不動産投資用の物件を購入するにあたり、最も重要視するべき指標の1つが「利回り」です。
投資用物件から収益を得らえるか否かは、利回りにかかっています。そのため、これから不動産投資を始める方は、不動産投資における利回りの最低ラインはどのくらいなのか知っておいた方が良いでしょう。
この記事では、利回りの計算方法や、最低ラインの利回りを含めた注意点を紹介します。
不動産投資における利回りとは
まずは不動産投資における利回りの基礎知識を紹介します。
利回りは投資効率を測る指標
利回りは投資効率を測る指標の1つです。投資物件の魅力を評価する指標とも言えます。簡単な利回り計算式は次の通りです。
そのため、通常は利回りが高ければ高いほど、購入希望の投資家も増えます。つまり、適正な市場であれば、利回りは需要と供給に基づいて一定の範囲内(5%前後)に収束していくということです。
たとえば売出価格が1,000万円、想定年間収入が100万円の物件があるとします。この場合、表面利回りは10%です。利回り10%の物件は魅力的なので購入希望者が集まり、1,200万円や1,500万円で買ってもいいと考える人も出てくるでしょう。そして、最終的には利回りが5%になる2,000万円での購入を希望する投資家が出てきます。
現実には様々な要因が関わり、想定年間収入が100万円の物件が1,000万円で買える、ということも不動産投資では起こり得ます。(いわゆる「掘り出し物」を見つけた状態です)
ただし、あくまでも利回りは5%程度に収束していくというベースは覚えておきましょう。
利回りには種類がある
先ほど簡単な利回り計算式を紹介しましたが、不動産投資では「利回り」と言っても次の4種類があります。
- 表面利回り
- 実質利回り
- 自己資金利回り
- 想定利回り
実際に投資判断を行う場合は、それぞれの違いを理解しておくことが重要です。
冒頭で紹介した単純な計算で求める利回りは、表面利回りと言います。不動産投資における表面利回り計算は次の通りです。
不動産会社から伝えられる利回りや、不動産情報サイトに計算されている利回りは、表面利回りであることが多いです。
表面利回りは計算が簡単な一方で、経費を考慮しておらず現実的な利回りではありません。そこで、投資判断を行う際は、経費を考慮した実質利回りを使います。
実質利回りの計算方法は、次の通りです。
なお、購入時諸経費と年間経費には、次のような費用があります。
- 仲介手数料
- 融資手数料
- ローン保証料
- 登記依頼手数料(司法書士報酬)
- 火災保険料
- 印紙税・固定資産税、都市計画税の清算金・登録免許税・不動産取得税など
さて、実質利回りは物件の収益性を測る際には役立ちますが、投資効率を測る際には自己資金利回りを使った方が実態を把握できます。自己資金利回りの計算方法は次の通りです。
自己資金利回りは、金融機関からの融資以外の自己資金に対する利回りです。不動産投資の特徴であるレバレッジがどれだけ効率的にかけられているかを測る指標にもなります。(なお、自己資金利回りは「自己資金配当率(CCR|Cash on Cash Return)」という投資用語とほぼ同義です)
さて、ここまで紹介した利回り計算における年間収入は、全て満室経営を前提としています。しかし、実際に賃貸経営をしていると、空室が発生する場合も少なくありません。空室時の収入を想定した利回りが想定利回りです。
想定利回りでは、任意の収入と経費を当てはめて計算します。そのため、「空室率20%の場合の利回り」「突発的な修繕費が50万円発生した時の利回り」など、様々なシミュレーションで投資効率を測る際に役立ちます。
なお、不動産売買の現場では想定利回りと実質利回りの違いが曖昧になっている場合も多いので、実際の利回り計算式を確認することをオススメします。
投資効率を測る指標は利回り以外にもある
不動産投資においては、投資効率を測る指標は利回り以外にも次のような数字が挙げられます。
