ギリシャの年金、更なる削減は可能か?~これまでの取組みも評価すべきでは~

ギリシャの年金、更なる削減は可能か?~これまでの取組みも評価すべきでは~
ギリシャの年金、更なる削減は可能か?~これまでの取組みも評価すべきでは~(写真=PIXTA) (ZUU online)

 7月6日に行われたギリシャの国民投票の結果を受けて、ギリシャとEUの間では新たな打開案の模索が続いています。7月8日の時点ではギリシャが9日までに財政緊縮案をまとめ、来週13日以降に年金改革などを前倒しで実施する模様です。

 筆者は6月29日の基礎研レターでギリシャの年金制度の概要について書きました。今回はギリシャが新たな年金改革に取り組むとの報道を受けて、これまでギリシャが取り組んできた年金制度改革の内容を整理するとともに、新しい改革の余地について考えてみたいと思います。

■2010年以降の取組み

 ギリシャの年金制度に対しては厳しい意見が多く、実際に数多くの問題を抱えていたのは否定できません。しかしながら、財政改革の取組みが始まった2010年以降の年金制度の推移をみると、ギリシャも全く無策だった訳ではないことが分かります。

 まずはその具体的な取組み内容を確認しておきたいと思います。この整理にあたっては、2015年3月に公表されたレポート「TheGreekPensionReformStrategy2010-2014Aleapforward」を参考にしています。

(1)年金受給開始年齢の引上げ

 2010年に年金受給開始年齢を65歳に引上げたのに続き、2012年には更に67歳に引上げています。この水準は他のEU諸国並みと言ってよいと思います。なお、ギリシャでは2021年から年金受給開始年齢を65歳時点での平均余命によって調整することも決まっています。

 但し、これがどのような効果をもたらすかははっきりしていません。また、以前には35年間の加入歴があれば、年金は満額支給されていましたが、この期間も40年間へと拡大しています。

(2)年金額を決める基礎数値の厳格化

 ギリシャでは、年金額を決める際の大きな要素として、働いていたときの平均賃金と1年間ごとの年金確定率があります。このうち前者については、退職直前5年間の平均賃金から生涯の平均賃金に変更されました。

 多くのケースで生涯平均賃金は退職前5年間平均を下回ることが予想されます。また後者については、以前の年2~3%から0.8~1.5%へと大幅に引き下げられました。年金確定率が下がれば、年金の満額水準が低下することになります。

(3)年金額のスライド幅に上限(CPI)を設定

 以前は経済大臣の決定に委ねられていた年金額の物価スライド幅については、物価上昇率以下に抑えることとなりました。また、2010年から2014年の間、物価スライドは見送りとなっています。

(4)危険職種従事者に対する優遇の見直し

 これまでギリシャには危険職種の従事者に対する年金の早期退職優遇制度(10年の就労で年金を満額受け取ることができる)がありました。

 但し、その対象者の中には製菓業・理容業といったものが含まれており、技術の進歩等を反映していないと従来から批判されていたものです。この制度の見直しにより、優遇制度の対象者は3割程度減少したと言われています。

(5)社会保障番号(AMKA)の稼動

 これまで個人ごとの年金受給額を正確に把握できていないことが問題視されていましたが、社会保障番号制度を活用することでより正確なデータの把握が可能になったようです。

(6)不正の取り締まり強化

 どこの国にもあることだと思いますが、年金の掛金拠出に伴う不正、そして年金の受給に際しての不正も大きな問題でした。このうち前者については従業員数やその賃金に関する申告に偽りがあった場合には、1万ユーロ(約130万円)の罰金がルール化されました。

 その結果、2013年の秋以降は、それまで減少傾向であった従業員数が純増(新規採用者数-退職者数)に変わっています。また後者については先に挙げた社会保障番号の導入に伴い、同番号を申告しない年金受給者に対する支払いを停止する等の措置をとり、二重受給などの防止に努めています。

