『学園アイドルマスター(以下、学マス)』は、2024年5月16日にリリースされたアイドル育成シミュレーションゲームで、ご存知『アイドルマスター』シリーズの最新ブランドです。

『学マス』の魅力は、現在13人のアイドルをプロデュースすることができ、それぞれ個性的な性格をしていること。
彼女らを中心にした小気味よい会話劇は、プロデューサーたちを楽しませています。

そしてアイドルたちをより映えある存在へと昇華させているのが、彼女らのオリジナル楽曲です。765プロを中心にした初代『アイドルマスター』の頃から各アイドルそれぞれのオリジナル曲がいくつもリリースされ、そのバラエティの多彩さが『アイドルマスター』シリーズをより豊かなものにさせてきました。

『学マス』楽曲はより現代のポップスに連動した楽曲が多く、スタイリッシュかつ刺激的なサウンドで多くのファンを魅了しています。またYouTubeなどの動画サイトの影響で、前情報を一切知らない視聴者の目に留まり、楽曲から『学マス』を知った、興味を持ったという方も少なくないでしょう。

この短期連載では、そんな『学マス』楽曲の中でも、特にオススメな楽曲を数回に渡ってレビューしていきます。

今回は、関連楽曲からダンスミュージック色の強い2曲をご紹介。その良さをとことん記していきたいと思います。

◆ダンス・ミュージックについて
まず、こういった音楽系の記事で語られる"ダンス・ミュージック"について。そのフィーリングや背景について書いていきましょう。

"ダンス・ミュージック"とは、60年代末から70年代初めにかけて花開いたファンクやソウルに始まり、ディスコミュージックからシンセポップ、1980年代初期のハウスやテクノミュージックへと着地し、その後シンセサウンドとリズムマシンを基本にしたサウンドで制作された当時の電子音楽。ならびに90年代以降にコンピュータの発展・進化によって広がっていった音楽を、"ダンス・ミュージック"と称することが多くあります。


要するに、シンセサウンドや鍵盤の音色に電子的なキックサウンドやベースサウンドが主体となった、ノリの良い音楽。ザックリとこのように総称すればいいでしょうか。(筆者としては、ジャズもロックもR&Bも歴史的な背景と音楽性を見ればすべて"ダンス・ミュージック"である!と書きたいところですが、ここではやめておきます)

そういった"ダンス・ミュージック"は、周期によって世界的なムーブメントになることがあります。70年代中期から後期のディスコブーム、80年代後半におけるレイブカルチャー、90年代末から00年代のフレンチハウス、人によっては80年代でのMTVを通して流行したシンセポップもそうだという方もいるでしょう。

そんな中、2010年代前半から盛り上がったのがEDMムーブメントでした。デヴィッド・ゲッタ、スウェディッシュ・ハウス・マフィア、アヴィーチ、カルヴィン・ハリス、スクリレックスといったトラックメイカー/DJが一気にブレイク。その強烈なサウンドは、その後のポップスに多大な影響を与えました。

激しくも高揚感あるシンセサウンド、メインベースだけでなくサブベースやサイドチェインを活かした分厚い低音に、多彩なドラム(パーカッション)や打ち込みサウンド。現在、ポップスのほとんどがDTMソフトを使って音源制作が行われており、DTMソフトの発展・定着、なによりEDMが大きくヒットしたことで、EDM的なサウンドテクスチャーは現代のポップスで標準装備されることになりました。

その影響の直下にあるのが、何を隠そうK-POP。あの刺々しいサウンドや特徴的なサウンドテクスチャーは、EDMとそれにまつわるジャンルから派生した部分が見受けられます。

ロックやソウルにヒップホップ、グループによってはトラップやハイパーポップから影響を受けたであろう曲もリリースされていますが、筆者から見ると、EDMサウンドから放たれる威圧感や高揚感を正統に受け継いでいるのがK-POPではないかと感じています。


◆K-POPのフィーリングを落とし込んだ花海咲季の「Fighting My Way」
そんなK-POPのフィーリングを『学マス』の世界に見事に落とし込んだ楽曲が、花海咲季の「Fighting My Way」です。

「Fighting My Way」は、日本でもっとも野蛮なポップスを生み出すことができるトラックメイカーことGiga氏が、作曲と編曲を手掛けた楽曲です。

この曲を構成しているのは、多彩なリズムパターンと音色、所々で顔を出す印象的なベース、そして花海咲季のエフェクト感マシマシなボーカルと、大きくこの3つに分けられます。

深いベースサウンドやクラップ音、水の滴る音、エフェクトがかかったボーカルを重ねたパートが織りなすイントロ。Aメロに入るとボーカルとベースが有機的に関わり、Bメロでは音を減らしボーカルとベースのみのパートでリスナーの耳をクッと引きつけ、細やかなドラミングからサビへと繋がっていきます。

サビへ入る瞬間のエコーがかかったティンバレス、適度にリズムを刻む打楽器や金物の音はラテンミュージックらしさを添えているよう。「この曲はボーカリストが激しくダンスをするんだ」というイメージをしっかりと植え付けてきます。

アイドルやボーカリストのボーカル(声そのもの)に対して過剰なエフェクトをかけてしまうと、アーティストのイメージなどから離れすぎてしまい、魅力を失ってしまうといった懸念が出てきてしまいます。

ですがこの曲は、公開されたのがゲームローンチされた2024年5月16日当日、あのリッチなライブ映像も一緒に広まったこともあり、そういった声は一切聞こえず、むしろ映像と音楽がピッタリとハマり『学マス』人気に大きく寄与した人気曲となりました。

強気で勝ち気な花海咲季らしい肯定と自己奮起を歌いつつ、他人との争いで打ち倒すのではなく、「切磋琢磨しながら自身を向上させていきたい」という彼女の願いとピュアな感情が描かれています。彼女のどこか好戦的で堂々としたイメージは、本楽曲のサウンドと歌詞で巧みに表現されています。

