HISASHI|パンク精神溢れるアウトサイダーが受け継ぐhideのスピリット<GLAY特集>

遊び心満載、アイディアマンぶりを発揮するHISASHI

フォークソングにも通ずる情緒的で実直なメロディーと、キャリアを重ねてなお青春の輝きを失わない瑞々しいビート感、ドラマティックなアンサンブル。‘94年のメジャーデビュー以来、日本という土壌で独自に育まれたロックの正統な継承者として、GLAYは王道を走ってきた。

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そんな中、エッジの効いたアイディアを繰り出すアウトサイダー的ポジションを担うのが、HISASHIである。
地元・函館で過ごしていた高校時代、ツインギターの相棒を探していたTAKUROに誘われてGLAYに加入。以来、旺盛な好奇心と尖ったセンス、サブカルチャーへの深い造詣をベースに、高感度のアンテナで時代の空気をキャッチし、バンドに新しい息吹を吹き込み続けてきた。

HISASHIの繰り出すサウンドは、“ギターから出る音”という固定概念から大幅に逸脱した多彩さが魅力。あまりにもギターらしからぬ音色に、シンセサイザーから出ているのか……? と耳を疑うこともあるほど。その一方で、クリアトーンで爪弾く透明感、ピュアさもまた格別。鳴らす音は自由で大胆かつエフェクティヴだがプレイは極めて緻密、寸分の狂い無く正確である。


ソングライターとしても固有の世界観を持ち、「アイ」「coyote,colored darkness」のような疾走感溢れるデジタルなダークロックから、「彼女はゾンビ」「微熱 (A) girlサマー」といったキッチュなポップソングまで、手掛ける曲調も幅広い。メンバーそれぞれがコンポーザーを務め、4者4様の持ち味を堪能できるシングル『G4』シリーズ最新作『G4・2020』収録の「ROCK ACADEMIA」は、サウンド&MV両面において遊び心満載で、HISASHIのアイディアマンぶりを痛感。

歌詞における言葉選びや話法も常に独特。シュールな仮想空間を歌っているようで、実は現実社会への鋭い風刺や熱い想いが潜んでいることもあり、深読みのしがいがある。ストレートでわかりやすい表現は詞曲共に避ける傾向にあるが、実は誰よりも真っ直ぐで温かい心の持ち主なのではないか? と思ったりもする。

フットワーク軽く、ファン層の拡大に貢献

アニメやアイドル界隈にも詳しく、その知識と愛は楽曲提供やプロデュースワークにも発展。好奇心旺盛ゆえにPCやインターネット、SNSを活用し始めたのも早く、「弾いてみた」動画をYouTubeにアップしたり、ニコニコ超会議に出演したり(後にGLAYとしての出演にも繋がった)と神出鬼没。



今年3月には「SOUL LOVE」のギターアレンジ動画を撮影し、コロナ禍により様々なイベントやライブが延期・中止となっている状況への想いを付記して動画投稿した。また、テレビにおいては『関ジャム』でスネ夫のテーマをギターで奏でるなどして話題となり、念願の『タモリ倶楽部』への出演も3度果たしている。

こうったHISASHIのフットワークの軽さは、ベテランゆえに重鎮扱いを受けがちなGLAYをポップなフィールドへと“出張”させ、新たなファン層を開拓する重要な役割を担っている。

HISASHIの怖いもの知らずのアナーキーさ、際どいところを攻める良い意味での邪道感は、2015年辺りからGLAYの王道を侵食。リーダーTAKUROが「今年はHISASHIが熱い!」などと焚きつけている感もあるのだが、2019年の8月、メットライフドームで開催されたコンセプトライブ『HOTEL GLAY』の2日目「悪いGLAY」公演ではHISASHIがプロデュースを担当。

「FATSOUNDS」を3回連続で披露するという暴挙に出たり、通常であれば最大の聴かせどころとなるはずの代表曲「HOWEVER」に居酒屋コント風の演出を施したりと、突拍子もないアイディアをこれでもかと実行、笑いっぱなしの忘れ難い公演となった。



