海外不動産と日本の税金 注意点や節税について解説【税理士監修】

コラム
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日本は少子高齢化で経済の成長性が危ぶまれている状況ですが、海外では人口が増加している国があり、将来にわたって高い経済成長率が期待できます。そのため、近年、注目されているのがアメリカやアジア新興国など、海外の不動産を対象にした不動産投資です。この記事では、海外不動産に投資をする際の税金面における注意点や節税方法について解説をします。

監修者

税理士 板山 翔
「オンライン専門の税理士事務所」を開業。主なクライアントである従業員5人以下の小さな会社の経営者は、自分で商品・サービスを提供していたり、自分自身がトップセールスマンであったり、とにかく忙しいので、郵送や訪問などの手間がかからない、オンライン専門の税理士事務所を開業した。また、自社の事業を税理士業ではなく、経営に必要な情報をオンラインで提供する事業と捉え、経営戦略コンサルタントとしても活動している。

海外不動産投資にかかる税金

海外で不動産を取得する際は日本と同様に税金がかかります。

ここでは、海外不動産投資を行う際に知っておきたい「税金」について、「海外不動産取得時」「 海外不動産保有時」「海外不動産売却時」の3つのシーンで解説をします。

海外不動産取得時

日本国内で不動産を購入すると「不動産取得税」「印紙税」「登録免許税」などの税金が発生しますが、海外不動産の取得時においても何らかの税金が課されます。国や地域により課税される税金が違うことがあるので注意しましょう。

例えば、アメリカのハワイ州の場合は、不動産を取得したとき税金はかかりません。
しかし、毎年10月1日時点での不動産の所有形態や固定資産税評価額に応じて、毎年0.35%~1.24%の税率(オアフ島)で固定資産税が課税されます。納付回数は年2回です。

中国の場合は、不動産を取得するときに日本の不動産取得税に該当する「契税」という契約税を納付することになります。地域により契税の税率は違い、上海でマンションを個人で購入する場合は、購入価格の1.5%あるいは3%の契税を物件の取得者は納めなければなりません。

なお、納付した税金は確定申告の際に経費として計上できるので、金額と費目をきちんと確認しておきましょう。

海外不動産保有時

海外の不動産を保有している場合でも、基本的に日本で申告をしなければなりません。

日本は全世界で稼いだ所得に対して課税される「全世界所得課税」を採用しているため、日本以外で得た所得に対しても、抜かりなく課税されます。なお、アメリカや中国も全世界所得課税方式です。

そのため、日本に住んでいる人が海外で所有する不動産で家賃収入を得ている場合、不動産所得として日本にある不動産と同じように申告することが必要です。収入や経費の計算などは、すべて日本の税法に従って計算をします。

また、海外不動産投資でも日本国内での不動産投資と同様に、賃貸経営にかかった費用は経費として計上することが可能です。経費に計上できる項目には以下のようなものが挙げられます。

項目内容
賃貸管理費物件を管理している不動産会社に支払う管理料
ローンの支払金利ローンを利用している場合の金利
火災保険料建物の火災保険料を保険会社に支払う
減価償却費固定資産の購入費用を使用可能とされる期間にわたって、分割して費用計上する会計処理
物件の修繕費物件の内外装にかかった維持管理や原状回復のためのリフォーム代
固定資産税などの税金ほぼどの国でも固定資産税が課税される

なお、国によっては、対象となる不動産に対して所得税に相当する税金がかかる場合があります。いわゆる、二重課税で、日本と外国で二重に所得税が課税されることがあるのです。

二重課税の負担を軽くする方法としては、後述の文章で「外国税額控除制度」について詳しく解説をします。

海外不動産売却時

海外不動産を売却して利益が出た場合は、「譲渡所得」として課税されます。
譲渡所得税の課税対象は、譲渡益から海外不動産の取得費用や譲渡費用を差し引いた金額です。

海外不動産の所有期間で税率が異なり、所有期間が5年を超えているかどうかで税率が変わります。以下の表にまとめたので参考にしてください。

短期譲渡所得の税率 (所有期間が5年以下)所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%=合計39.63%
長期譲渡所得の税率 (所有期間が5年以上)所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%=合計20.315%
https://www.sumai1.com/useful/plus/sellers/plus_0164.html

