中期経済見通し(2015~2025年度)

中期経済見通し(2015~2025年度)
中期経済見通し(2015~2025年度)(写真=PIXTA) (ZUU online)

■減速が続く世界経済

◆世界経済は新興国中心に下振れ

 世界経済は中国をはじめとした新興国を中心に減速基調を強めている。米国、ユーロ圏などの先進国は比較的堅調に推移しているが、中国が工業部門を中心に減速しているほか、中国経済減速に伴う輸出の不振などからアジア新興国も成長率が低下している。また、ブラジル、ロシアなどの資源国では原油をはじめとした国際商品市況下落の影響から景気が悪化している。

 IMFの世界経済見通しでは、世界経済の成長率予想の下方修正が繰り返されている。たとえば、2015年の成長率見通しは2014年1月時点の3.9%から、2015年10月に公表された最新見通しでは3.1%まで下方修正されている。特に目立つのが新興国の急減速と見通しの下方修正幅の大きさだ。

 新興国経済の成長率はリーマン・ショックから持ち直した2010年には7%台まで高まったが、その後大幅に減速し2014年には4.6%となった。さらに、2015年の成長率見通しは2014年1月時点では5.4%だったが、最新見通しでは4.0%まで下方修正されている。一方、先進国はユーロ圏がマイナス成長となった2013年の1%台前半から2014年が1%後半、2015年が2%と徐々に持ち直している。

◆(新興国は相対的に高い成長を維持するが、伸び率は徐々に低下

 これまで新興国は世界経済の牽引役となってきた。世界経済に占める新興国の割合(ドルベース)は2000年の20%程度から一貫して上昇を続け2014年には39%となった。しかし、2015年はドル高の進行によって米国のウェイトが急速に高まる一方、新興国は現地通貨ベースの成長率の減速に加え為替が対ドルで大きく減価したため、世界経済に占める割合は低下することが見込まれる。

 先行きは新興国が相対的に先進国よりも高い成長を続けること、ドル高が一服することから新興国のウェイトは再び上昇傾向となり、世界経済に占める新興国の割合は今回の予測期間末である2025年には45%まで高まるだろう。

 国別には昨年度までは10年後には中国が米国を抜いて世界一の経済大国になると予想していたが、足もとのドル高、先行きの中国経済の成長率鈍化を見込み、10年後も米国が世界一の経済規模を維持するという見通しに変更した。一方、現時点では経済規模が日本の3分の1程度にすぎないインドはすでに人口が日本の約10倍となっていることに加え、先行きの人口増加率も日本を大きく上回ることから、予測期間末には日本のGDPを上回ることが予想される。

 新興国は先進国との比較では高成長を維持するものの、伸び率は徐々に鈍化していくことが避けられないだろう。潜在成長率を大きく左右する生産年齢人口(15~64歳)は先進国がすでに減少に転じている一方で、新興国は1%台半ばの伸びを維持している。

 しかし、中国が「一人っ子政策」の影響から2015年前後をピークに減少に転じることもあり、新興国全体の生産年齢人口も2050年には0%台前半まで低下することが予想されている(国連推計による)。このため、新興国の潜在成長率も先行きは徐々に低下していくことが見込まれる。

 2012年以降3%台の成長が続いている世界経済は景気の持ち直しに伴い2020年にかけていったん4%程度まで回復するが、潜在成長率の低下に応じて2025年にかけて3%台半ばまで成長率が鈍化するだろう。

■海外経済の見通し

◆米国経済-潜在成長率を上回る成長が持続

 2008年のリーマン・ショックを契機とする米国経済の落ち込みに伴い、潜在GDPと実際の実質GDPのギャップは2009年に7%(GDP比)に拡大した。米国では金融危機に対応して財政および金融政策等が総動員された結果、経済は2009年4-6月期を底に潜在成長率を上回る成長が持続しており、2015年のGDPギャップは3%程度まで縮小したとみられる。

 とくに2014年以降は、労働市場の回復が加速している。2014年の雇用者数の増加ペースは1999年以来の高さとなったほか、金融危機後に一時10%近かった失業率は5%近辺まで低下しており、FRBが雇用の最大化と整合的としている失業率の目標水準(4.9%)の達成が視野に入ってきた。

 雇用不安の後退から個人消費が堅調なほか、これまで回復が芳しくなかった住宅市場についても、住宅着工件数が100万件超と漸く家計増加数に見合うペースまで回復してきた。政策金利引上げに伴い、金融政策による景気刺激効果は低減が見込まれるものの、当面は消費主導で潜在成長率を上回る成長を予想する。

 一方、潜在成長率の推移をみると、金融危機前の2000年代前半に3%超だったものが、足元では1.5%程度まで低下したとみられる。米国でも高齢化の進展に伴い、労働投入の伸びが趨勢的に低下することで、潜在成長率は緩やかな低下が予想される。

 もっとも、今般の落ち込みは金融危機に伴い、労働市場の毀損や企業の設備投資抑制などの循環的な影響を大きく受けているとみられ、今後10年間では潜在成長率は2%程度と足元から小幅ながら加速が見込まれる。このため、成長率は予測期間末(2025年)にかけて潜在成長率並みの2.1%まで緩やかに低下すると予想する。

 この結果、今後10年間の平均成長率は2.4%と、金融危機が含まれる過去10年平均の1.4%からは加速が見込まれる。また、GDPギャップは2018年頃にはほぼ解消するとみられる。

 金融政策については、2008年12月以降継続されてきたゼロ金利政策の解除が近づいている。FRBは、好調な労働市場を背景に年内の利上げ開始に意欲を示している。さらに、金融危機後に痛んだ家計のバランスシートも、純資産が過去最高額となる水準に改善しており、金融政策の正常化推進を後押ししている。

 もっとも、もう一つの政策目標である物価についてはエネルギー価格の低迷が暫く持続するとみられることから、目標達成の時期は2018年頃を見込んでいる。このため、政策金利の引上げは2015年に開始されるものの、引上げペースは概ね年間1%程度と過去の利上げ局面に比べて緩やかとなろう。その後、政策金利は2018年に3.5%に到達した後、この水準が維持されると予想する。

 一方、経常収支は金融危機前には国内景気がやや過熱気味だったこともあり、GDP比で5%を超える赤字となっていたが、今後10年間でそのような状況は想定していないため、GDP比で2%台後半の赤字に留まると予想する。足元では中国や新興国経済の減速に伴う米経済への影響が懸念されている。当研究所では、中国経済のハードランディングを見込んでおらず、これら経済の減速が米経済に与える影響は大きくないとみている。

