地下鉄の車内に突如として充満する焦げくさい異臭と、耳をつんざくような悲鳴。今年8月、大阪メトロ御堂筋線の車内で起きたモバイルバッテリーの発火事故は、満員電車をパニックの渦に突き落とした。
乗客が命からがら避難し、電車は運転見合わせを余儀なくされた。モバイルバッテリーの爆発事故は、もはや他人事ではない。いつ私たちのポケットやバッグの中で火を噴くかわからない動く爆弾となっている。

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政府はついに、この深刻な事態を受けて安全規制の抜本的な強化に乗り出す方針を固めた。経済産業省が電気用品安全法のルールを書き換え、今年度中にも第三者機関による厳格な安全検査を義務化する。月内にも方針を発表し、1年間の準備期間を経て本格的に導入する構えだ。政府関係者は、この第三者機関による検査の義務化は欧米でも例がない先駆的な取り組みだと胸を張る。

しかし、この新たな規制で本当に私たちの安全は守られるのだろうか。実態を知る関係者の間からは、期待よりもむしろ懸念の声が上がっている。

現在、日本国内で出回っているモバイルバッテリーの大半は中国製だ。製品評価技術基盤機構、通称NITEの調べによると、リチウムイオン電池が原因とされる事故は2021年の51件から、2025年には192件へとわずか4年で約4倍にまで跳ね上がった。今年の4月からは飛行機内での使用が禁止されるなど、すでに厳重な警戒が呼びかけられている。
事故の原因の多くは、電池内部で電極がずれて巻かれていたり、製造の途中で小さなゴミや異物が混入していたりする製造管理上の初歩的なミスだ。要するに、安全対策を極限まで削り落とした安上がりの粗悪品が、大量に日本市場へ流れ込んでいるのである。

これまでの日本は、ひどく甘いルールでこの危険物を受け入れてきた。2018年からモバイルバッテリーは規制対象となり、安全基準を満たしたことを示すPSEマークの表示が義務付けられていた。ところが、この仕組みには大きな穴があった。製品の安全性を調べるテストが、メーカー自身の自主検査に委ねられていたのだ。自社で検査しましたと報告すれば、それで安全の証明であるマークを付けられた。これでは泥棒に鍵の管理をまかせるようなものである。

そこで政府は、NITEの厳しい調査をクリアした信頼できる第三者機関がチェックを行い、合格した製品だけを市場に出す仕組みへと切り替えることを決めた。電気温水器などと同じ高いレベルのPSEマークを表示させることで、粗悪品を一挙に排除しようという作戦だ。8月末に専門家の会議でこの方針を提示し、今年度中の施行を目指して準備を進めている。

だが、ここで持ち上がるのが、悪質な海外メーカーによる検査逃れの抜け道問題だ。


昔、ある日本の大手航空会社で、こんな苦い経験があったという。ビジネスクラスで使う高級な食器を調達するため、海外のメーカーから見本を取り寄せた。届いたサンプル品は非常に素晴らしい出来栄えで、これなら合格だと納得して正式に大量発注を出した。ところが、実際に納品されてきた完成品を手にして担当者は絶句した。見本とは似ても似つかない、傷だらけで安っぽく質の悪い製品がダンボール箱いっぱいに詰め込まれていたのだ。あまりのひどさに航空会社は即座に契約を打ち切ったが、こうした手口は海外の現場では珍しくない。

この悪質な手法が、そのままモバイルバッテリーの検査でも使われる危険性が極めて高い。検査を受けるときだけは、特別に丁寧に作った最高品質の安全なバッテリーを提出して第三者機関の合格を勝ち取る。しかし、ひとたび合格マークを手に入れてしまえば、あとはこっちのものだ。実際の大量生産の段階に入ると、内部の安全装置をこっそり省いたり、安い危険な材料にすり替えたりして品質を限界まで落とす。安全よりも儲けを優先する悪質なメーカーであれば、こうした欺瞞工作を悪びれもなく実行に移すだろう。

第三者機関の検査を一度通ったからといって、その後に工場で作られるすべての製品が安全だという保証はどこにもない。
合格通知書という免罪符を手に入れた粗悪品が、以前にも増して堂々と日本の市場に出回る恐れすらあるのだ。検査義務化という制度の表面だけを整えても、生産現場でのすり替えや手抜きを監視し続ける仕組みがなければ、本当の意味で粗悪品を排除することはできない。

スマートフォンが生活の必需品となった現代において、モバイルバッテリーは誰にとっても手放せない存在である。だからこそ、その安全対策は単なる書類上の手続きであってはならない。政府は第三者機関の検査を義務付けるだけでなく、市場に流れた後の抜き打ち検査や、違反したメーカーへの厳しいペナルティを含めた万全の監視網を敷くべきだ。

自分のカバンの中にあるバッテリーは本当に安全なのか。国が新しいルールを作ったからと安心するのではなく、私たち利用者も信頼できるメーカーを見極める目を持つことが求められている。
【編集:af】
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