- 利益率(売上に対する利益の割合)
- キャッシュ・オン・キャッシュ・リターン(投資額に対する年間キャッシュフローの割合)
- 内部収益率(投資期間中に得られたキャッシュフローから求められる収益率)
不動産投資における利益率は、次の様に求めます。
利益率は、一般的な企業を経営するうえで、重要視される指標です。不動産投資も「不動産賃貸業を営む」と考えると、利益率を意識した方が銀行からの印象が良くなると言えます。
不動産投資におけるキャッシュ・オン・キャッシュ・リターンは、次の様に求めます。
キャッシュ・オン・キャッシュ・リターンは不動産投資全体のキャッシュフロー、すなわち「儲け」を考える場合に役立つ指標です。概念としては自己資金利回りに近い指標と言えます。
最後に、不動産投資における内部収益率(IRR|Internal Rate of Return)は次の様に求めます。
内部収益率の計算は非常に複雑ですが、「投資期間中に得られるキャッシュフローを考慮して現在価値を計算し、得られる利益の期待値を評価する指標」と覚えておきましょう。実務で使うことは少ないかもしれませんが、金融機関からの融資を受ける際に必要になる場合もあります。
ここで紹介した指標はそれぞれ利回りを補完する指標として、最低ラインの利回りと合わせて活用すると良いでしょう。
なぜ不動産投資家にとって利回りが重要なのか
不動産投資家にとって利回りが重要な理由、それは物件購入前に投資収益性を把握するためです。
利回りは、その不動産投資が「どれだけ効率的に稼げるか」を示す指標とも言えます。そのため、不動産投資家としては、なるべく利回りが高い物件の購入を目指すことになります。
また、高い利回りを持つ不動産投資は、ほとんどの投資家にとって魅力的な物件です。そのため、あまりに高い利回りで放置されている物件は、利回りが高いにも関わらず買い注文が入らない事情があると判断することもできます。
このように利回りから読み取れる情報は多いため、不動産投資家としては常に利回りを意識する必要があります。
不動産利回りの計算方法シミュレーション
さて、不動産投資における利回りは、4種類の利回りでそれぞれ計算方法が異なると紹介しました。
- 表面利回り:年間満室家賃収入 ÷ 物件購入価格 × 100
- 実質利回り:(年間満室家賃収入 - 年間経費)÷ (物件購入価格 + 購入時諸経費) × 100
- 自己資金利回り:年間収入(年間キャッシュフロー) ÷ 自己資金 × 100
- 想定利回り:(想定年間収入 - 想定年間経費)÷(物件購入価格 + 購入諸経費)
ここからは、具体的な数字を使って利回りのシミュレーション計算をしてみます。
計算条件は次の通りです。
まず、表面利回りは次の様になります。
年間満室家賃収入200万円 ÷ 物件購入価格2,000万円 × 100=10%
ここに経費を加味すると、実質利回りは次の通りです。
(年間満室家賃収入200万円 - 年間経費50万円)÷ (物件購入価格2,000万円 + 購入時諸経費200万円) × 100=150万円 ÷2,200万円 ×100 = 6.82%
融資を考慮すると、自己資金利回りは次の通りです。
年間収入(年間キャッシュフロー)150万円 ÷ 自己資金1,000万円 × 100=15%
最後に、空室が20%発生したと仮定しすると、想定利回りは次の様になります。
(想定年間収入160万円 - 想定年間経費50万円)÷(物件購入価格2,000万円 + 購入諸経費200万円)= 110万円 ÷ 2,200万円 × 100 =5%
概ねの相場である利回り5%に落ちつきました。
表面利回りが10%で販売されていても、空室を加味すると利回りが5%になる場合もあります。もし高い利回りで放置されている物件があれば、周辺物件の空室発生状況なども調査してみると良いでしょう。
不動産利回りの最低ラインはどのように設定する?