◆欧州経済-実質GDPは2016年初にはピークを回復、GDPギャップ解消は2018年

 ユーロ圏では、世界金融危機以降、長期不況が続いたが、2013年4-6月期以降、個人消費主導の緩やかな回復が続いている。欧州中央銀行(ECB)は、2014年半ばの踊り場局面で、追加利下げに動き、さらに2015年3月には国債等の買入れによる量的緩和を開始した。金融緩和の強化で、ユーロ高が修正されたこと、原油価格の低下、結びつきの強い米英経済の回復も、ユーロ圏の回復を支えている。

 2016年以降、原油価格下落の効果は剥落し始めるが、ユーロ安の効果は2017年まで続き、成長指向の財政政策も景気を下支える見通しだ。ユーロを導入している19ヵ国のうち、財政赤字が欧州連合(EU)の健全性の目安である名目GDPの3%を超える国は、2010年時点の16ヵ国から2014年には9ヵ国まで減少し、ユーロ圏全体の財政赤字は名目GDPの2.4%まで減った。今後も、中期財政目標の範囲内で法人減税や社会保障負担の軽減に動くなど成長指向を強める動きは続く見通しだ。

 実質GDPは2015年の前年比1.5%から2016年は同1.6%、2017年は同1.7%へと緩やかに加速する見通しだ。実質GDPの水準は、2016年初には世界金融危機前のピークを上回るが、GDPギャップの解消は2018年とまだ時間を必要とする。

 ECBは、量的緩和の期限を「2016年9月末または2%以下でその近辺の中期物価目標の達成が見通せるまで」としているが、向こう1年間にインフレ率の条件を満たすことは難しい。2016年10月以降も規模を縮小して、1年程度の量的緩和を継続するだろう。オペ金利で0.05%、預金金利はマイナス0.2%と異例の低水準にあるが、政策金利の見直しに動くのは、2018年末頃と想定する。予測期間末の政策金利は1.75%と、世界金融危機前の水準に比べて低い水準に留まると見ている。

 2016年から2025年までの予測期間を通した実質GDP成長率の平均は1.4%となろう。個人消費が、中期的にも成長の牽引力となるが、固定資本形成も、世界金融危機前のピークをおよそ15%下回る水準で底這ったままの状態から、着実な回復の軌道に乗ると想定した。債務危機拡大の局面では外需が成長に大きく寄与したが、向こう10年間はおおむね均衡した状態が続くと考えている。

 メインシナリオで想定するように、原油安やユーロ安などの要因が剥落した後も回復軌道を維持し、潜在成長率も持ち直して、異例の金融政策から脱することができるかどうかの鍵を握るのは投資の回復だ。債務危機に見舞われた国々を中心に、労働市場に関わる規制緩和など高コスト体質、構造的な硬直性を打破するための改革は着実に進展しているが、グローバルな競争が激化する中あって、継続的な取り組みは不可欠だ。

 銀行同盟の完成、資本市場同盟の推進など制度・規制面からの統合のベネフィットを高める取り組みも望まれる。中国経済が失速し、米国経済も低成長を余儀なくされるなど、外部環境が厳しく、しかも、ユーロ圏内での構造改革も進展しない場合、ECBは異例の金融緩和を長期にわたり維持せざるを得ず、潜在成長率の回復も遅れる。

 足もとでは、EUに内戦が続くシリアなどからの難民が大量に流入している。2015年の難民申請数は、前年の62.3万人を大きく上回る見通しだ。EUには過去10年間で平均して100万人を超える難民も含む移民が純流入し、人口の自然増のペースの鈍化を補ってきた。

 シリア難民の年齢構成は、EU全体の年齢構成に比べて若年層が占める割合が高い。難民危機はEUの人口増加率と年齢構成を変える。難民の急増は、社会的な緊張を高めるリスクを孕むが、教育や職業訓練制度、労働市場への統合に成功すれば、リスクを緩和し、潜在GDPの向上につながる。

◆中国経済-成長率は緩やかな減速傾向が続き5%前後へソフトランディング

 中国では、長らく続いた一人っ子政策の影響で生産年齢人口(15-64歳)の伸びが鈍化してきている。人口構成を見ると、これから生産年齢人口になる14歳以下の人口が少なく、生産年齢人口から外れてくる人口が多いことから、今後の生産年齢人口は2015年前後をピークに減少に転じ、経済成長にはマイナスのインパクトをもたらすだろう。また、従来の成長モデルに限界が見えてきたことも経済成長にはマイナスのインパクトをもたらす。

 文化大革命を終えて改革開放に乗り出した中国は、外国資本の導入を積極化して工業生産を伸ばし、その輸出で外貨を稼いだ。稼いだ外貨は主に生産効率改善に資するインフラ整備に回され、中国は世界でも有数の生産環境を整えた。この優れた生産環境と安価な労働力を求めて、工場が世界から集まって中国は「世界の工場」と呼ばれるようになった。

 こうして高成長を遂げた中国だが、経済発展とともに賃金も上昇、また中国の通貨(人民元)が上昇したこともあって、賃金上昇と人民元高で中国の製造コストは急上昇した。そして、より安く生産できる製造拠点を求めて中国から後発新興国へと工場が流出し始めたことで、中国では経済成長の勢いが鈍ってきている。

 一方、中国政府は従来の成長モデルに代わる新たな成長モデルを築こうと「構造改革」を進めている。具体的には、外需依存から内需主導への体質転換、労働集約型から高付加価値型への製造業の高度化、製造業中心からサービス産業の育成へなどである。こうした構造改革の実現には時間を要するものの、経済成長の安定には貢献すると思われる。

 また、中国で進められている「新型都市化」も経済成長の安定と向上にプラス貢献するだろう。農村から都市へと労働者が移動すれば、より生産効率が高い分野に労働力が配分されることになり、生産性向上が期待できるからである。これまでも中国では都市化が進んできたが、巨大都市への人口集中、環境問題の深刻化、都市戸籍を持たない農民工(出稼ぎ農民)の待遇など多くの問題も同時に生じた。

 農民工の待遇改善、中小型都市の開発、環境問題に配慮した都市化など質を重視した「新型都市化」を推進することで、より持続性の高い都市化の進展が期待できる。また、中国の都市化率(総人口に占める都市人口の比率)は2014年時点で54.8%と諸先進国と比べて低いことから、2025年には65%前後まで上昇させることは十分可能と思われる。

 こうした中で、中国政府は「新常態(ニューノーマル)」という旗印を掲げて、安定成長へ移行する方向に舵を切った。いま「新常態」へ舵を切れば、景気が失速しそうになった時にも、有効な景気対策を打てるだけの財政余力を残しているため、経済の急激な悪化(ハードランディング)は避けられる。しかし、このまま無理な高成長を続ければ財政余力が徐々に失われて、有効な景気対策が打てなくなる。

 もしハードランディングに至れば、中国共産党の政権基盤を揺るがす問題になりかねないという危機感もあるだろう。従って、中国政府は「新常態」を旗印として、第13次5ヵ年計画では成長率目標を6%台へ引き下げ、第14次5ヵ年計画でもさらに引き下げるだろう。そして、経済成長率は5%前後へと緩やかに減速(ソフトランディング)していくと思われる。

