「暴言王」トランプ氏の英語はなぜ米国人の心を捉えたのか?

「暴言王」トランプ氏の英語はなぜ米国人の心を捉えたのか?
「暴言王」トランプ氏の英語はなぜ米国人の心を捉えたのか?(写真=The 21 online) (ZUU online)

■日本人にも真似できる説得力ある話し方の技術

「暴言王」と呼ばれながら、大方の予想を覆して米国大統領に当選したドナルド・トランプ氏。彼の発言は、なぜ多くの米国民の支持を受けたのか? トランプ氏が使う英語の特徴を、長年トランプ氏をウォッチし続けてきた浅川芳裕氏にうかがった。

■あえて簡単な単語のみを使う

英語では、音節の少ない単語を多く使っているほど、わかりやすい話をしていると判断されます。トランプ氏が、あるインタビューで、質問への回答に使った22単語をユーチューブ番組『Nerdwriter1』が分析したところ、78%が1音節、17%が2音節でした。合計すると9割を超えます。1音節の単語は「I」「go」など、2音節の単語は「problem」などで、日本の中学生でも馴染みがあるような簡単なものです。

3音節の単語は「remember」を1回、「tremendous」を3回使っているだけ。tremendousは「ものすごい!」「とてつもない!」「とんでもない!」という意味です。米国人もあまり使わないのですが、トランプ氏は強調語としてあえてよく使っています。

4音節の単語は、「temporary(一時的な)」と、地名の「California」だけ。カリフォルニアは地名なので使わざるを得ません。もう1つの「temporary」は日本の高校で習うレベルですが、トランプ氏はこの単語を発した瞬間、すぐに飲み込みました。「まずい! 使わないことにしている長い単語を使ってしまった」という感じでした。そして、ミスを帳消しにしようと、いきなり別の話に移ったのです。きわめて意識的に短い単語を選択している表われです。

また、「リーダビリティーテスト」という手法による分析によると、トランプ氏のスピーチに出てくる単語は米国の小学4年生レベルだということです。ヒラリー・クリントン氏は中学2年生レベル、サンダース氏は高校2年生レベルでした。

スピーチ中のセンテンスの長さの調査でも同様の結果になっています。トランプ氏は6単語という短いセンテンスを一番多く発しているのに対して、ヒラリー氏は12単語と倍の長さです。

このように簡単な単語と短いセンテンスしか使わないのは、トランプ氏に教養がないからではありません。アリストテレスが『弁論術』に「聞きなれぬ言葉を使うな」と書いているように、シンプルに話したほうが人を説得できるからです。

■詳細を言わずに「感情」に訴える

トランプ氏の英語は構文もシンプルです。たとえば移民問題について話すとき、普通なら「The problem we face today is that……(今日、我々が直面する問題は……)」などと話し始めるでしょうが、トランプ氏は「We have a real problem.(大問題がある)」と端的に断定します。そして、その問題に聞き手の注意を向けるため、「Look at what happened in Paris.」と命令形を使います。

この表現はシンプルでわかりやすいだけではありません。「パリ連続テロ事件」といったニュース的な表現をしたり、具体的な説明をしたりせずに、聞き手に想像をさせていることがポイントです。そして、「There's atremendous hatred out there.(そこにあるのはとてつもない憎しみだ)」と感情に訴える表現を続ける。こうすることで、聞き手は無意識のうちにトランプ氏のペースにはまってしまうのです。

感情に訴えるために、トランプ氏はツイッターでも独特の単語の使い方をしています。その代表的な単語がSadです。敵対する人やメディアの言動をツイートしたうえで、文末を「Sad!」で締めくくるのです。「悲しい」という意味ではありません。自分に敵対する人やメディアを「みじめな存在」として位置づけ、侮蔑的な意味を込めた間投詞として使っているのです。

演説でよく使うdisaster(災難)という単語も、同様に独特です。トランプ氏の論敵や対抗馬のヒラリー氏、またオバマ政権がやってきた行為に対して使っています。TPP撤退声明で「TPPはdisasterだ」と発言しましたが、トランプ氏が伝えたいことは「自分の登場によって災難は終わり、明るい将来がやってくる」ということ。それを印象づけるために、他人がやってきた過去をすべて「災難」と位置づけているのです。

■「リフレーミング」で批判を無効化する

聞き手を自分の世界観に引き込んでいくための手法を、トランプ氏は他にもいろいろと駆使しています。

たとえば、形容詞の最上級を使った「アンカリング」。心理効果の一種です。「The media is the most dishonest people.(メディアは最も不誠実な人たちだ)」と繰り返し発言したり、ヒラリー氏を「worst secretary of state in the history of the United States(米国史上最悪の国務長官)」と決めつけたりすることで、自分の都合の良いように聞き手の思考の枠組みを操作するのです。聞き手が少しでもメディアやヒラリー氏に不信感を持っていれば「トランプ氏は言いたいことを代弁してくれている」と感じてしまうわけです。

こうした極端な発言をすると、当然、批判を受けます。そのときに、「自分が持っている世界観は、あなたよりも広いのだ。より高い視点を持っているのだ」と示すことによって反論する「リフレーミング」が、トランプ氏の最大の得意技です。

