測市場で賭けをすればいい。たとえば「1年後のビットコインの価格は500ドルを下回るかどうか」という賭けを提案し、「500ドルを下回る」に賭けるのです。

1年後、本当にビットコインの価格が下がったら、そのぶんは損をします。けれども、予測市場では勝って配当を受け取ることができます。価格が上がれば賭けた分は損するけれども、値上がり分を享受できます。どちらにしても、大幅な価格変動による資産価値の変動を回避することができるのです。

――これは「先物取引」によるリスクヘッジと同じように思います。

野口 そのとおりです。金融の世界では、これと同じことがすでに古くから行なわれています。たとえば天候不順によるリスクを緩和するため、先物取引で農作物の価格を固定しておくといったものです。デリバティブやオプション、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)といった金融商品は、不確実性に対するヘッジの手段です。

ただし、先物市場がある分野は限られています。予測市場を使えば、あらゆるリスクをヘッジできる可能性が出てくるのです。

■シェアリングエコノミーのカギを握る技術とは?

野口 ブロックチェーンのビジネスへの応用として、もう一つ重要だと思われるのが「シェアリングエコノミー」の分野です。

その典型的な例が、Slock.itというドイツのスタートアップ企業です。この会社が行なっているのは、「スマートロック(電子キー)」の開発です。

宿泊場所の提供者(ホスト)と宿泊場所を探している旅行者(ゲスト)をつなぐマッチングサービスのエアビーアンドビー(Airbnb)は、すでに全世界で多くの人に使われています。ただ、ここで問題になるのが、鍵の受け渡しです。自宅に近い部屋を貸す場合はいいのですが、遠く離れた部屋や別荘を貸す場合はどうするか。

ここで必要なのが「スマートロック」です。ゲストがホストからの入金を確認したら、ホストはゲストのスマートフォンに情報を送り、それにより部屋の鍵が開く。情報が鍵になるわけです。

他にも、カーシェアリングへの活用や、Uberのような仕組みを使ってスマートフォンで自動運転のタクシーを呼び乗り込む際の鍵としても使うことが可能でしょう。

スマートロック自体は、従来のインターネットの仕組みでも実現可能です。ただし、鍵という性質上、セキュリティは重要な問題であり、どうしてもコストが高くなる。Slock.itはブロックチェーンを活用することで、スマートロックのコストを大幅に下げようとしているのです。

――確かに、不特定多数の人が同じものを共有するシェアリングエコノミーの世界においては、まさに鍵を握る技術です。

野口 Slock.itは、まだ実際に事業を稼働させているわけではなく、試作品のようなものがある段階です。それでも昨年の初めに、Slock.itの仕組みを使うために必要なコインを今から売り出すという、IPO(Initial Public Offering)ならぬ「ICO」(Initial Coin Offering)を行ないました。それにより集まった資金はなんと1.6億ドル。仕組みを考えただけで、160億円が集まったのです。

――資金集めの方法からして、今までとは違う「ブロックチェーン的」なものが感じられます。

野口 もう一つ、とても重要なことがあります。ブロックチェーンで仕組みを動かしているということは、仮にSlock.itのメンバーが全員死んでしまったとしても、システム自体は動き続けるということです。つまり、経営の必要がない。それが、ブロックチェーンによって現実になりはじめている新しい組織の形、「DAO」です。

――ブロックチェーンによって「組織の在り方も変わる」とおっしゃっていたのが、まさにこれに当たるのですね。

(次回に続く)

野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問/一橋大学名誉教授
1940年、東京都生まれ。63年、東京大学工学部卒業。64年、大蔵省入省。72年、イェール大学Ph.D(経済学博士号)取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2011年より現職。著書に、『「超」整理法』(中公新書)、『超「超」整理法』(講談社)など、ベストセラー多数。(取材・構成:川端隆人 写真撮影:長谷川博一)(『The 21 online』2017年02月13日公開)

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2017年2月26日の経済記事

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