◆新興国経済-新興国は5%前後の成長へ

 新興国全体の今後10年の成長率は、既に述べた中国を含むBRICsを中心に過去10年の5%台後半から5%前後まで低下すると考えられる。2000年代前半のBRICsの高度成長は、中国・インドでは世界の工場および将来の消費市場としての魅力を背景に外国資本が流入したこと、ロシア・ブラジルでは世界的な資源需要の高まりと国際商品市況の高騰が貢献した。しかし、リーマン・ショック以降は資本流入が伸び悩んでいるほか、昨年急落した国際商品市況は回復が遅れる懸念もある。

 更に今後、先進国が金融緩和策から脱却するに連れて、これまで新興国市場に流入していた緩和マネーが徐々に縮小すると見込まれる。今後、潜在成長率を維持または向上していくには、中国・ロシア・ブラジルでは都市化や高付加価値産業の育成、またインドでは製造業を育成するために雇用法制や土地収用法、規制緩和などがカギを握るものの、こうした構造改革の実現には時間を要するだろう。

 また当該予測期間中の生産年齢人口(15-64歳)は、インド・ブラジルでは増加が続く一方、中国とロシアでは2015年前後に減少に転じると見込まれる。BRICsの今後10年の成長率は、過去10年の7%台半ばから5%台後半まで低下すると予想する。

 ASEANは、企業進出の上で重要視されるインフラや規制・制度環境の整備の遅れ、不正・汚職体質などの課題を抱える国が多い。しかし、ASEANはインフラや資本市場が整備されたマレーシア、産業集積が進んでいるタイ、内需が魅力のインドネシア、チャイナ・プラスワンで注目を浴びるベトナムやフィリピン、労働コストが安い後発新興国のCLM諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー)など多様な特徴を有する国の集合体であり、新興国の中では資本流入の面でやや優位になるだろう。

 さらに、2015年末に発足するASEAN経済共同体の下で統合深化が進めば、6億人の一大経済圏となる域内の生産活動が活発化し、消費市場としての魅力も更に高まることになる。しかし、ASEAN4(マレーシア・タイ・インドネシア・フィリピン)の潜在成長率は、BRICsや韓国・台湾と同様に高齢化や先進国との技術ギャップの縮小によって中期的には落ち込むと考えられる。その結果、ASEAN4の今後10年の成長率は、過去10年平均の4%台後半と同水準になると予想する。

 輸出主導の経済成長で高所得を達成した韓国や台湾などは、経済規模に比して輸出の割合が大きいために、今後も海外経済の動向に左右されやすい。海外経済は、先進国経済が過去10年平均に対して改善する一方、最大の輸出相手となった中国経済が緩やかに減速すると見込まれるため、韓国・台湾の輸出の牽引力は乏しい状況が続きそうだ。

 また韓国・台湾の生産年齢人口は2016年より減少に転じるほか、高齢化に伴って投資の源泉となる貯蓄も縮小していくことから労働生産性の伸び悩みも予想される。今後10年の成長率は過去10年平均の3%台半ばから2%台後半まで低下すると予想する。

■日本経済の見通し

◆デフレはほぼ脱却も、実体経済は低調

 安倍政権発足後、異次元緩和によって円安が大きく進んだこともあり、日本経済が約15年にわたって苦しめられてきたデフレからは脱却しつつあるが、実体経済はバブル崩壊後の長期停滞から完全に抜け出せたとは言い切れない。

 2013年度の実質GDP成長率は2.1%と潜在成長率を大きく上回ったが、2014年度は消費税率引き上げの影響もあって▲0.9%のマイナス成長となった。消費増税の影響が和らいだ2014年度後半は2四半期連続のプラス成長となり景気は持ち直しつつあったが、2015年4-6月期の実質GDPは前期比年率▲1.2%と再びマイナス成長となり、景気は足踏み状態となっている。

 消費税率引き上げ後の実質GDPを大きく押し下げているのは言うまでもなく個人消費だ。2014年度の実質民間消費は前年比▲3.1%の大幅減少となり、これだけで実質GDPは▲1.9%も押し下げられた。ただし、消費税率引き上げがなかった1990年代後半以降の約15年間についても個人消費は低迷を続けており、この主因は所得の伸び悩みにあった。家計の可処分所得の伸びは1980年代の年平均6%程度から1990年代が2%程度、2000年以降はほぼゼロ%と低下しており、これにほぼ連動する形で家計消費支出の伸びも鈍化傾向が続いている(*1)。

 企業収益は2012年後半以降の大幅な円安に2014年秋以降は原油価格の下落という追い風が加わったことで、製造業、非製造業ともに過去最高を更新している。しかし、企業の人件費抑制姿勢は根強く、賃金は伸び悩みが続いている。企業に滞留する余剰資金を家計に還流させることにより所得の増加を伴った消費の回復を実現することが重要である。

◆潜在的な需要の掘り起こしが重要

 需要と供給のミスマッチも日本経済の停滞が長期化してきたことの一因と考えられる。たとえば、マクロ的には需要不足の状態が続いている一方で、医療、介護、保育などの分野では満たされない需要が多く存在する。需要の大きい分野に十分なサービスが提供されていないため、本来あるはずの需要が顕在化せず、不必要な分野に過剰な供給力が残っている。このため、マクロ的な需給バランスは需要不足・供給過剰の状態が続いている。

 日本は高齢化の進展によってサービスへの需要が高まっており、企業もサービス産業を中心に高齢者の需要掘り起こしに向けた取り組みを進めている。しかし、現時点では高齢者の潜在的な需要に十分に対応できているとは言えない。OECD加盟国(先進国)について、高齢化率(65歳以上人口比率)とサービス産業比率(GDPに占めるサービス産業の割合)の関係を見ると、高齢化率が高いほどサービス産業比率も高いという傾向がある。

 日本のサービス産業比率は先進国の平均よりは高いものの、高齢化が先進国で最も進んでいる一方で、サービス産業比率は米国、英国、フランスなどよりも低い。このことは、高齢化の進展に伴い需要はモノよりもサービスにシフトしているにもかかわらず供給側がそれに対応しきれていないことを意味している。

 また、個人消費に占めるサービス支出の割合は上昇傾向が続いているが、そのうち娯楽・レジャー・文化、外食・宿泊といった選択的サービス支出の割合は近年むしろ低下している。内閣府の「国民生活に関する世論調査」によれば、今後の生活で重視したいものとして、「衣・食・住」や「自動車、電気製品などの耐久消費財」よりも、「レジャー・余暇生活」を挙げる人の割合のほうが高い一方、現在の生活に対する満足度は「レジャー・余暇生活」が最も低くなっている。