たとえば、「私はたくさんの人から(政治的に正しくないと)指摘を受ける。率直に言って、私には『完全な政治的な正しさ』にかまっている時間なんかないんだ。もっとはっきり言えば、この国にもそんなことにかまっている時間はないんだ」という発言。「政治的に正しくない」という批判に対して、「いや、そんなことはない」と反論するのではなく、議論の土俵を国全体に変えてしまっているのです。

「あなたは信じられないほどの『文句たれ』ですね」と批判されたときは、「そうなんです。私は文句たれです。私は勝つまで文句を言い続けます。私はこの国のために勝利します。米国を再び偉大な国にするために」と答えました。相手の批判を全肯定したうえで、プラスに変えてしまっています。

日本人にはリフレーミングなどの説得術が苦手な人が多く、とくに英語で話すとなると、なかなか相手を論破できません。

英語で相手を説得するためには、さまざまな単語や表現を覚えて、論理的に話せるようにならなければならないと思っている人が少なくないのかもしれませんが、トランプ氏の英語を見ればわかるように、自分の世界観についてしっかりとした「フレーム(枠組み)」を持っていれば、簡単な単語と簡単な構文だけでも、とてつもない説得力を持った英語を話すことは可能なのです。

「自己主張ができない日本人」にならないよう、トランプ氏の話術を参考にしてみてはいかがでしょうか。

■まだまだある! トランプ氏の特徴的な話術

(1)繰り返し

Look, the problem is we need toughness. Honestly, I think Jeb is a very nice person. He's a very nice person. But we need tough people. We need toughness. We need intelligence and we need tough.

そう! 問題は、我々にはタフさが必要だということだ。率直に言って、ジェブはとても良い人だと思う。彼はとても良い人だ。しかし、我々に必要なのはタフな人たちだ。タフさが必要なのだ。我々には賢さが必要だし、タフさが必要だ。(2015年12月15日、CNN共和党討論会)

「タフ(toughness、tough)」はトランプ氏がよく使う単語。ここでは4回繰り返している。同じ単語を繰り返すと聞き手の脳裏に刻み込まれ、その単語に親近感を覚えるようになる。広告でもよく使われる手法だ。

(2)あえて明言しない

We have a president who doesn't have a clue. I would say he's incompetent,but I don't want to do that because that's not nice.

我々の大統領は何をやっているのか自分でも見当がついていない。無能だと言いそうになるが、そうは言うまい。感じが悪いからね。(2016年8月6日、CNN共和党討論会)

誰かを批判するとき、その相手を明確に名指ししないことで逆に際立たせる「陽否陰述」のテクニックもよく使う。ここでは、「a president」はオバマ氏のことだと誰にでもわかるのだが、名前は出さない。しかも、「そうは言うまい」と言うことで、それが一番言いたいことだと暗示している。そのうえさらに、「言わない自分は良いヤツだ」ということまで付け加えることを忘れない。incompetent(無能だ)は、政治家が論敵を批判するときによく使う単語。トランプ氏はより簡単な「stupid」を代わりに使うことも多い。

(3)対立候補にあだ名をつける

Crooked Hillary has continually placed Washington D.C. special interests' priorities over the interests of everyday Americans.

「心が歪んだヒラリー」は長年、米国人一般の利益よりワシントンに巣食う既得権益を優先させてきた。(公式選挙キャンペーンサイト)

「心が歪んだヒラリー」と繰り返し呼ぶことで、聞き手はヒラリーを偏見を持って見るようになり、「ヒラリー+犯罪」でネットを検索したりするようになった。Crookedは、文脈によっては「身体が歪んだ(体調が悪い)」というイメージもあるので、健康問題を抱えたヒラリー氏にはいっそう効果的な悪口だ。共和党内の対立候補テッド・クルーズ氏には「Lyin' Ted(嘘つきテッド)」というあだ名をつけた。キリスト教右派からの支持を受けるクルーズ氏の信仰心は嘘であるというイメージをつけるためだ。支持者と一緒にリズム良く唱和できるよう、綴りは「Lying」ではなく「Lyin'」だと念押ししていた。

浅川芳裕(あさかわ・よしひろ)農業ジャーナリスト
1974年、山口県生まれ。カイロアメリカ大学(AUC)中東史学科、カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。英語、アラビア語通訳、ソニー中東新興市場専門官、『農業経営者』副編集長を経て、独立。農業経営コンサルタント。自身も田畑山林を保有、マネジメントする。『農業ビジネス』編集長、ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。著書はベストセラー『日本は世界5位の農業大国』(講談社+α新書)、『TPPで日本は世界一の農業大国になる』(ベストセラーズ)、『日本よ!《農業大国》となって世界を牽引せよ』(共著、ヒカルランド)など多数。訳書に『国家を喰らう官僚たち アメリカを乗っ取る新支配階級』(新潮社)。近著に『ドナルド・トランプ 黒の説得術』(東京堂出版)がある。(取材・構成:前田はるみ 写真撮影:まるやゆういち)(『The 21 online』2017年02月13日公開)

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