上記のように、所有期間が5年を超えているかどうかで税率が約2倍も変わってきますので、売却するタイミングを調整できる場合は、5年以上の所有を目処に売却すると節税効果があります。5年前後で所有している不動産を売却するときには、売るタイミングを慎重に考えましょう。

海外不動産投資の税金に関する注意事項

海外不動産の投資を行う場合に気をつけたいのが、税金に関する注意事項です。
主に気をつけたいポイントとしては以下の3つが挙げられます。

  1. 確定申告を日本と海外の双方で行う
  2. 外国税額控除制度を活用する(租税条約を締結している国のみ)
  3. 国外中古建物に関する損益通算が一部適用外(令和3年1月1日から適用)

ここでは、確定申告の際に知っておきたい注意点について解説をします。

確定申告を日本と海外の双方で行う

海外不動産投資をする場合は、確定申告を日本と海外の双方で行う必要があります。
海外にあるからといって、日本でやらなくても良いというわけにはいきません。

日本に住んでいる人であれば、日本の税法で全世界での所得に対して課税されることになり、
海外不動産からの家賃収入や売却益についても、国内にある不動産と同様に不動産所得あるいは不動産譲渡所得として課税されます。

なお、海外不動産の場合は、原則、海外不動産がある現地国でも課税されるため、現地国での確定申告も必要です。そうなると二重課税が懸念されますが、日本に住んでいる人の場合、「外国税額控除」が適用されるので、その際に調整することになります。

とはいえ、現地国で支払った所得税を全て控除するわけにはいかないので、二重課税の問題が完全にクリアされないことも少なくありません。日本ではアメリカやイギリス、中国をはじめとする世界56カ国と二国間の租税条約を結んでいます。

課税の区分と所得税・住民税の税率は以下のようになります。

課税方法所得税・住民税
不動産所得総合課税15%~55%(最高)
不動産譲渡所得申告分離課税長期20.315%、短期39.63%
https://www.sumai1.com/useful/plus/sellers/plus_0164.html

確定申告の際は、外国通貨での収益及び費用を日本円に換算する必要があり、原則、取得時・売却時の取引をした日のレートで金額を決定します。

外国税額控除制度を活用する(租税条約を締結している国のみ)

先述したように「外国税額控除制度」とは、国際的な二重課税を調整するために、一定額を所得税額から差し引くことです。日本に居住している人が海外不動産の投資により収益が出た場合は、現地国だけでなく日本でも確定申告をする必要があります。

不動産投資で利益が出ると現地国においても課税されることがありますが、日本でも課税されるため、二国間における二重課税の負担を少なくするための制度です。

外国税額控除は、所得税、県民税、市民税の順で控除され、限度額は住宅ローン控除や配当控除などの税額控除を差し引いた残額と規定されています。

計算方法は、以下の通りです。

所得税の外国税額控除限度額=その年分の所得税額×(その年の国外所得総額÷その年分の所得総額)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1240.htm

この計算式では、その年の所得における国外所得の割合分しか控除されません。

なお、県民税の外国税額控除限度額は所得税の外国税額控除限度額×12%、市民税の外国税額控除限度額は所得税の外国税額控除限度額×18%です。

外国所得税の額が控除限度額を超えたときには、3年間の繰越が認められているので、活用しましょう。

外国税額控除を受けるには、不動産を売却した年分の所得税の確定申告書に、控除を受ける金額の記載をします。添付書類として「外国税額控除に関する明細書」や、外国所得税を課されたことを証明する書類、国外所得総額の計算に関する明細書などが必要です。

日本と租税条約を締結している国は45ヶ国あり、主な締結国の一覧表は以下の通りです。

フランス・アメリカ・ドイツ・インド・インドネシア・イギリス・エジプト・オーストラリア・オーストリア
カナダ・韓国・フィリピン・スイス・スウェーデン・スペイン・タイ・中国・ブラジル
出典:表31 租税条約締結国一覧表|国税庁

国外中古建物に関する損益通算が一部適用外

以前は投資家の間で「海外不動産は節税になる」と話題にされ、特にアメリカの中古建物が人気でした。

しかし、令和2年度の税制改正により、「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」が新設されてから海外不動産の節税効果が小さくなったのです。

それまでは、海外不動産によって生じた不動産所得の損失についても他の所得と損益通算できたので、日本での収入と合算させて所得を抑えることが可能でした。そのため、富裕層を中心に人気の節税方法だったのです。