 高齢化の進展や家電製品の普及に伴う家事時間の減少などから、余暇(3次活動)時間が増えていることもあり、趣味、娯楽、旅行、スポーツなど選択的なサービス支出に対する潜在的な需要は大きく増えている。需要の拡大が期待される分野に供給力をシフトしていくことにより、潜在的な需要が喚起されるとともに、潜在成長率の上昇につながることも期待される。

◆女性、高齢者の労働参加拡大が鍵

 日本経済の長期低迷の要因として人口減少、少子高齢化の影響が挙げられることが多いが、経済成長率の低下に大きく寄与しているのは一人当たりGDPの伸び率低下のほうである。日本の実質GDP成長率を人口増加率と一人当たりGDPの伸び率に分けてみると、人口増加率は1970年代の1%台から1980年代が0.6%、1990年代が0.3%と徐々に低下した後、2008年をピークに長期にわたる減少局面に入っているが、変化のペースは緩やかである。

 これに対し、一人当たりGDPの伸びは1980年代の3.7%から1990年代が1.2%、2000年以降が0.8%と大きく低下している。人口減少や少子高齢化が経済成長の制約要因となることは確かだ。実際、生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに20年にわたって減少を続けており、団塊世代(1947~49年生まれ)が65歳を迎えた2012年以降は減少ペースが急加速している。ただし、生産年齢人口の減少が労働力人口の減少に直結するわけではない。

 労働力人口は1990年代後半から減少傾向となっているが、2005年頃を境に減少ペースはむしろ緩やかとなっており、2013年、2014年には2年連続で増加した。これは高齢者雇用安定法の施行によって高齢者の継続雇用が進んだことや女性の労働力率が大幅に上昇したためである。

 先行きについては、人口減少ペースの加速、さらなる高齢化の進展が見込まれるため、労働力人口の減少が続くことは避けられないが、女性、高齢者の労働力率を引き上げることにより、そのペースを緩やかにすることは可能である。

 人口減少、少子高齢化に伴う労働供給力の低下に対応するため、成長戦略(日本再興戦略)では、雇用制度改革・人材力の強化が重要課題のひとつとされている。このうち、女性の活躍推進に対応する目標は、子育て世代が労働市場から一時的に退出することによって生じる「M字カーブ」が解消する程度まで女性の就業率を引き上げるというものだが、M字カーブを解消しただけでは女性の潜在的な就業意欲を十分に引き出したことにはならない。

 女性の活躍を推進するうえで鍵となるのは、現在非労働力化している女性の多くを労働市場に参加させることである。非労働力人口は15歳以上人口のうち働く意思のない人(就業も求職活動も行っていない者)を指すが、非労働力人口の中にも就業を希望している人が相当数いる。2014年の非労働力人口は4489万人だが、このうち就業希望者が419万人、男性が116万人、女性が303万人となっている。

 就業希望者の非求職理由をみると、女性は「出産・育児のため」が101万人と全体の3分の1を占めている。実際の労働力人口に非労働力人口のうち就業希望者を加えて潜在的な労働力率を試算すると、25~54歳の年齢層ではいずれも80%を超えることになる。これが現実のものとなれば、M字カーブが解消されるだけでなく、全体として女性の労働力率がかなり底上げされることになる。

 近年、女性の労働力率は大幅に上昇しているが、注目されるのは、労働力率の上昇とともに潜在的労働力率も上昇している点である。このことは現時点の潜在的労働力率が天井ではなく、育児と労働の両立が可能となるような環境整備を進めることにより、女性の労働力率のさらなる引き上げが可能であることを示している。

 女性の労働参加拡大とともに重要なのは高齢者の継続雇用をさらに進めることだ。成長戦略では高齢者の活躍推進も掲げられているが、2020年までの数値目標は64歳までとなっている。少子高齢化がさらに進展する中では、将来的には65歳以上の高齢者も働かなければ労働供給力は大きく低下してしまう。

 今回の見通しでは、男性は60歳代の労働力率が現在よりも10ポイント程度上昇(60~64歳:77.6%(2014年)→87.5%(2025年)、65~69歳:52.5%(2014年)→61.4%(2025年))、女性は25~54歳の労働力率が70%台から80%前後まで上昇することを想定した。

 2014年時点の男女別・年齢階級別の労働力率が今後変わらないと仮定すると、2025年の労働力人口は2014年よりも516万人減少する(年平均で▲0.7%の減少)が、高齢者、女性の労働力率上昇を見込み、2025年までの減少幅は235万人(年平均で▲0.3%の減少)とした。

 日本の男性高齢者の労働力率は国際的にすでに高水準にあり、これ以上長く働くことは非現実的という見方もあるかもしれない。しかし、かつて日本の労働者(男性)は今よりも長く働いていた。1970年代前半まで男性高齢者の労働力率は60~64歳で80%台、65~69歳で65%程度で、現在よりも高い水準にあった。

 もちろん、当時は定年がなく健康状態に問題がなければ年齢と関係なく働き続けることができる自営業者の割合が高く、現在とは労働市場の構造が異なっているが、平均寿命が当時から10歳以上延びていることからすれば、今回の想定はそれほど非現実的とは言えないだろう。

◆予測期間中の潜在成長率は1%程度まで回復

 1980年代には4%台であった日本の潜在成長率は、1990年代初頭から急速に低下し、1990年代終わり頃には1%を割り込む水準にまで低下した。2002年以降の戦後最長の景気回復局面では一時1%を上回る局面もあったが、その後のリーマン・ショック、東日本大震災の影響もあって再び低下している。当研究所では足もとの潜在成長率を0.5%と推計している。

 潜在成長率を規定する要因のうち、労働投入による寄与は1990年代初頭から一貫してマイナスとなっているが、このところ女性、高齢者の労働参加が進んでいることなどからマイナス幅は縮小傾向にある。その一方で設備投資の伸び悩みを反映し資本投入による押し上げが小幅にとどまっているほか、雇用のミスマッチや設備の老朽化などからこのところ技術進歩率が急速に低下している。

 労働時間も加味した労働投入によるマイナス寄与は足もとの▲0.2%から▲0.4%まで若干拡大するが、設備投資の伸びが高まることにより資本投入によるプラス幅が拡大すること、技術進歩率が現在の0%台前半から0%後半まで高まることにより、潜在成長率は足もとの0.5%から予測期間後半にかけて1%程度まで高まると想定した。

◆10年間の実質GDP成長率は平均1.0%を予想

 消費税率は2017年4月に8%から10%まで引き上げられることが予定されている。財政健全化目標では2020年度のプライマリーバランスを黒字化するとしているが、甘利経済財政担当大臣は「2020年度のプライマリーバランス黒字化達成のスケジュールの中で10%からさらに引き上げる考えはない」と述べている。今回の見通しでは2017年度に予定通り10%への引き上げが実施された後、2021年度に12%、2024年度に14%へと引き上げられることを想定している。

