アメリカのアラバマ州の小さな洞窟にある水たまりで、全身が白く、目を持たない小さな魚が見つかった。
アラバマ大学ハンツビル校などの研究チームが骨格と遺伝子を詳しく調べたところ、新種であるだけでなく、既存のどの属にも当てはまらない新しい属だと分かった。
この洞窟は過去30年以上に渡り、毎月調査されていたのだが、まだ新たな発見があったのだ。
研究チームは、海外ドラマ「ストレンジャー・シングス」でおなじみの悪魔デモゴルゴンにちなんだ学名をつけた。
この研究成果は『Scientific Reports[https://www.nature.com/articles/s41598-026-54315-4]』誌(2026年7月6日付)に掲載された。
30年以上も気づかなかった小さな洞窟魚
アラバマ州ハンツビルの郊外の、アメリカ陸軍の施設レッドストーン・アーセナルの敷地内には、石灰岩が地下水に溶けてできた全長約454 mのボブキャット洞窟がある。
天井の低い水没したトンネルと泥ですべる狭い通路をたどらなければ奥に進むことができないダンジョンのような洞窟だ。
1973年に絶滅の危機にあるアラバマドウクツエビ(Palaemonias alabamae)の最大の生息地だと分かって以来、ボブキャット洞窟は保護対象となった。
1990年からはアラバマ州地質調査所などがほぼ毎月、水質の測定とエビの数を調査している。
2025年2月5日、調査に入っていたアラバマ大学ハンツビル校のマシュー・ニーミラー氏は、洞窟の水たまりの底に見慣れない魚がいることに気づいた。
体には色素がまったくなく、白から淡い青色に見え、外から見える目を完全に欠いていた。
洞窟魚が白く目を持たないこと自体は珍しくないが、ニーミラー氏はヒレの筋が枝分かれしていないこと、頭の後ろがこぶのように盛り上がっていること、口先(吻:ふん)が長く平たいことに引っかかった。
ニーミラー氏はこの洞窟魚の写真をオーバーン大学のジョナサン・アームブラスター教授らに送り、2月10日に体長27~42 mmほどの標本をいくつか採集した。
骨格と遺伝子の解析で新しい属と判明
写真を受け取ったアームブラスター教授は、研究チームに加わり、詳しい調査を行った。
標本から体のつくりを詳しく調べ、CTスキャンによって骨格を既知の洞窟魚と比較した。
生物の名前は、近い種どうしを「属」というグループにまとめ、さらに近い属をまとめて「科」とする階層で整理されている。
新しい種が見つかることは毎年数多くあるが、既存のどの属にも入らない新しい属が加わることは珍しい。
解析の結果、この魚はサケスズキ目ドウクツギョ科に属する一方で、すでに知られていたどの属とも大きく離れていた。
ミトコンドリアの全遺伝情報を比べると、同じ洞窟にすむサザンケイブフィッシュ(Southern Cavefish)との違いは9.4%、アラバマ州北西部にすむアラバマケイブフィッシュ(Alabama Cavefish)との違いは8.7%あり、研究チームはこの魚を新しい属として位置づけた。
光を感じ取るために働くロドプシンという遺伝子にも、はっきりした違いが見つかった。
新種のロドプシンは284個の塩基が抜け落ちて設計図が途中からずれ、たんぱく質を作る指示が本来より早く止まる形に変わっていた。
サザンケイブフィッシュには光への反応が見られるものの、新種にはそれが見られず、ロドプシン遺伝子の一部が失われてもう働いていないと結論付けた。
悪魔デモゴルゴンに由来した学名がつけられる
新属新種であることが判明した洞窟魚は「Demogorgonichthys arcanus(デモゴルゴニクティス・アルカヌス)」という学名がつけられた。
属名は、デモゴルゴンと、ギリシャ語で魚を意味するイクテュスを組み合わせている。
デモゴルゴンは神あるいは悪魔として語られてきた名前で、冥界と結びついた強大な存在とされ、その名を口にすること自体がはばかられた。
後にテーブルゲームのダンジョンズ&ドラゴンズの魔王として、さらに海外ドラマ「ストレンジャー・シングス」の怪物として広く知られるようになった。
種小名の arcanus(アルカヌス) はラテン語で「隠された」「秘密の」を意味し、長年の調査にもかかわらず気づかれずにいた魚の性質を表している。
英語の呼び名は、デーモン・ケイブフィッシュ(Demon Cavefish、悪魔の洞窟魚)である。
長年見過ごされてきた理由
デーモン・ケイブフィッシュが長く見過ごされてきた最も大きな理由は、この魚が同じ洞窟の同じ水たまりでサザンケイブフィッシュと一緒に暮らしており、これまでの調査で両者が区別されないまま、同じ「洞窟魚」として扱われてきた点にある。
ボブキャット洞窟は大雨のたびに水位が最大3.9 mも上下し、床を覆う厚い泥で水が濁るため、水中の魚をじっくり観察することが難しい。
絶滅危惧種のアラバマドウクツエビを傷つけないよう研究者が水中に立ち入るのを控えてきたことも、洞窟魚を手に取って詳しく調べる機会を減らしていた。
遺伝子の解析は、新種とサザンケイブフィッシュが近い親戚ではないことも示した。
両者の見た目がよく似ているのは血のつながりが近いからではなく、光のない地下で暮らすうちにそれぞれ別々に目と色素を失ったためで、1つの洞窟に2種の洞窟魚が別々に住み着いたと研究チームは考えている。
すでに絶滅の危機
デーモン・ケイブフィッシュは今のところボブキャット洞窟以外から見つかっていない。
研究チームは北米の保全評価で最も危険度が高いG1(絶滅寸前)に当たり、国際自然保護連合の基準では近絶滅種に相当すると評価した。
洞窟の水からはカドミウム、クロム、鉛が過去20年にわたって高い濃度で検出されており、周辺がかつて弾薬の処分に使われた区域であることが影響しているとみられる。
アームブラスター教授は、洞窟の入り口を守るだけでは足りず、雨水が地下へしみ込んでいく周囲の土地まで守らなければならないと述べている。
References: DOI: 10.1038/s41598-026-54315-4[https://www.nature.com/articles/s41598-026-54315-4] / Auburn biologist helps identify new cavefish lineage discovered in Alabama cave[https://wire.auburn.edu/content/cosam/2026/07/1300-stranger-things-cavefish-new-species.php] / PHYS[https://phys.org/news/2026-07-demon-cavefish-lineage-alabama-cave.html] / Iflscience[https://www.iflscience.com/pale-blind-demon-cavefish-named-after-the-demogorgon-from-stranger-things-84176]











