日本経済復活への必要条件は名目GDPの拡大?SG証券チーフエコノミスト・会田氏

日本経済復活への必要条件は名目GDPの拡大?SG証券チーフエコノミスト・会田氏
日本経済復活への必要条件は名目GDPの拡大?SG証券チーフエコノミスト・会田氏(写真=Thinkstock/Getty Images) (ZUU online)

 名目GDPが縮小していることを最大の問題と考え、まずその拡大を目指すリフレ政策であるアベノミクスの方向性は正しいと考える。成長戦略・構造改革の成功、イノベーション、生産性の向上、企業の競争力・収益力の向上、家計の所得・生活水準の向上、財政再建、そして社会の安定、即ち日本経済の復活には、名目GDPが拡大していることが必要条件であると考えられるからだ。

 名目GDPが拡大しているほうが、イノベーションや生産性の向上につながる企業のリスクテイクは容易であり、成長戦略・構造改革の推進に不可避に伴う負担も軽減することができるし、もちろん総賃金の拡大にともなう消費者心理の改善にもつながる。リフレを経ず、復活へひとっ飛びには行けないことが、デフレという改革の負担の大きい環境で政策を失敗し続けたこの20年間の教訓だろう。

 名目GDPの拡大は物価上昇も意味し、デフレ完全脱却とほぼ同義である。そして、国民の所得の増加とほぼ同義である。

 消費税率引き上げは、社会保障と税の一体改革で決定されたもので、財政や社会保障制度に関する家計の将来不安を和らげる効果、すなわち「安心効果」があり、消費にはポジティブに働くというのが政府・日銀のロジックだった。しかし、その「安心効果」はまったく確認できず、昨年4月の消費税率引き上げは拙速で、景気を冷やし、デフレ完全脱却への障害となってしまった。

 その理由は、経済と所得の拡大なくしては、どれだけ社会保障制度を改革しようとしても、家計の「安心効果」は期待できないからだ。もちろん、リフレ政策による名目GDPの拡大が、日本経済の復活の十分条件ではないことは、リフレ政策を主張するエコノミストの誰もが認識しているだろう。しかし、必要条件である以上、名目GDPの拡大にまず取り掛からない限り、日本経済の復活は期待できない。

■アベノミクスの一次評価は合格

 現在、名目GDPが拡大を始めており、名目GDP成長率(膨張の力)が国債10年金利(抑制の力)をトレンドとして上回り始めている。バブル期以来はじめての大きな局面変化となっており、膨張の力が抑制の力を上回り日本経済のリフレイトする力が強くなることは、その必要条件がようやく満たされつつあることを意味する。

 必要条件が満たされ、日本経済の復活につながる成長戦略・構造改革の成功、イノベーション、生産性の向上、企業の競争力・収益力の向上、家計の所得・生活水準の向上、財政再建、そして社会の安定への挑戦を、これから本当の意味で始めることができるようになろう。

 日本経済の復活の必要条件を十分条件に変えることができるかどうかは、日本国民が衰えておらず、不断の挑戦心と創造性をまだ持ち合わせているのかどうかが左右することになる。実質GDP成長率のトレンド(潜在成長率の上昇)、即ち日本経済の復活はその結果である。もし潜在成長率の上昇がなければ、リフレ政策による名目GDPの拡大は、大きなインフレ圧力のみ残る結果となり、実質所得は増加せず、日本経済の復活への試みは失敗となる。

 アベノミクスの成果は二階建てになっており、一階は名目GDPの拡大とデフレ完全脱却、そして二階は成長戦略の実行を含め実質GDP成長率の持続的拡大(潜在成長率の上昇)となり、一階部分が完成しなければ、二階部分の建設の動きは見えない。リフレ政策であるアベノミクスと本来無関係である拙速であった消費税率の引き上げや、輸出環境の弱さという外部要因により、実質GDPの振幅は大きい。

 一方、アベノミクスが始まった2013年以降、名目GDPは持続的にしっかり拡大し、一階部分の完成に向けた成果はあらわれている。4-6月期の実質GDPは前期比年率-1.2%と弱かったが、名目GDPは同+0.2%と1-3月期の同+8.9%の拡大の後としてはしっかりしている。

 2013年に始動したアベノミクスの前の2012年4-6月期と比較すると、2015年4-6月期までの3年間で名目GDPは5.0%拡大し、名目GDPに大きく依拠する企業収益も、これまでの構造改革の成果もあり、同期間で59.0%も拡大している。
 
 一次評価は実質ではなく名目GDPの拡大であり、アベノミクスは順調で、合格だ。まだ時間のかかる実質GDP成長率の持続的拡大という二階部分の完成が見えないからといって、アベノミクスの進展を過小評価してはいけない。
1階部分を早く完成させて、より挑戦的な2階部分の建設に進む必要がある。