 当研究所のマクロモデルによるシミュレーションでは、消費税率を1%引き上げた場合、消費者物価は0.71%上昇し、物価上昇に伴う実質所得の低下などから実質GDPは▲0.24%低下する(いずれも1年目の数値)。

 また、消費税率の引き上げ前後では駆け込み需要とその反動減が発生する。当研究所では、個人消費、住宅投資の駆け込み需要により実質GDPは2013年度に0.6%押し上げられ、2014年度はその反動で▲0.6%押し下げられたと試算している。物価上昇に伴う実質所得の影響(▲0.72%=▲0.24%×3)と合わせると2014年度の実質GDPは▲1.3%押し下げられたことになる。

 2017年度の消費税率引き上げの際にも2016年度には駆け込み需要が発生し、当年度には反動減に物価上昇に伴う実質所得低下の影響が加わることから成長率は低下する。また、2020年度までは東京オリンピック・パラリンピック開催に伴う経済効果が期待される。当研究所では、東京オリンピック開催による実質GDPの押し上げ幅を2014年度から2020年度までの7年間の累計で1%程度と試算している(*2)。

 ただし、開催翌年の2021年度にはその反動で成長率が落ち込むことが見込まれる。今後、10年間の実質GDP成長率は消費税率引き上げ前後、オリンピック開催前後で振幅の大きな展開が続くことになるが、予測期間(2016~2025年度)の平均では1.0%となり、過去10年間(2006~2015年度)の平均0.4%から伸びが高まることが予想される。

 なお、2017年度の消費税率引き上げ時に導入を目指すとされている軽減税率については、現時点で方向性が固まっていないことから、今回の見通しには織り込んでいない。仮に、食料(酒を除く)に軽減税率が導入された場合、消費税率1%引き上げによって消費者物価は0.5%程度の上昇(軽減税率なしの場合は0.7%程度)、実質GDP成長率は▲0.17%(軽減税率なしの場合は▲0.24%)の低下となり、軽減税率がなかった場合に比べると物価、成長率への影響が緩和されることになる。

◆名目GDP600兆円の達成は2025年度と予想

 日本は1998年度以降、名目成長率が実質成長率を下回る「名実逆転現象」が続いてきたが、2014年度は実質GDP成長率▲0.9%に対し名目GDP成長率が1.6%となり、17年ぶりに名実逆転が解消された。2014年度は消費税率引き上げによってGDPデフレーター、名目GDPの伸びが押し上げられたことも考慮する必要があるが、この影響(*3)を除いても名目GDP成長率は0.2%程度(GDPデフレーターの伸びは1.1%程度)となり、実質の伸びを上回った。

 日本経済はデフレから脱却しつつあり、先行きについても名目成長率が実質成長率を上回る傾向が続く。今後10年間の名目GDP成長率は平均1.9%(*4)となり、予測期間平均の実質GDP成長率(1.0%)、過去10年間の名目GDP成長率(▲0.1%)を上回るだろう。この結果、政府が「新3本の矢」で新たに掲げた名目GDP600兆円の達成は2025年度になると予想する。

◆消費者物価は1%台の伸びが持続

 当研究所が推計するGDPギャップはリーマン・ショック後の2009年度にはマイナス幅が▲5%台(GDP比)まで拡大した後、2013年度には2.1%と潜在成長率を大きく上回る成長となったことから▲0.5%とマイナス幅が大きく縮小したが、消費税率が引き上げられた2014年度は▲0.9%のマイナス成長となったため、マイナス幅が▲1.8%へと再拡大した。

 2017年度には消費税率が再び引き上げられるが、2020年度にかけてはオリンピック開催の追い風もあり景気が堅調にするため、需給バランスは改善傾向が続き2019年度にはGDPギャップがプラスに転じるだろう。ただし、2021年度はオリンピック開催の反動と消費税率の引き上げが重なるため、需給バランスが悪化し、その後はゼロ近傍の推移が続くだろう。

 消費者物価(生鮮食品を除く総合)は2013年4月以降、前年比で上昇を続けてきたが、原油価格下落に伴うエネルギー価格の低下を主因として2015年8月には前年比▲0.1%と2年4ヵ月ぶりのマイナスとなった。一方、物価上昇がある程度継続してきたこともあり、かつてに比べ企業の値上げに対する抵抗感は小さくなっており、実際、食料、日用品、サービスなど幅広い品目で値上げが行われている。

 消費者物価指数の調査対象品目を、前年に比べて上昇している品目と下落している品目に分けてみると、上昇品目数の割合が6割を超えており、物価上昇の裾野はむしろ広がっている。また、現実の物価上昇率がゼロ近傍となっている中でも家計の予想物価上昇率は高止まりしている。

 消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合、消費税の影響を除く)は原油価格下落の影響が弱まる2015年度末までには再びプラスとなり、原油価格下落の影響一巡に景気回復に伴う需給バランスの改善が加わる2016年度は1%台前半の伸びとなることが予想される。2017年度は消費税率引き上げの影響で景気が弱含むことから上昇率はいったん1%を割り込むものの、その後はオリンピック開催に向けて好況が続くことから、消費者物価の上昇ペースは加速し、2020年度には2.1%と日銀の物価安定の目標が達成されるだろう。

 消費者物価上昇率が安定的に2%を維持することは難しいが、物価上昇の定着によって企業、家計の予想物価上昇率が安定的に推移する中、金融政策面で緩和的な状況が維持されるため、1%台の伸びは確保されるだろう。消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合)は過去10年平均のほぼゼロ%から、消費税を含むベースでは1.8%、消費税を除くベースでは1.4%になると予想する。

◆貿易赤字は恒常化

 貿易収支(通関ベース)は、東日本大震災直後から4年以上にわたって赤字を続けている。2014年度の貿易収支は原油価格の下落に伴う輸入の減少を主因として2013年度の▲13.8兆円から▲9.1兆円へと赤字幅が縮小したが、大幅な円安にもかかわらず輸出が伸び悩んでいるため、貿易黒字に転換するには至っていない。

 輸出低迷の背景には、新興国を中心に海外経済が減速しているという循環的な要因もあるが、大幅な円安によって価格競争力が高まっているにもかかわらず世界に占める日本の輸出シェアが趨勢的に低下していることは、情報関連分野を中心とした国際競争力の低下、生産拠点の海外シフトといった構造的な要因が大きく影響していることを示唆している。海外生産シフトの拡大に伴い国内生産能力は大きく低下し、輸出が海外経済の成長や円安による恩恵を受けにくくなっている。