(7)年金への課税強化

 年金については、従来12,000ユーロ(約156万円)まで非課税となっていましたが、2012年にはこれが9,000ユーロ(約117万円)に引き下げられました。

(8)年金の返還要請

 上記(2)で触れたように、以前の制度の元では高い年金確定率を使うことにより年金額が高くなっていました。こうした年金の受給者に対して、その年金の一部を返還するよう求めることも行われています。

 上記の他にも取り組んでいるのですが、これ以上の紹介は省略します。こうした取組みはEUなどのトロイカの指導によるものですが、ギリシャが色々な努力をしてきたものと受け止めてよいのではないでしょうか。

■取組みの成果

 次にこうした努力がどのような形で表れてきたかについて整理してみます。

(1)一人当たりの年金額

 これまで述べたような努力の結果、プライマリーペンション(年金の中心となる部分)は通常のケースで20%、最大で40%の削減になったと報告されています。特に年金額の高い層(月額1,700ユーロ、約22万円以上)の受給者の減少が顕著です。

 年金額が月額1,600ユーロ(約21万円)以下の層については、その総数に変化は無いものの、右のブロックから左のブロックへの移動があまねく生じているのではないかと考えます。

(2)年金支出額

 次にこうした取組みの結果、年金制度の支出規模の変化を提示しているのが図2です。これは2010年と2013年当時の見通し(財政改革無しの場合)及び2013年に導入した財政改革案の計画値とその実績を重ねたものです。少なくとも2013年までの実績を見る限りでは努力の成果を確認できます。

(3)対GDP年金支出比率

 ギリシャの財政危機がクローズアップされる以前から、GDPと比べてギリシャの年金制度の規模が大きすぎることは問題視されていました。

 2007年当時の推計では、年金制度を当時のまま放置した場合、年金支出総額(対GDP)は、11.7%から24.1%まで上昇すると予測されていました。その後2010-2013年の推計では足許の比率は上昇傾向にあるものの、2060年に向けては14%程度で安定するという見通しになっています。

(4)所得代替率

 所得代替率には複数の定義があります。ここで見るのはOECDの手法によるもので、平均的な就業者の平均生涯賃金とそれに基づく年金額の比率です。ギリシャの場合、2010年の数値では、所得階層に関係なく95.7%と極めて高い値になっていましたが、2012年の数値では、所得階層が高いほど代替率が下がるという一般的な姿になっています。

 こうしてみると、2010年以来取り組んできた年金制度の改革は、それなりの成果をもたらしたように思います。ただ前回のレポートにも書いた通り、この改革を上回るスピードでギリシャ経済の疲弊が進んでしまったことがここ数ヶ月の混迷の原因となっています。

■更なる削減は可能か?

 ギリシャは今後、人口の減少とそれに伴う労働人口の減少、更に高齢化に伴う65歳以上の老齢人口比率の上昇が進むと予想されています。

 従ってこれまで以上に年金が社会保障制度の中心として重要な役割を果たすことになります。しかしながら経済活動の停滞、失業率の上昇等の影響によって年金掛金の減少も、2011年の176億ユーロ(約2兆2,800億円)から2014年の113億ユーロ(約1兆4,700億円)と著しいものがあります。

 新聞の報道等によれば、EUは年金関連の支出を対GDPで更に1%削減することを求めているようです。これまで実施されている財政改革案では、年金関連支出は2015年の233億ユーロ(約3兆300億円)から2018年の242億ユーロ(約3兆1,460億円)への増加が予想されていました。

 仮にこの数字からGDPの1%削減するということになると、新たに18億ユーロ(約2,340億円)の削減という計算になります。既に、年金受給者の約45%が貧困水準を下回る年金しか受け取っていないという状況を考えると、この要求は相当な重みを持つように見えます。EUとギリシャの間でこれからどのような解決策が見出されるのか注目したいと思います。

前田俊之
ニッセイ基礎研究所 金融研究部

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