こういったイメージづくりと打ち出し方は、K-POPではガールズクラッシュと呼ばれ長年重用されてきたイメージづくりです。
「女性が惚れる女性」「かわいい/ピュア/セクシーさからは少し距離を置く」そして「女性らしさを前面に出していく」。

これまでの「アイドルマスター」シリーズの中でも、こういったイメージを全面に打ち出したアイドル、いやむしろここまでK-POPからの影響を全面に打ち出したアイドルは、類を見ません。しかもシリーズの顔ともいえる"赤"のポジションであれば、花海咲季が唯一ではないでしょうか。

先日開催されたライブイベント『学園アイドルマスター The 2nd Period H.I.F選抜試験(セレクション)』でも披露され、照明演出とあいまった完璧なステージング&パフォーマンスで、集まった多くの観客を釘付けにしていました。

K-POP譲りのガールズクラッシュなイメージを全面に打ち出し、溢れんばかりのアッパーなエナジーによって圧倒していくそんな奇跡のような瞬間を生み出せる立ち位置にこの曲はあるのです。

◆秦谷美鈴×ダンスミュージックで、より際立つ「存在感」
「Fighting My Way」とは異なるアプローチでダンス・ミュージックを取り入れているのが、秦谷美鈴の関連楽曲です。

秦谷美鈴といえば、”ムリはしない”主義のマイペースぶりで周囲をコントロールし、眠たげなムードで先輩や同期たちを惑わすこともある人物。授業もレッスンも多くはこなさない"サボり魔"でありながら、実力はトップ層に位置するという異彩の存在です。

またゲーム中でプロデューサーから"傲慢"と評される一面もあり、言葉少なで穏やかなムードの奥に滲む不遜さと、それに違わぬ底知れない実力が彼女の魅力といえるでしょう。

そんな秦谷美鈴のソロ曲はこれまでに「たいせつなもの」「ツキノカメ」「ヨルニテ」「Superlative」「VEIL」の5曲がリリースされており、そのうち4曲がEDMやダブステップ、実験的要素を含むアブストラクトなダンス・ミュージックをバックボーンにしています。

なかでもぜひ聴いてほしいのが「ツキノカメ」です。

ボーカルに多重にエフェクトをかけた独特な響きからスタートし、鍵盤の音色とともにセンチメンタルなニュアンスを発しているところから、リズムパートやシンセベースの刻みとともに加速してサビへと到達する。
この高揚感は、まさにEDM・ダブステップ特有の楽曲構成です。

特筆すべきは、秦谷のか細く輪郭の薄いボーカルに強烈なシンセ・ベースサウンドとぶつけ、適度なエコーをかけることで浮遊感を与えている点です。この手法は篠澤広の「サンフェーデッド」など他の関連楽曲でも採用されています。

またこの曲、サビも含め秦谷のボーカルパートが他アイドルの楽曲に比べて少ないことに気づくでしょうか。
SpotifyやApple Musicで歌詞を表示してみると一目瞭然です。しかもJ-POPとしてみるとサビにあたる部分で、”歌わなくなる”のです。

では、その間に彼女は何をしているのか―――ズバリ、ダンスです。

先日開催された3DCGリアルライブ「H.I.F選抜試験」を両日取材したのですが、秦谷美鈴のパフォーマンスは異質そのものでした。他のアイドルが歌とダンスを同時にこなすなか、歌うときはスッと立ってボーカルをこなし、踊るときはバチッとダンスする。"歌いながら踊る"ではなく、"歌う"と"踊る"を明確に分けているように見えました。

また、激しいEDM・ダブステップ系トラックはダンスミュージック本来の"踊らせる"機能が強く、いわゆるボーカルパートは少なめになる傾向があります。そこに、ウィスパー気味の声色を持つボーカリストをあえて起用し、スポットライトの下で踊っていくことで、"存在感を際立たせよう”というのが、この曲の構造や狙いといえます。


日本のキャラクターソングやアイドル楽曲にはこの系譜は存在し、秦谷美鈴の楽曲はまさにそこに連なっています。

ここで改めて思い起こしてほしいのが、秦谷自身のキャラクター性です。決してムリはしない、過度な努力はしない主義の彼女が、本来歌うべきはずのサビ部分で歌をうたわずにダンスする。歌とダンスをあえて分け、研ぎ澄まされたパフォーマンスで他者を圧倒しようとする。なんとも”らしい”なと筆者は感じます。

さらにもう一つ、秦谷美鈴には嫉妬深いという一面があります。元グループメンバーの月村手毬をはじめ、周囲の人々に目を向けてお世話することも多い彼女ですが、その裏返しとして「わたしを見てほしい」という強い意識を持っており、プロデューサーが他のアイドルと話しているだけで拗ねる姿も見せます。

そう考えると、彼女のEDM~ブロステップといったサウンドが多く使われているのは、偶然ではないように感じられます。
歪んだベースやシンセサウンドは、実力を誇示する不遜さや圧力のようであり、その圧力から一気に静かになることで、「わたしを見て」という無意識を表現している。しかも歌うべき部分であえて歌わないのだから、余計に注目を集めます。

静と動の抑揚を巧みにコントロールし、間をおきながら徐々に盛り上がっていくEDM・ダブステップ的な構造が、"秦谷美鈴の音楽"として提示されたとき、聴く者・見る者を彼女の世界へと引き込む強烈な引力が生まれます。

「わたしに夢中になってほしい」という無意識を、サウンドとボーカル、そしてパフォーマンス全体で設計する。
そのような視点で楽しんでみると、また違った秦谷美鈴の姿が見えてくるはずです。
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