 貿易収支は、短期的には海外の景気動向、原油価格、為替レートの変動などによって改善に向かう可能性もあるが、構造的に輸出が伸びにくくなっていることに加え、中長期的には高齢化の進展に伴う国内供給力の低下から趨勢的には輸入の伸びが輸出の伸びを上回ることになるため、貿易赤字の拡大傾向が続く可能性が高い。貿易赤字の名目GDP比は2014年度の1%台から2020年代には3%台まで拡大することが予想される。

 TPP(環太平洋経済連携協定)が2015年10月に大筋で合意し、関税が段階的に撤廃・縮小されるほか、知的財産、電子商取引、環境など幅広い分野でルールが整備されることとなった。

 政府は詳細な合意内容を踏まえて経済効果の試算を出す方針だが、日本がTPP交渉への参加を決めた2013年時点では、関税撤廃による実質GDPの押し上げ効果を3.2兆円(実質GDPが0.66%)としていた。ただし、この試算はあくまでも関税の撤廃を前提としたもので、今回の合意内容には関税の段階的な引き下げや輸入枠の設置などの例外も多いため、実際の効果はこれを下回る可能性がある。

 また、関税の撤廃により輸出、輸入ともに拡大が見込まれるが、政府試算によれば輸出の増加2.6兆円に対し、輸入の増加2.9兆円となっており、外需はむしろ悪化する結果となっていることには注意が必要だ。GDPが押し上げられるのは外需の悪化幅(▲0.3兆円)を国内需要の増加幅(消費3.0兆円、投資0.5兆円)が上回るためである。関税の撤廃によって安い海外製品が輸入されることにより国内需要が喚起される効果は期待できるものの、TPPによって貿易収支が大きく改善することは見込まれない。

◆訪日外国人旅行者数は2025年には3000万人へ

 一方、一貫して赤字が続いてきたサービス収支は旅行収支の改善を主因として赤字幅が縮小している。円安の進行、ビザの発給要件緩和、消費税免税制度拡充を背景とした訪日外国人旅行者数の急増が続いている。2014年の訪日外国人旅行者数は前年比29.4%増の1341万人となり、この3年間で2.2倍となった。2014年10月に免税対象から外れていた食品、化粧品、薬品等の消耗品も含め全ての品目が免税対象となったこともあり、2015年上期は前年比46.0%と伸びがさらに加速している。

 「日本再興戦略(2013年6月)」では、「2013年に訪日外国人旅行者1000万人、2030年に3000万人超を目指す」としていたが、「日本再興戦略」改訂2014では、第一段階の目標である訪日外国人旅行者1000万人を2013年に達成したこと、2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開催されることが決定したことを受け、「2020年に向けて、訪日外国人旅行者数2000万人の高みを目指す」という目標を追加した。2015年の訪日外国人旅行者数は約2000万人となり、「2020年に向け2000万人」という政府目標は前倒しで達成される可能性が高い。

 一方、日本人旅行者の出国者数は円安の影響もあり減少が続いており、足もとでは訪日外国人旅行者数を下回っている。この結果、2015年の旅行収支は1兆円程度の黒字(2014年は▲441億円の赤字)となることが見込まれる。訪日外国人旅行者の急増によって旅行収支の受取額は大幅に増加しているが、国際観光収入の名目GDP比は2014年時点で0.4%と国際的にみれば依然として低水準にあり、さらなる拡大の余地がある。

 先行きの旅行収支の動向を左右する要因としては、為替レート、海外の所得水準の変化、日本の物価動向などが挙げられるが、為替については日米金利差の拡大を背景に当面は円安基調が継続し、消費単価が高く外国人旅行者の約8割を占めるアジア諸国は相対的に高めの成長を続け、日本の物価は上昇傾向を維持すると予想している。これらはいずれも外国人旅行者数、旅行者の平均消費額を押し上げる要因として働くため、旅行収支の受取額は先行きも着実な増加が見込まれる。

 訪日外国人旅行者数は2020年には2700万人、予測期間末である2025年には3000万人を突破し、「2030年に3000万人超を目指す」としている政府目標は前倒しで達成される可能性が高い。旅行収支は2015年に黒字に転換した後、2025年には2.5兆円程度まで増加するだろう。

 旅行収支の受取額は2013年の1.5兆円、GDP比0.4%から2025年には5.0兆円、GDP比0.8%まで拡大すると予想する。ただし、旅行収支以外の輸送収支、その他サービス収支は赤字が続き、サービス収支全体では予測期間末まで赤字が続くことが見込まれる。

◆第一次所得収支の黒字は高水準が続く

 海外生産シフトの拡大は輸出の下押し要因となる一方、直接投資を中心とした対外資産の増加を通じて第一次所得収支の増加をもたらすというプラス面もある。経常黒字の蓄積による対外資産の増加と大幅な円安を反映し、2014年度の第一次所得収支は前年度から2兆円近く増加し19.2兆円(GDP比で3.9%)となった。

 日本の対外資産は1990年末の279兆円から2014年末には945兆円まで増加し、対外資産から対外負債を差し引いた対外純資産も2014年には367兆円、GDP比で75%に達している。また、かつては対外資産に対する利回り(所得収支の受取/対外資産)と対外負債に対する利回り(所得収支の支払/対外負債)の差があまりなかったが、1990年代半ば以降は資産利回りが負債利回りを安定的に上回っており、足もとではネットの収益率が2%弱(資産利回り-負債利回り)となっている。

 今回の予測では、為替レートは2017年度まで円安が続いた後、2018年度以降は円高傾向で推移するとしている。このため、第一次所得収支の黒字幅は2010年代後半にかけてGDP比で4%台半ばまで拡大した後、予測期間後半は黒字幅が徐々に縮小すると予想する。

◆2020年代前半に経常収支は赤字へ

 中長期的には、経常収支は貯蓄投資バランスによって決定される。部門別の貯蓄投資バランスの推移を見ると、家計部門は一貫して貯蓄超過を続けてきたが、2013年度は小幅ながら貯蓄不足となった。一般政府はバブル期に貯蓄超過に転じた局面もあったが、バブル崩壊後は赤字を続けている。また、投資超過で推移していた企業部門(非金融法人)は1998年度に貯蓄超過に転じてからは約15年にわたってその状態が続いている。

 家計貯蓄率は高齢化の影響などから長期的に低下傾向が続いてきたが、2013年度は消費税率引き上げ前の駆け込み需要で個人消費が高い伸びとなったことからマイナスに転じた。2014年度に消費増税の影響で消費が大きく落ち込んだ後、2015年入り後も消費の低迷が続いていることから、足もとの家計貯蓄率はプラスになっている可能性が高い。

 しかし、先行きは高齢化がさらに進展することから再び低下傾向となり、2019年度以降はマイナスとなることが見込まれる。これに伴い家計部門の貯蓄投資バランスも2020年代には投資超過となることが予想される。

 企業部門は、設備投資の伸びが高まることや金利上昇に伴う利払い費の増加から貯蓄超過幅は縮小に向かう。政府は財政赤字の削減が緩やかながらも進展することから投資超過幅は縮小傾向となるだろう。

