原油価格下落と米国経済-価格下落は米マクロ経済にはプラスも、資本市場の不安定化に注目

原油価格下落と米国経済-価格下落は米マクロ経済にはプラスも、資本市場の不安定化に注目
原油価格下落と米国経済-価格下落は米マクロ経済にはプラスも、資本市場の不安定化に注目(写真=PIXTA) (ZUU online)

 ◆原油相場は、WTI先物価格が一時03年以来となる26ドル台をつけるなど、16年に入って価格下落が加速している。その要因は中国の景気減速に伴う需要減のほか、米国の暖冬による暖房需要の減少、イランに対する経済制裁解除に伴う供給増加観測などである。

 ◆当研究所は、原油価格は足元の動きは行き過ぎと判断しており、中期的な需給改善から16年末で40ドル台前半に上昇すると予想している。

 ◆原油価格の下落は純輸入国である米国にとって輸出国からの所得移転を通じてマクロ経済全体ではプラスとなる。実際、価格下落に伴う所得効果に加え、ガソリン安によるSUV需要を背景に自動車販売が好調となるなど、消費にはプラスの効果がみられる。

 ◆一方、資源関連企業の設備投資削減による設備投資への影響などのマイナス面もある。

 ◆さらに、原油価格下落はこれら企業の株価や社債価格を下落させるため、株式市場、社債市場への影響が懸念される。実際、米株式市場や高金利社債市場では原油価格の下落と連動性が高まっている。

 ◆このように原油価格下落は、マクロ経済全体では依然としてプラスの効果が期待できるものの、資本市場へはマイナスの影響がみられる。資本市場の不安定化が長期化する場合には実体経済に影響するため、今後の動向が注目される。

■はじめに

 16年に入ってから原油相場は下落基調を強めており、WTI先物価格(以下、原油価格はWTI価格を指す)は一時1バレル=26ドル台をつけたほか、1月22日現在でも1バレル=29ドル台と、03年以来の水準で取引されている。

 米国はシェール革命以降、国内の原油生産が増加しているものの、依然として石油関連商品の純輸入国であるため、原油価格の下落は輸出国からの所得移転となり経済にプラスである。実際、好調な自動車販売など消費に恩恵がみられている。

 一方、資源関連企業の設備投資削減により、民間設備投資が押下げられているほか、エネルギー関連企業の株価や社債価格の下落により、米国の資本市場にネガティブな影響がみられる。

 本稿では原油市場の動向と価格下落による米国経済への影響について資本市場の動向も含めて概観する。

■原油市場の動向

◆(原油価格)14年以降下落基調も、16年に入り下落が加速

 原油価格は、14年6月に1バレル=107ドル台をつけた後、15年前半に一時的に60ドル程度まで反発する場面があったものの、概ね下落基調が持続している(前傾図表1)。また、下落率は16年に入ってから2週連続で2桁を越えるなど、今般の下落局面で最も早いスピードとなっている。

 ガソリン価格も原油相場に連動して下落基調となっており、レギュラーガソリンの全米平均小売価格は、1ガロン=2ドルを割れる水準に下落した。これは09年以来の水準であり、原油に比べると下落幅は小幅に留まっている。

 ちなみに、原油以外の資源価格に目を転じると、鉄鉱石や石炭価格も下落基調となっており、10年以降の下落幅でみれば、原油と大きな違いはみられない。原油は14年まで相対的に高止まりしていたことから、その後の下落スピードが目立っている。

◆(原油需給)イラン増産懸念や暖冬により需給の緩和が持続

 米エネルギー情報局(EIA)によれば(*1)、原油以外も含めた液体燃料の世界需給は中国経済の減速などに伴い消費が伸び悩む一方、OPEC産油国が減産合意に失敗するなど増産が続いたため、14年以降は生産が消費を上回る状況となっている。この結果、在庫が積み上がっており、需給面から、原油価格に下落圧力がかかり易い。

 もっとも、16年以降の生産見通しについては、OPEC産油国では増産が持続するものの、米国では16年に減産が見込まれている。このため、生産の伸びが抑えられることで、供給過剰は16年末にはほぼ解消される見込みとなっており、中期的には需給面からの下落圧力は緩和が期待できる。

