デフレ脱却には金融政策よりも財政政策が必要かーSG証券チーフエコノミスト・会田氏

デフレ脱却には金融政策よりも財政政策が必要かーSG証券チーフエコノミスト・会田氏
デフレ脱却には金融政策よりも財政政策が必要かーSG証券チーフエコノミスト・会田氏(写真=Thinkstock/Getty Images) (ZUU online)

 10月30日の日銀金融政策決定会合は、展望レポートで景気・物価シナリオが下方修正された中で、政策の現状維持を決定した。同日の政策決定会合について追加緩和の是非を検討という報道があったことは、日銀執行部は緩和提案をする考えがあったことを示している。政策委員会で過半数を取れる確信が持てるかが、結果を左右したのだろう。しかし、確信が持てなかったため、提案が見送られたとみられる。

 アベノミクスは期待に働きかける政策であることを考えれば、2013年4月の量的・質的金融緩和で大軍を投入した後は、グローバルなマーケットの不安定化や拙速な消費税率引き上げなどにより、期待が悪化する恐れがある時は、機動的に戦力を逐次投入し、無尽蔵な大軍の力で、敵の戦意(デフレ期待)を失わせ、期待を好転させ続ける必要がある。景気やマーケットに不安定感が残っていれば来年1月の展望レポート公表時をメインに、追加金融緩和の可能性は残っている。しかし、今回2%の物価目標の達成時期が遅れることを認めても緩和をしない形になったため、今後の緩和の可能性は後退したと考える。

 日銀のコミットメントに反し、消費税率引き上げ後の需要停滞と原油価格の下落などにより、消費者物価は伸びが止まっている。8・9月にはコアCPI前年同月比は2ヶ月連続でマイナスになってしまった。景気の気(センチメント)の部分が、政策などに支えられて堅調なことが、デフレ完全脱却への動きの原動力となっている。一方、輸出・生産・成長率などの実体経済や物価の動きは、この気の動きに比べてかなり弱い。
 
 展望レポートでは、実質GDP成長率の予想が、2015年度は+1.7%から+1.2%へ、2016年度は+1.5%から+1.4%へ下方修正された。コアCPIの予想も、2015年度は+0.7%から+0.1%へ、2016年度は+1.9%から+1.4%へ下方修正された。そして、目標の達成時期を「2016年度前半頃」から、2017年度の前半も視野に入れた「2016年度後半頃」へ正式に後ずれさせた。
 
 しかし、ECBや中国人民銀行の緩和姿勢によるマーケット環境の改善もあり、ここでは追加金融緩和はせず、様子見になったようだ。マーケット環境の不透明感は上下両方向にも言え、方向が逆であるが、日銀もFEDと同じように様子見をし、マーケットの方向性を見極めようとしているのだろう。2015年度と2016年度の実質GDP成長率の予想が大きく下方修正されたがまだ潜在成長率を上回っていることが、追加緩和見送りの理由でもあろう。
 
■財政が拡大すれば日銀の金融緩和の効果も強くなる
 
 政府は来夏の参議院選挙までにはデフレ完全脱却を宣言し、その成果を国民にアピールすることで勝利したいと考えるだろう。秋の臨時国会の開催が見送られる可能性が高く、来年1月に通常国会を開き、景気をてこ入れする経済対策を決定するとみられる。デフレ完全脱却の実感につながる株式市場のさらなる上昇、そして安保法制の成立などで低下気味である内閣支持率回復のためにも、政府・日銀は、デフレ完全脱却まで、経済政策を総動員することを再確認するとみられる。
 
 日銀の追加金融緩和は見送られたが、マネタリーベースを「年間約80兆円」増加させるコミットメントは引き続き強い緩和効果を持っている。日銀の量的・質的金融緩和は、財政拡大に力を借りて名目GDPをリフレイトするとともに、長期金利を抑制し、名目GDP(膨張の力)と長期金利(抑制の力)のスプレッドを持続的にプラス(膨張の力が抑制の力を上回る)にすることで、経済とマーケットを刺激し続け、デフレ完全脱却を目指すものである。
 
 日本の内需低迷・デフレは、恒常的なプラスとなっている企業貯蓄率(デレバレッジ)に対して、マイナス(赤字)である財政バランスが相殺している程度であり、企業貯蓄率と財政バランスの和がゼロと、国内の資金需要・総需要を生み出す力が喪失していたことが原因である。このネットの国内資金需要が復活し、資金が循環・拡大を始めたことが、今回の景気回復がデフレ完全脱却につながる可能性がある理由である。

 トータルレバレッジは2011年にマイナスに転じた後、GDP対比-3%程度で安定的に推移してきた。しかし、グローバルな景気・マーケットの不安定感、そして消費税率引き上げ後の需要の低迷などにより、企業の警戒感が強くなり、4-6月期には-1.2%と1-3月期から半減。4-6月期には、企業貯蓄率が+2.7%へ1-3月期の+1.1%からリバウンドし、企業のデレバレッジは強くなってしまった。本来なら企業活動の鈍化は財政支出の拡大または減税でオフセットすべきだが、消費税率の引き上げもあり、一般政府の収支が-3.9%へ1-3月期の-4.6%から大きく改善してしまい、過剰な財政緊縮も更なる逆風になってしまっている。
 
 マネーが循環し、貨幣経済を拡大させるデフレ完全脱却へ向かう推進力は衰えてしまっている。ネットの資金需要がなければ、マネタイズすべき対象がないため、日銀の量的金融政策の効果も限定的になってしまう。言い換えれば、デフレ完全脱却に向けた政策で、足りないのは金融政策よりも財政政策であり、現在最も必要なのは、財政による景気下支えであると言える。財政が拡大すれば、既存の日銀の金融緩和の効果も強くなる。本日、日銀は金融政策の現状維持を決定したが、すかさず、政府は2015年度補正予算案を総額で3兆円を超える規模にする方向で調整に入ったという報道も出た。
 
■2017年の消費税率引き上げは再度延期になる可能性も

 グローバルなマーケットと景気の不確実性が高まったままであれば、企業の収益見通しが不安定になることにより、来年の春闘での賃金引上げ幅も小さくなり、2016年度中に需要拡大によりデフレを完全脱却するという政府のシナリオが不可能になるリスクが高まることになってしまう。グローバル経済が底割れすることは想定されず、いずれ生産は持ち直していく可能性は高いが、そのスタートは遅くなると考えられる。
 
 政策対応をしっかりすれば、景気回復が遅くなることによる企業心理の大きな冷え込みやデフレ期待の復活を阻止することはまだ間に合い、デフレ完全脱却への歩みを続けることは可能であろう。ただ、政府の補正予算が効果を発揮するのは来年であり、日銀の追加金融緩和により企業心理の好転を早めることも期待が小さくなってしまったため、来年の経済成長率には下方リスクが出てきてしまった。夏の参議院選挙までに、景気・物価モメンタムの回復が間に合い、政府がデフレ完全脱却宣言をできるのかどうか、微妙になってきてしまった。デフレ完全脱却宣言ができなければ、2017年4月の消費税率引き上げは、再度延期になる可能性も出てきたと考える。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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