 今回の見通しでは、政府の投資超過幅は縮小するものの、家計が貯蓄超過から投資超過に転じ、企業の貯蓄超過幅が縮小する結果、経常収支は予測期間終盤に小幅ながら赤字化すると予想する。

◆財政収支の見通し

 政府は2017年度に消費税率を8%から10%へと引き上げた後、2020年度までは税率引き上げをしないと明言している。内閣府が2015年7月に公表した「中長期の経済財政に関する試算」では、2020年度の国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の名目GDP比は▲1.0%(経済再生ケースによる)となっており、2020年度までに基礎的財政収支を黒字化するという政府目標は達成されない形となっている。

 今回の見通しでは2020年度まで消費税率引き上げの前提が内閣府試算と同じだが、当研究所の予測では2020年度の基礎的財政収支は▲1.9%とこれよりも赤字幅が大きくなっている。当研究所の名目成長率の見通しが内閣府試算よりも低い(内閣府試算の前提は2015~2020年度の平均成長率が3.3%となっているのに対し、当研究所の見通しは平均2.1%)ことが両者の差の主因と考えられる。

 今回の予測では、財政再建を進めるために2021年度、2024年度にそれぞれ消費税率を2%引き上げ、予測期間末の消費税率は14%になることを想定している。一方、支出面では「機動的な財政政策」を掲げていることもあり、今後も景気が悪化した場合には大規模な財政出動が見込まれること、国土強靭化、社会インフラの再構築を推進していることから公共投資の増加傾向が続くことが予想される。

 また、2014年度は消費税率引き上げによって実体経済は低迷したものの、大幅な円安や原油価格下落によって企業収益が堅調を維持したことなどから、税収への悪影響は小さかったが、次回以降の増税時に今回のように外部環境が改善する保証はない。消費税率引き上げによって消費税以外の税収がある程度低迷することは避けられないだろう。このため、基礎的財政収支の赤字は縮小傾向が続くものの、2025年度でも▲1.0%と小幅な赤字が続くと予想する。

 この結果、すでに名目GDP比で約200%となっている国・地方の債務残高は増加を続け、2025年度には約1400兆円、名目GDP比で230%程度まで上昇することが予想される。

 なお、見通し期間中は長期金利の上昇傾向が続くため、債務残高に対する利払い費の割合が上昇する。単年度の長期金利の上昇が国債残高全体の平均金利の上昇に直結するわけではないが、長期金利の継続的な上昇は利払い費の着実な増加につながる。このため、利払い費(ネット)を含む財政収支は基礎的財政収支に比べ改善ペースが遅くなるだろう。

■金融市場の見通し

◆日米欧の政策金利

 先進各国ともに景気の下支えのために金融政策に依存する状況が続いてきたため、日米欧の政策金利は未だにほぼゼロと歴史的な低水準にある(日本は異次元緩和開始に伴い、マネタリーベースを誘導目標としたため、厳密には政策金利がない)。ただし、既述のとおり、景気回復基調が続く米国は利上げが視野に入っており、2015年内には利上げを開始する。その後2018年にかけて、従来と比べれば緩やかながら段階的な利上げが続き、政策金利は3.50%で着地するだろう。

 一方、米国に比べて景気回復の力強さが欠けるユーロ圏では、2016年9月にかけて現行の量的緩和を継続。その後は1年程度のテーパリング(量的緩和の段階的縮小)を経て、終了する見通し。政策金利の引き上げ開始は、米国から約3年遅れとなる2018年末を予想している。その後の政策金利は、2021年にかけて1.75%まで緩やかに引き上げられると見ている。

 日本については、2%の物価目標のハードルが高いため、異次元緩和を長期にわたって継続することになる。ようやく物価上昇率が2%に達するのは東京五輪の開かれる2020年度となるが、物価が上昇して将来の達成が視野に入ってくる2018年度にはテーパリングが開始されるだろう。翌2019年度には異次元緩和が終了し、政策金利(誘導目標金利)が復活、物価上昇率が2%を超える2020年度には小幅ながら利上げが実施される。

 2021年度以降は物価上昇率がやや鈍化するが、1%の水準は概ね上回ること、過去の異次元緩和によって日銀のマネタリーベースの規模が名目GDPを上回る水準まで膨らんでいることから、予測期間末にかけて、ごく緩やかな出口戦略(利上げと償還資金再投資の停止によるマネタリーベースの縮小)が進められる。予測期間末の政策金利は0.50%と予想する。

◆日米欧の長期金利

 米長期金利については、今後も堅調な景気回復が続く中で、利上げの開始や進行に伴って上昇基調を辿り、利上げが打ち止めとなる2018年以降は4%台に乗せる。ドイツの長期金利もユーロ圏の緩やかな景気回復に伴う金融政策の正常化と引き締め、米金利上昇を受けて緩やかに上昇し、利上げが打ち止めとなる2021年には2%台を回復する。

 日本の長期金利は異次元緩和に伴う日銀の国債大量買入れによって、予測期間前半は低位に抑えられるものの、米金利上昇という外部からの上昇圧力を受ける。そして、2017年度頃からは、徐々に異次元緩和の終了が意識されることも金利上昇圧力となる。予測期間後半になると、金融政策の正常化を受けて、次第に「期待潜在成長率+期待インフレ率」の水準である2%台前半に収斂していく。

 米国との比較では、期待成長率や期待インフレ率の格差などを反映する形で、相対的に低い水準に留まることになる。なお、予測期間の終盤に日本の経常収支が赤字化するが、これまでに積み上げた膨大な対外純資産の存在や、追加の消費税率引き上げを含む財政健全化姿勢の堅持が市場の不安感を抑制することで、財政懸念に伴う長期金利の上昇は極めて限定的となるとみている。従って、予測期間内に金利が急騰する事態は見込んでいない。

◆為替レート

 ドル円レートについては、予測期間序盤のうちは、日本の異次元緩和が長期化する一方で米国が利上げを続けることに伴って日米長短金利差が拡大、ドルの投資妙味が上昇することで、2017年度にかけて1ドル130円台前半まで円安ドル高が進むだろう。

 しかし、予測期間半ばには、米国の長短金利が頭打ちとなる一方、日本では異次元緩和が終了、利上げなどの金融政策の正常化が進められることで日米金利差が縮小するため、円は対ドルで上昇に転じる。予測期間末にかけて緩やかな円高ドル安基調が続く見通しである。

 金利差要因以外では、予測期間終盤には基軸通貨ドルの相対的な地位低下というドル安要因が追加的な円高圧力となるが、一方で日本の経常収支赤字化という円安要因が円高圧力を緩和する方向に働く。これらの結果、終盤にかけても円高基調は続くものの、水準としては、予測期間末時点で1ドル125円と、現状の為替レートと比べてやや円安の水準に着地すると見ている。