 一方、足元で下落基調が強まった要因としては、米国の暖冬とイランの増産期待などが挙げられる。米国では12月の全米平均気温が観測史上最高となるなど、東部を中心に気温の高い日が続いており、暖房需要が減退している。

 実際、暖房が必要とされる温度(華氏65°、摂氏18℃)を1日の平均気温がどの程度下回ったか示す暖房度日をみると、12月は前年に比べ18%減少したほか、過去10年平均と比べて26%減少した。3月にかけても同様の傾向が持続すると予測されており、今冬の暖房油の消費量は前年に比べて18%減少することが見込まれている(*2)。

 さらに、1月16日にイランに対する経済制裁が解除されたことを受けて、イランの増産期待が高まっている。年初こそサウジアラビアとイランの緊張激化によって、原油価格が上昇する場面もみられたが長続きせず、地政学的リスクが高まっても中東の生産能力に影響しないとの見方が支配的になっている。

 試算時点では、制裁解除時期に対する不透明感もあったことから、イランの増産見込みを16年は0.3百万バレル、17年が0.5百万バレルとしているようだ。同国の余剰生産能力は現状で0.8百万バレル程度あると見込まれており、早期に制裁解除されたことを受けて同国の増産規模が見通しを上回る可能性が高まっている。

◆(原油価格見通し)16年末44ドル、17年末48ドルを予想

 原油価格の変動が大きくなっているほか、世界経済に対する不透明感が増していることから、原油価格の予測が難しくなっている。

 当研究所では、足元の下落は行き過ぎと考えており、今後の需給改善に伴い、原油価格は緩やかな上昇に転じると予想している。もっとも、原油価格は、16年末で44ドル、17年末で48ドルと予想しており、昨年半ばの水準程度までの反発に留まるとみられる。

■米国経済への影響

◆(実体経済)マクロ経済全体ではプラス

 一般に原油価格の下落は、原油輸出国から輸入国への所得移転となることから、輸入国経済にはプラスの効果がある。米国では、シェールオイルの生産に伴い石油関連の輸入が減少しているため、石油関連の貿易赤字額は11年以降に減少している。

 このため、以前に比べると原油安に伴うプラスの効果は減少しているとみられる。もっとも、原油の輸入量は15年の1-11月で24.1億バレルあり、平均輸入価格は48.4ドル(前年同期:93.0ドル)と5割近い下落となっているため、価格下落による輸入額の抑制効果は1,074億ドル(GDP比0.6%)と、それなりに大きいことが分かる。

 また、個人消費への影響をみると、ガソリン・その他燃料の消費額は14年が4,011億ドルと、個人消費全体の3.4%(GDP比2.3%)を占めている。このため、これらの価格が1割下落した場合の所得効果はGDP比0.2%程度が期待できる。

 ガソリン価格は15年の平均価格が2.43ドルと、前年比で3割弱低下した。現在の2ドル割れが定着する場合には2割弱の低下が見込まれるため、燃料以外の消費に追い風となろう。

 さらに、ガソリン価格の下落は好調な自動車販売の要因となっている。ミシガン大学が集計する自動車購入環境指数は、05年以来の高さとなっており自動車購入意欲は非常に強いことが分かる。

 自動車各社は、ガソリン価格の下落により多目的スポーツ車(SUV)の需要が高まっていることを指摘しており、購入意欲の高さは、労働市場の改善や低金利だけでなくガソリン安が影響しているとみられる。米国では消費主導の底堅い成長が持続しており、原油安が貢献していることは間違いない。

 一方、民間設備投資では原油安の悪影響が顕在化している。15年の民間設備投資は、原油価格下落に伴う資源関連の建設投資削減が全体を押下げる状況となっている。

 米国の原油生産と在庫の推移をみると、これら設備投資削減にもかかわらず、15年の春先以降の生産量は横這いとなっており、在庫が積み上がっている。

 前述のように、暖房需要の減少も見込まれる中で在庫の早期解消は難しく、EIAも予想するように今後の生産減少は確実とみられる。このため、今後も資源関連の設備投資削減が見込まれる。

