
2009年06月19日 掲載
Excite:10組のアレンジャーを迎えた6年振りのアルバム『三文ゴシップ』ですが、作品全体ではどういう内容を想定していたんですか?
椎名:海で、山で、あるいはレジャーのお供として使えるアルバムってことしか考えていませんでした。私は自分のことをロック・スターだと思っていないのに、かつてはリスナーの方から「ロック・スターとして、どんなふうに若死にするのか楽しみだ」っていうような内容のお便りを頂くことも多くて、そういう人達の描いているストーリーだと、3枚のアルバムで終わった方が良いんだろうから、その話に落とし前をつけようと思ったし、【生林檎博】もその範囲でやらなきゃいけないこととしてやったんです。でも今作は、多くのロック・スターが亡くなっている27歳を超えて、お陰様で元気に30歳を迎えた人間が作ったアルバムですから、聴いてくださる方がヘッドフォンをして通勤、通学される時、電車で、道端で、主役になって頂きたいんです。
Excite:音楽的にはそれぞれの曲の個性がより色濃く打ち出されています曲の性格を考慮した上でアレンジャーを選ばれたわけですね?
椎名:そうですね。それとアレンジャーさんありきで曲を作ったものっていう二種です。例えば、SOIL&“PIMP”SESSIONSとやっている「マヤカシ優男」は彼等ありきで曲が出来ています。お忙しい方達で、国内でのレコーディングはこの日しかないっていう条件だったので、自分の楽しみとして自由にやって頂くことを前提にしつつも、こちらで「こういうプレイをされるんじゃないかな」って予想したデモ演奏を録っておいて事前にお渡ししたんです。それから池さん(池田貴史)とやった「労働者」の場合は、バンドでバーンとやってしまう想像が付くから、やり易いようにラフなデモテープをお渡ししたんです。
Excite:音楽的にはロック、ポップスはもとより、ワールド・ミュージックやミュージカル音楽の要素が散りばめられていますが、「密偵物語」はかつて発表したシングル「真夜中は純潔」に近いスパイ映画のサントラを思わせるスリリングなアレンジ、そしてNHKみんなのうたに書き下ろされた8曲目の「二人ぼっち時間」は斎藤ネコさんがきらびやかなアレンジを施されていますね。
椎名:「密偵物語」は「真夜中は純潔」の続編とも言えるんです。作ったのはここ1年の話で、当初は続編を作ろうとは思ってなかったんですけど、英語の詞を相談した方にデモを聴かせたら、イラスト付きで続編になる歌詞を書いて来て下さったんです。作曲時のイメージとはちょっと違うんですけど、それがいい物語だったので採用することにしました。「二人ぼっち時間」は「目の前の欲求に正直であろう」をテーマに書き下ろして、ネコさんにアレンジをお願いしたところ、ばっちり決めてきてくださいまして、その結果がこの曲と6曲目の「都合のいい体」になりました。
Excite:歌詞の面では、レコーディング初期段階でのお話だと、「居酒屋の会話に近い、言いっぱなしの作品になりそう」ということをおっしゃっていたと思うんですけど。
椎名:そんなこと言ってましたけど、結果的にはそういう内容にはなりませんでしたね。
Excite:ただ、以前の作品と比べて、率直な内容だと思うんですけど、リスナーに主役になってもらいたいという今回のアルバムにあって、林檎さんご自身と音楽の関係性、その在り方に関してはいかがですか?
椎名:普通の人間としてきちんと発育した老いや重ねていく経験値を歌にしていくということですね。それを一番綺麗で上品に聴かせてくださっているのは、私の中では女性では竹内まりやさんが初めてなんです。彼女は私の憧れの人でもあり、そもそも彼女みたいな方が“今どき”だし、洗練されていて素敵だと思っているんです。今日、今どうやってるか、工夫しているか。私は今をどう生きるかっていうことにしか関心がないんです。
Excite:このアルバムの林檎さんも誤解を恐れず今という瞬間を作品に焼き付けていらっしゃいますよね。
椎名:そういう意味では「流行」と「尖った手□」に参加して頂いたMummy-Dさんとの出会いが大きいかもしれない。白とか黒とかじゃなく、日本人がこんなにカッコイイということ、海外のアーティストは知らないんじゃないのって思いますから。日本は一番美味しい土地だし、楽器にしても世界一上手い人が多いんだから、バーンとやっちゃえば良いのに、アメリカとかイギリスで流行ったものを輸入して、服装から何から型にハマって、和製某っていう借り物の型にしちゃうじゃないですか。でも、今時欧米に倣わなくたって、日本のミュージシャンはすごいですし、もっと、独自のカルチャーが堂々とあっても良いんじゃないかって私は思っているんです。