ベテランになっても丸くなるどころか尖ったままであり続け、新しいものへの飽くなき探求心に溢れたトリックスターぶりに触れて浮かんでくるのは、HISASHIはhideのスピリットを継ぐパンクロッカーでありギターヒーローなのではないか? という想いなのだった。

hideをリスペクト

2012年、灼熱の長居スタジアムで行われた前回の『HOTEL GLAY』。メンバー別のコーナーで、HISASHIはギターソロメドレーを披露し、「Bad Feeling’」「Layla」など、自身の音楽的形成要素を解き明かすかのように、時代を映すキラーフレーズをDJ的に弾き繋いでみせた。

その最後、おもむろにヘア&メイクの谷崎氏がステージに登ると、HISASHIにスプレーを噴射。たちまちピンクに染め上げられた髪で「ROCKET DIVE!!」を歌い奏でたパフォーマンスは華麗にして感動的、会場を湧きに湧かせた。

HIDEがインディーズ時代のGLAYのデモテープをYOSHIKIに聴かせたことがデビューの発端だ、というのはよく知られているエピソードであり、節目のライブではhideの曲を披露してもいて、2016年の『VISUAL JAPAN SUMMIT』ではX JAPANの「JOKER」(HIDE作詞・作曲)をカバーする前にTERUが代表して謝辞を述べていた。

2018年、hide逝去20年を記念したトリビュートアルバム『hide TRIBUTE IMPULSE』に参加したHISASHIは、独自解釈の「DOUBT(HISASHI×YOW-ROW)」で度肝を抜き、「初めてメールでやり取りした相手はhideさんでした」とコメント。
“遊びの天才”とhideを讃え、リスペクトを表明している。

一見クールだがじつは驚くほど熱い

平成という時代を駆け抜け、令和に突入して減速するどころかなお活動を活性化させているGLAY。誰も予想しない形で幕開けた2020年代を生きながら、HISASHIは「hideさんならどうするか?」と常に心の内で問い、行動指針としているように思えてならない。

ヴィジュアル系と名乗れど、衣装やヘア&メイクがよりナチュラルに、カジュアルに変わっていくアーティストも多い中、ステージに上がる際HISASHIは必ず全身しっかりと“化ける”。そこに感じるのは、舞台に立ってスポットライトを浴び、美しく“歌舞く”ことへの誇りである。

幕が開いた瞬間、現実を忘れさせ、コンサートという非日常空間へと橋渡しする異界の使徒であり、観客の心をさらっていく魅惑の魔法使い。決してど真ん中には立とうとはしないが、HISASHIは、GLAYの表現活動において欠くことのできない機能を担うキーパーソンである。



第2回のレビューでTERUを太陽に、第3回でTAKUROを海にたとえてきた流れで自然界から比喩を選ぶなら、HISASHIは星。この世から闇が消えはしないことを踏まえた上で、面白いことを探し続け、自ら楽しんで発信するが、決して押し付けることなく静かに輝いている。一見クールだが近付けば驚くほど熱い。そしてその光は、心に闇を抱えた人々をそっと照らしてきたことだろう。

インタビューではユニークな視点から思いがけない答えを返してくれることが多く、こちらが気付きを得ることも多々。また、大の車愛好家だからこそ許せないのか、渋滞を発生させるドライバーの“悪いマナー”にしばしば憤り、熱弁を振るう姿が微笑ましく思い出される。
見た目と内面とのギャップがGLAYの中で最も大きいのは彼かもしれない。

想像もつかない発想で、ワクワクと心躍る“何か”を必ずもたらしてくれるHISASHI。次なる企みに驚かされる日を心待ちにしている。
(大前多恵)

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ライブ情報

【GLAY DEMOCRACY 25TH “HOTEL GLAY GRAND FINALE” in SAITAMA SUPER ARENA】
会場:埼玉・さいたまスーパーアリーナ
2020年12月19日(土)開場15:30 / 開演17:00
2020年12月20日(日)開場14:30 / 開演16:00

チケット:S席 ¥9,900、A席 ¥6,900、着席指定S席 ¥9,900(各税込)
※「着席指定S席」はHAPPY SWING会員、GLAY MOBILE会員の方を対象に、枚数限定で販売
※3歳未満の入場不可、3歳以上チケット必要

問い合わせ:ウドー音楽事務所(TEL. 03-3402-5999 / 月・水・金12:00-14:00)
詳細:https://www.glay.co.jp/live/