 ユーロドルレートも、当面は米利上げが先行することによって一旦ドル高ユーロ安が進行する。しかし、ECBは2016年秋から、テーパリングを皮切りに金融政策の正常化を進めるため、これを織り込む形でユーロは上昇に転じるだろう。また、予測期間終盤にかけては、基軸通貨ドルの相対的な地位低下を受けて、ドルに次ぐ位置付けにあるユーロは、その主たる受け皿の役割を担うことになり、ユーロドルに上昇圧力がかかる。予測期間末には1ユーロ1.30ドル手前に到達すると予想。

 ちなみに、ユーロ円レートは、当面は円とユーロの弱さ比べの様相となる形で方向感が出ないが、ユーロ圏の金融政策正常化が先行することで、予測期間中盤にかけてユーロ高基調となる。その後は日本も金融政策の正常化を進めることから再び方向感が出なくなり、予測期間終盤は160円程度での推移になると予想している。

■代替シナリオ

◆楽観シナリオ

 楽観シナリオでは、メインシナリオに比べ世界経済が順調に回復する。中国はメインシナリオに比べ成長率が高いことに加え、内需主導の経済成長へと転換していくため、グローバルな不均衡も解消に向かう。

 日本の実質GDPは2015、2016年度と潜在成長率を大きく上回る伸びとなり、消費税率が引き上げられる2017年度もプラス成長を確保する。さらに、日銀の異次元緩和の効果から予想インフレ率が上昇することも加わり、消費者物価上昇率は現時点の日銀の見通しどおり、2016年度前半には2%程度となり、その後も安定的に2%程度の伸びを維持する。なお、消費税率引き上げの前提はメインシナリオと同じとしている。

◆悲観シナリオ

 悲観シナリオは、中国経済が2017年にかけて3%成長へとハードランディングし、アジア新興国の景気悪化、世界経済の減速につながるケースである。

 悲観シナリオにおける今後10年間の平均成長率は中国経済の影響が比較的小さい米国は1.8%となるが、ユーロ圏(0.6%)、日本(0.6%)はゼロ%台の低い伸びにとどまる。日本では2017年度の消費税率引き上げは実施されるが、景気低迷、デフレ基調が継続することからその後は消費税率が据え置かれることを想定した。

◆シナリオ別の財政収支見通し

 メインシナリオの財政収支見通しでは2020年度までに基礎的財政収支を黒字化するという政府目標は達成されないとしている。

 楽観シナリオでも2020年度の政府目標は達成されないが、名目GDP成長率が今後10年間の平均で2.7%と政府の経済再生ケースに近いものとなるため、2020年度の赤字幅は▲0.6%(GDP比)まで縮小し、消費税率が14%に引き上げられる2024年度には基礎的財政収支の黒字化が実現する。ただし、利払い(ネット)を含む財政収支は予測期間末でも赤字で、メインシナリオに比べて金利の上昇スピードが速いため、基礎的財政収支と財政収支の差はメインシナリオよりも大きくなる。

 国・地方の債務残高のGDP比を低下させるためには、基礎的財政収支の黒字幅をさらに拡大させることが必要となる。悲観シナリオでは名目成長率の低迷に伴う税収の伸び悩みが続くことに加え、消費税率が10%で据え置かれることから基礎的財政収支の赤字は拡大傾向が続く。この場合には財政破綻のリスクが高くなるだろう。

◆シナリオ別の金融市場見通し

 楽観シナリオでは、米国をはじめとする各国景気が順調に回復するため、メインシナリオと比べて、米利上げのペースは加速、ユーロ圏の利上げ開始も2017年に前倒しとなる。日本も2%の物価目標達成がメインシナリオよりも早まるため、異次元緩和の終了は2016年度、利上げ開始が2018年度にそれぞれ前倒しされ、その後の利上げペースもメインシナリオを大きく上回る。本邦長期金利についても、利上げのペースアップや投資家のリスク選好、海外金利の大幅な上昇を受けて、メインシナリオよりも早期かつ大幅に上昇していくことになる。

 ドル円レートについては、米国経済の回復加速と急ピッチの利上げに伴う日米金利差拡大が大幅なドル高に繋がり、2017年度には1ドル140円手前にまで円安ドル高が進む。その後はメインシナリオ同様、日本の利上げ等を受けて円高ドル安基調に転じるが、期間を通じたリスク選好地合いや日本の期待インフレ率が高水準に保たれることなどから、予測期間終盤にかけてメインシナリオよりも円安ドル高水準での推移となる。

 ユーロドルでは、ユーロの金融政策正常化が急ピッチで進むうえ、ユーロの信認が高まることから、メインシナリオよりもややユーロ高となり、予測期間末には1ユーロ1.31ドルまで水準を切り上げる。既述の通り、ドル円ではメインシナリオよりも円安ドル高となるため、ユーロ円では大幅な円安ユーロ高となる。

 悲観シナリオでは、中国経済失速を発端に世界的に景気が低迷を続けるため、欧米の利上げ開始はメインシナリオよりも大きく遅れ、かつすぐに打ち止めになる。日本では物価の低迷が続くため、予測期間を通じて異次元緩和(もしくはそれに準ずる措置)が継続される。景気低迷や原油価格の低迷などによって各国の物価上昇率が低位に留まることもあり、世界的に長期金利はメインシナリオを大きく下回る水準に留まる。日本では現状の超低金利が長期にわたって継続する見通し。

 ドル円レートについては、米景気の低迷によって日米金利差が殆ど拡大しない一方で、アベノミクスへの期待が剥落し、予測期間前半に急速な円高ドル安が進行、予測期間末にかけて1ドル100円割れの状況が続く。

 ユーロに関しては、緊縮財政下での景気低迷に対して域内の不協和音が高まり、ユーロ圏の分裂観測によってユーロの信認が低下する。この結果、ユーロの対ドルレートは1.1ドルを下回る水準での低迷が続く。既述の通り、ドル円ではメインシナリオよりも円高ドル安が進むため、ユーロ円では大幅な円高ユーロ安となり、主要先進国通貨では円が独歩高の様相になる。

(*1)厳密には趨勢的に消費の伸びが可処分所得の伸びを若干上回っている。この結果、家計貯蓄率は長期的に低下傾向が続いており、2013年度にはマイナスとなった。
(*2)試算の詳細はWeeklyエコノミスト・レター2013-10-11「中期経済見通し(2013~2023年度)」をご覧ください。
(*3)2014年度のGDPデフレーターは消費税率引き上げ(5%→8%)により1.4%程度押し上げられたとみられる。
(*4)ただし、予測期間中に消費税率が8%から14%に引き上げられることも名目GDP成長率を押し上げる。この影響を除
いた名目GDP成長率は平均1.6%となる。

ニッセイ基礎研究所 経済研究部

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