不動産投資における利回りの最低ラインは、投資目的や物件状況によって異なります。たとえば、月々のキャッシュフローを増やしたい場合はなるべく高利回りを求めるでしょうし、給与所得と相殺した節税が目的であれば比較的低利回りの物件の方が望ましいかもしれません。
しかし、一般的に不動産投資における利回りの理想ラインは5%前後・最低ラインは3%程度と覚えておくとよいでしょう。
不動産投資は、不動産賃貸業を営むことと同義です。不動産賃貸業を営むためには、不動産会社に支払う広告料や手数料、物件管理手数料が必ず必要になります。また、経年や入退去に伴う修繕費もかかりますし、固定資産税や都市計画税などの税金の支払いも必要です。
これらの支払いを負担なく行うためには、3%~5%の利回りは確保しておいた方が安心でしょう。
ただし、物件の位置するエリアによっては、賃貸需給バランスに応じて異なる利回り相場が存在している場合もあります。物件購入前に、複数の不動産会社に利回り相場を訪ねてみてください。
不動産投資で最低ライン利回りを下回った場合の対処法
ここからは、不動産投資で最低ライン利回りを下回った場合の対処方法について紹介します。
不動産購入前に最低ラインを下回ることが分かった場合
不動産購入前に最低ラインを下回ることが分かった場合は、物件の購入を見送る、もしくは利回りを改善するための施策を行います。
利回りを改善する案を考えるために、もう一度利回り計算式を見てみましょう。
数学的に捉えると、利回りに影響する変数は「収入」「経費」「物件購入価格」「購入諸経費」の4つです。そのため、物件購入前に利回りを上げる方法とすると、次の4つが考えられます。
- 年間収入を上げる
- 年間経費を下げる
- 物件購入価格を下げる
- 購入諸経費を下げる
物件購入前であれば、物件購入価格と購入諸経費の交渉が最も効果的な利回り改善方法です。たとえば、年間収入が100万円、購入価格が2,000万円の物件の場合、利回りは次の様になります。
100万円 ÷ 2,000万円 ×100 = 5%
ここで、購入価格の10%値下げを購入し、1,800万円で購入したと仮定すると、利回りは次の様に変わります。
100万円 ÷ 1,800万円 ×100 = 約5.56%
購入価格を10%下げると、利回りは約11.2%改善されました。さらに詳細に計算すれば、購入価格の減少に伴い不動産会社に支払う仲介手数料(購入諸経費)も安くなるため、実際には利回り改善に与える影響がさらに大きくなります。
物件購入前に利回りを改善したい場合は、まず物件の取得金額を下げることを意識しましょう。
不動産購入後に最低ラインを下回った場合
不動産購入後に最低利回りラインを下回ってしまった場合は、利回り改善の変数が変わります。
「物件購入価格」「購入諸経費」は変えられませんから、利回りに影響する変数は「収入」「経費」の2つのみです。そのため、利回り改善の方法は次の2種類が考えられます。
- 収入を上げる
- 経費を下げる
さて、不動産賃貸業における収入について因数分解すると、次の様になります。
収入 = 家賃 × 入居戸数
日本の賃貸業界の状況を考慮すると、既存入居者の家賃を上げることは現実的ではありません。そのため、収入を上げようとする場合は入居戸数を増やすことに集中する必要があります。
仮に空室が発生している場合は、客付けに力を入れます。ゴミステーションや駐車場の整備など低コストで実施できる環境改善を行ったり、不動産会社と相談して狙うべきターゲットを絞ったりして対策しましょう。
場合によっては、改装やリノベーションを行うことで物件価値を高め、新規入居者に対する家賃を上げる方法もあります。ただしこの場合も、改装費用に対する利回りはしっかり計算しましょう。
ただし、昨今はリノベーションなど多額のコストをかけず、Wi-Fi環境を導入するだけで空室率が改善する場合もあります。また、敷金礼金ゼロなど入居者の初期費用負担を減らす試みも有効です。入居者の目線にたって、どのような物件であれば入居したいか考えてみましょう。
さて、すでに満室経営にも関わらず最低ラインを下回ってしまっている場合は、なんとかランニングコストを下げる必要があります。
外部委託していた清掃や管理業務を自分で行ったり、火災保険の契約内容を見直したり、退去に伴う修繕が発生しないよう入居者満足を高めるなど、経費を下げる活動をしましょう。