しかし、令和2年度税制改正以降は、損失部分のうち国外中古建物の減価償却費の部分は損益通算が認められなくなりました。そのかわり、損益通算しなかった分は売却時の取得費に加算され、売却時の譲渡所得は小さくなります。

この改正は令和3年1月1日以降の不動産所得から適用されており、投資した物件の取得時期には関係ありません。そのため、国外中古建物に関しては今年に購入しても20年前に取得しても税制の扱いは同じとなります。

なお、法人での投資は対象外であり、損益通算できなくなった減価償却費は「中古建物」のみなので、新築の建物や建物付属設備などはそのまま適用することが可能です。

海外不動産投資の節税方法

不動産投資家の間で人気の節税方法が、海外不動産への投資でした。
海外不動産投資の節税方法は、海外不動産を取得後、建物にかかった費用を減価償却し、発生した赤字を日本での収入と損益通算して課税される所得額を少なくするというものです。

しかし、令和2年の税制改正において「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」が新設され、海外の中古建物を減価償却して発生した赤字が損益通算することができなくなりました。

ここでは、税制改正の内容や改正後の節税方法などについて解説をします。

税制改正について

税制は経済社会の変化に伴いながら税負担の公平を確保するために、その在り方が検討されています。

そのため、政府が国民や各種団体の税制改正に関する要望を汲み取り、例年、予算編成作業と並行して税制改正の作業も実施しています。

例えば令和4年度の税制改正では、住宅ローン控除制度の見直しを行い、住宅ローン控除の適用期限を4年延長(令和7年12月31日までに入居した者が対象)することになりました。適用されるのはいくつかの要件を満たす必要がありますが、住宅ローンを背負う人は高い減税効果を得られます。

これまで中古建物の購入を中心とする海外不動産への投資は、資産家の間では節税スキームとして多く利用されてきました。以前から問題視はされていましたが、あまりにも目に付く状況になったため、とうとう国税庁が法律改正へとメスを入れたのです。

税制改正では何が変わった

令和2年度の税制改正において令和3年以後の各年からは、海外の中古建物を取得した場合、その国外中古建物から生じた不動産所得の損失のうち、その中古建物の減価償却費に相当する部分の金額については「最初から発生しなかったもの」とみなされます。

これにより他の所得との損益通算はできないこととなり、海外不動産を利用した節税スキームは終焉を迎えることとなりました。

税制改正後にできる対策

税制改正後に検討したい対策として以下の3つが挙げられます。

国や物件の選び方を変える
個人所有から法人所有へ切り替える
節税ではなく不動産投資で利益を狙うことにシフトする

改正前はアメリカの築年数22年以上の木造住宅が節税効果が高く人気がありましたが、改正後は減価償却分を損益通算できなくなったので、不動産を購入する国を変えてみるのもよいでしょう。
近年ではキャピタルゲインが大きく期待できる東南アジアの不動産投資が注目されています。
東南アジアの中で最も経済発展が進んでいるマレーシアなどが人気です。

ただ、外国人に対する規制があり、物件の最低購入価格が設けられています。マレーシアでは、外国人はRM100万(日本円にして2,700万円)以上の物件しか購入できません。(2020年時点)家賃を高く設定する必要がありますが、入居できる層は限定されるため、空室リスクには注意が必要です。

改正後に封じられたのは個人での節税スキームですが、法人の場合は海外不動産の損失も全て損金として認められるため、不動産を個人ではなく法人で所有する方法もあります。

そして、今後重要になってくるのは「節税対策」としてではなく、家賃収入や物件の売却益で稼ぐ「事業」として利益を上げることです。海外不動産投資では、日本よりも将来性の高い市場で投資できるため、より大きな資産を形成できる可能性が高くなります。

まとめ

令和2年度の税制改正の結果、令和3年分の確定申告から「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算の特例」が適用されるようになりました。

これにより、アメリカなどの海外不動産投資で節税効果を上げていた人たちは、今後、その節税スキームを利用することはできません。しかし、マレーシアやタイなど東南アジアの海外不動産は、キャピタルゲインの期待が大きいことから、不動産投資の対象として注目されています。

これからは、節税目的だけでなく、不動産事業そのもので利益を上げる方向にシフトしていくとよいでしょう。

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