 S&P500指数構成企業の設備投資に対するアナリスト予想をみると、エネルギー関連業種では16年に前年比で2割弱の削減が見込まれている。これは、全10業種で最大の削減見込みである。

 S&P500構成企業では、エネルギー関連業種の設備投資額のシェアが2割超と最大になっている。このため、S&P500全体でもエネルギー関連業種に足を引っ張られる形で、前年比3%程度の減少となり、影響は大きい。

 もっとも、GDP推計におけるエネルギー関連企業の設備投資シェアは、鉱業とパイプラインの合計が8%程度(*3)となっており、大企業中心のS&P500企業に比べて低く、米国企業全体への影響はここまで大きくない見込みだ。

 さらに、設備投資がGDPに占める割合は、1割強と個人消費の7割弱に比べて小さいため、資源関連の設備投資削減の影響は、消費に対する恩恵に比べれば限定的である。

◆(資本市場)原油価格下落に伴う株式市場、社債市場の不安定化が懸念

 これまでみたように、原油価格下落はマクロ経済全体ではプラスとみられるものの、米株式市場や社債市場を不安定化する要因となっており、その影響が懸念される。

 S&P500指数は、原油相場の下落基調が強まった動きに連動するように15年11月から下落基調に転じた。同指数の1月19日までおよそ3ヵ月の下落率は▲10.5%である。

 一方、業種別の収益率寄与度は、情報技術(▲2.4%ポイント)、金融(▲2.0%ポイント)が大きいが、エネルギー関連も▲1.6%ポイントと10業種で3番目に大きくなっている。さらに、11月初を100とした業種別のパフォーマンスをみるとエネルギー関連指数の下落率が20%を超えており、最も大きくなっていることが分かる。

 次に、社債市場のパフォーマンスをみると、信用力の高い投資適格社債は昨年秋口以降も安定している一方、高金利社債のパフォーマンスには悪化がみられる。

 米国では政策金利が引き上げられており、金融環境がタイトになるとの懸念から信用力の低い社債市場に影響がでたとみられる。もっとも、その中でもエネルギー関連社債のパフォーマンス悪化が際立っていることから、金融環境だけでなく原油価格下落もこれら企業に対する信用力の評価に影響している可能性が高い。

 実際、石油・ガス関連企業の倒産件数をみると、15年に27件と急増しており、リーマン・ショック後の09年の26件を上回った。米国では、15年の雇用者増加が月間平均20万人超と好調だったが、エネルギーを含めた資源関連部門では15年を通じて雇用が減少しており、これら企業の信用力低下が懸念されている。

 さらに、投資適格基準を満たしていない(BBB格未満)の社債発行額に占めるエネルギー関連企業のシェアは、15年に1割弱まで増加するなど、プレゼンスが増しているため高金利社債市場全体に対する影響が懸念される。

 このようにみると、原油価格下落はエネルギー関連企業の株式や社債の価格を下落させることで、株式市場や社債市場の不安定化の要因の一つとなっていることが分かる。

 16年に入って、中国経済への懸念から中国株が大幅下落したことを引き金に、世界的な株式市場の下落となったことから、世界経済に対する悲観的な見方が強まっている。米国では労働市場の改善を背景に、消費主導の底堅い成長が持続している。原油安は消費を刺激するため、米経済に必ずしもマイナスではない。

 一方、原油価格のみでなく鉄鋼石や石炭価格など資源価格全般に下落する中で新興国を中心に資源国経済に対する懸念が強まっているほか、中東地域の地政学的リスクが高まっている。さらに、米国では大統領選挙を控えて政治的な対応がし難いことも、投資家のリスク回避志向を高まり易くしているとみられる。

 当研究所では原油価格下落は行き過ぎとみており、資源関連企業の設備投資や信用力の問題は緩やかながら改善するとみているものの、リスク回避的な動きから資本市場の不安定な状況が長期化する場合には、実体経済に影響するため、今後の動向が注目される。

(*1)Short-Term Energy Outlook(16年1月12日)
(*2)Short-Term Energy Outlook(16年1月12日)
(*3)14年の名目 GDP における設備投資の割合。

窪谷 浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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