利回り判断で注意すべきポイント
利回り判断で注意すべきポイントとしては、次の4つが挙げられます。
- 空室リスク
- 修繕リスク
- 融資条件
- 土地条件
空室リスク
利回りを下げないためには、空室リスクを最小限にコントロールする必要があります。
空室リスクとは、空室期間中に発生するはずだった収入の損失のことです。空室が発生すれば、単純に収入が下がります。そして不動産賃貸業の特性上、空室だった期間の収入を後から取り戻すことはできません。
長期にわたって安定した利回りで不動産賃貸業を営むためには、その地域の特徴に合わせた需給バランスを見極めた物件選びが重要です。
たとえば、学生の需要が多いエリアでは、卒業に合わせた退去が確実に発生し、原状回復コストが定期的にかかることが予想されます。そのため、物件購入前の利回り計算でも原状回復コストを考慮し、ある程度余裕をもった最低利回りラインを求めた方が良いでしょう。
一方、都市部のファミリー向け物件や、地方の戸建て物件の場合、入居者はある程度の期間にわたって暮らし続けることが予想されます。この場合は入居者満足度を高めて退去を防ぐことで、空室を避けた安定利回りが期待できるでしょう。場合によっては入居者からの声に耳を傾け、リフォームや改装を視野に入れることも検討してみてください。
修繕リスク
修繕リスクは、老朽化や自然災害による損害などで予期せぬ出費が発生するリスクのことです。
不動産賃貸業を営むにあたり、修繕リスクは避けられません。そのため、予め定期的な点検やメンテナンスを行い、将来的な修繕費を最小限に抑える努力が必要になります。また、毎月の収入から修繕費を積み立てておくなど、修繕リスクに備えた資金確保も重要です。
融資条件
物件購入時の融資条件は、利回りのみならず、毎月のキャッシュフローに大きく影響します。融資金利や返済期間が変われば、毎月の返済額が変わるためです。
融資条件が長くなればなるほど毎月の返済額は下がりますが、一般的には物件の残存法定耐用年数以上に返済期間を延ばすことはできません。
また、物件の残存法定耐用年数が短すぎると担保価値が少ないと判断され、融資条件が厳しくなる(金利が高くなる)こともあります。そのため、購入物件の担保価値にも注意してください。
なお、法定耐用年数は建物の構造によって異なります。主な構造ごとの耐用年数は次の表の通りです。
構造 | 耐用年数 |
---|---|
木造 | 22年 |
金属造(骨格材肉厚が4mmを超える) | 34年 |
金属造(骨格材肉厚が3mm~4mm) | 27年 |
金属造(骨格材肉厚が3mm以下) | 19年 |
れんが造・石造・ブロック造 | 38年 |
鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造 | 47年 |
もしも既に不動産投資用物件を保有している場合は、購入希望物件と共同担保にすることで融資条件が緩和される場合もあります。また、メガバンクよりは地方銀行、地方銀行よりは政策金融公庫の方が不動産購入用の融資が受けやすい傾向にあるので、金融機関選びの参考にしてください。
土地条件
賃貸するのは建物ですが、建物が建っている土地の条件も利回りに影響します。
たとえば、将来的な都市開発計画や交通インフラ整備が予定されているエリアでは、建物の価値は低くても、土地の価値が高まる場合があります。このような場合、毎月の賃貸収入利回りが低いとしても、キャピタルゲインが期待でき、最終的な儲け(キャッシュ・オン・キャッシュ・リターン)が増える可能性もあるでしょう。
利回りはあくまでも「インカムゲイン」を評価する指標ですが、不動産投資においては「キャピタルゲイン」も見逃せないポイントです。最低利回りラインは意識しつつ、キャピタルゲインで儲ける方法も視野に入れておくと良いでしょう。
不動産投資において利回りの最低利回りラインは常に意識するべき
この記事で紹介したように、不動産投資家にとって利回りは非常に重要な指標です。最低利回りラインを下回った物件を買ってしまうと、毎月の収入を得るどころか、支出の方が多い負債物件になってしまいます。利回り以外の指標も考慮しつつ、利回りの理想ラインは5%前後・最低ラインは3%程度と覚えておきましょう。
この記事のポイント