■アベノミクスの新三本の矢

 安倍首相は、自民党総裁再選の正式決定の記者会見で、現在500兆円程度である名目GDPを600兆円に増やす目標を設定した。そして、アベノミクスの「新三本の矢」として、希望を生み出す強い経済(第一の矢)、夢を紡ぐ子育て支援(第二の矢)、そして安心につながる社会保障(第三の矢)を打ち出した。

 これまでの「三本の矢」である大胆な金融政策(第一の矢)、機動的な財政政策(第二の矢)、そして民間投資を促す成長戦略(第三の矢)は、新第一の矢に統合され、名目GDPの600兆円への拡大と実質所得の大きな増加を目指す。

 この新第一の矢の成功を前提として、安倍首相は「長年手つかずだった日本社会の構造的課題である少子高齢化の問題に真正面から挑戦」し、二階部分の建設にまい進する。新第二の矢は、出生率を現在の1.4程度から1.8程度の上昇させることや、子育て支援策と教育の再生など、少子化の流れに終止符を打つことを目指す。新第三の矢は、介護離職をゼロにするなど、高齢者だけではなく、医療・年金制度改革など現役世代の安心も確保する。

 安倍首相は、「50年後も人口1億人を維持し、より豊かで活力あふれる日本をつくる」という「国家としての明確な意思」を示したことになる。強い経済と社会基盤がなければ、国家安全保障の強化もできないというのが、安倍首相の考えのようだ。

■まずはこれまでの第一と第二の矢が再稼動

 アベノミクスの政策は、期待に働きかけて、企業活動を押し上げ、その力を使ってデフレ完全脱却に向かう枠組みである。景気の気(センチメント)の部分が、政策などに支えれて堅調なことが、デフレ完全脱却への動きの原動力となっている。

 堅調な景気の気の部分に対して輸出・生産・消費などの実体経済や物価の動きが弱いにもかかわらず、政府が補正予算による景気対策、日銀が追加金融緩和に動かず、2%の物価目標達成までの果断な政策コミットメントが疑われてしまうと、マーケットと企業の失望などにより期待が悪化し、デフレ完全脱却への原動力が失われてしまうリスクとなろう。

 昨年4月の消費税率引き上げによる消費者心理の萎縮や中国経済をはじめとした外部環境の不透明感など、デフレ完全脱却という1階部分の完成に向けた残り1マイルの道はぬかるんでいるようだ。

 それほど追加的なコストが大きくないにもかかわらず、最後の政策の一押しを怠ってぬかるみに足をとられ、デフレ完全脱却を失敗し続けた歴史があることを、政府・日銀はしっかり意識し、財政による景気刺激策や追加金融緩和を果断に実行し続ける必要があるだろう。
 
 来年夏の参議院選挙までにデフレ完全脱却宣言をすることを目指し、まずはこれまでのアベノミクスの第一の矢(金融政策)と第二の矢(財政政策)を早急に再稼動するとみられる。秋の臨時国会では、デフレ完全脱却への動きを促進する景気対策が実施され、経済政策へのコミットメントを国民に示し、不安感を払拭するだろう。

 10月には、「2%の物価安定の目標」を「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」には景気回復と物価上昇のペースが弱すぎることを確認し、物価上昇の停滞が期待インフレ率を押し下げるリスクにも配慮し、追加金融緩和が実施されると考える。
 
会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

あわせて読みたい

ZUU Onlineの記事をもっと見る

トピックス

今日の主要ニュース 国内の主要ニュース 海外の主要ニュース 芸能の主要ニュース スポーツの主要ニュース トレンドの主要ニュース おもしろの主要ニュース コラムの主要ニュース 特集・インタビューの主要ニュース

「アベノミクス + GDP」のおすすめ記事

「アベノミクス + GDP」のおすすめ記事をもっと見る

「アベノミクス + 雇用」のおすすめ記事

「アベノミクス + 雇用」のおすすめ記事をもっと見る

「アベノミクス + 賃金」のおすすめ記事

「アベノミクス + 賃金」のおすすめ記事をもっと見る

経済ニュースアクセスランキング

経済ランキングをもっと見る

コメントランキング

コメントランキングをもっと見る
2015年9月28日の経済記事

キーワード一覧

  1. アベノミクス GDP
  2. アベノミクス 消費税
  3. アベノミクス 賃金

このカテゴリーについて

経済、株式、仕事、自動車、金融、消費などビジネスでも役に立つ最新経済情報をお届け中。

通知(Web Push)について

Web Pushは、エキサイトニュースを開いていない状態でも、事件事故などの速報ニュースや読まれている芸能トピックなど、関心の高い話題をお届けする機能です。 登録方法や通知を解除する方法はこちら。