日本では長崎県の対馬にのみ生息する希少なツシマヤマネコは、太くて長い尻尾を持つことで知られている。
ところが近年、尾の短い野生のツシマヤマネコが島内で少なくとも3頭確認された。
短い尾は日本のイエネコによく見られる特徴のため、日本の研究チームが、捕獲した1頭の全ゲノム解析を実施したところ、近年イエネコと交雑した痕跡は認められなかった。
調べたのは1頭だけなので、すべてを結論づけることはできないが、交雑ではないとしたら、先天的・発⽣的な要因も考えられるという。
この研究成果は『Global Ecology and Conservation[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S235198942600315X]』誌(2026年8月5日付)に掲載された。
絶滅危惧種のツシマヤマネコ
ツシマヤマネコは、約10万年前に大陸から対馬に渡ってきたとされる、ベンガルヤマネコの極東亜種である。
人が持ち込んだイエネコが野生化した野猫を除くと、日本に生息するヤマネコは、長崎県の対馬にすむツシマヤマネコと、沖縄県の西表島にすむイリオモテヤマネコの2種しかいない。
ツシマヤマネコは1971年に国の天然記念物に指定され、1998年以降は環境省レッドリストで最も絶滅のおそれが高い絶滅危惧IA類に選定[https://www.env.go.jp/nature/kisho/hogozoushoku/tsushimayamaneko.html]されている。
環境省の最新の調査によると、対馬の北側の上島には約90頭から100頭が生息すると推定され、南側の下島では少なくとも17頭が確認されている。
ツシマヤマネコの成獣は体の大きさがイエネコと同程度だが、耳の後ろにある白い斑紋や、太くて長い尻尾でイエネコと見分けることができる。
尻尾が短い個体を3頭確認
2024年から2025年にかけて環境省などが実施した調査で、尾が短いツシマヤマネコが島内の複数地点で少なくとも3頭確認された。
環境省の対馬野生生物保護センター、京都大学や麻布大学、 アニコム先進医療研究所などの研究チームが、3頭のうち1頭を捕獲して調べたところ、尾の長さは104mmしかなく、オスの成獣の平均的な長さである245mmの約半分だった。
研究チームによると、ツシマヤマネコやイリオモテヤマネコを含むネコ科ベンガルヤマネコ属で、短い尾を持つ個体が報告された例はこれまでなかったという。
複数の場所で尾の短い個体が見つかったため、偶然の怪我だけでは説明しにくく、生まれつきの共通した原因がある可能性が疑われた。
尾が短かったり折れ曲がったりする特徴は、イエネコに頻繁に見られるものだ。
対馬にはイエネコも生息しているため、研究者たちは、交雑によってイエネコの遺伝子がツシマヤマネコの集団に入り込んだのではないかと懸念した。
交雑が進むと、ツシマヤマネコが持つ固有の遺伝的特徴が失われるおそれがある。
一方で、外見の異常だけでは、尾が短い原因が交雑なのか、怪我なのか、ツシマヤマネコの集団内で生じた変異なのかを区別できない。
交雑を疑われた個体は、自然に戻すかどうかや、飼育下での繁殖に加えるかどうかの判断にも影響が出るため、正確な見極めが必要だった。
そこで研究チームは、遺伝情報に基づいて客観的に確かめるため、DNAの解析を行うことにした。
全ゲノム解析でイエネコとの交雑の痕跡は見つからず
研究チームは、捕獲した尾の短い個体1頭と、通常の尾を持つツシマヤマネコ15頭、対馬のイエネコ5頭、大陸にすむ近縁のアムールヤマネコ4頭の合計25頭を対象に、全ゲノム解析を実施した。
全ゲノム解析では、生き物が持つ遺伝情報をすべて読み取って比べることができる。
イエネコとの雑種であれば、DNAの特徴はツシマヤマネコとイエネコの中間に現れるはずだ。
解析の結果、尾の短い個体はツシマヤマネコの集団の中に位置し、イエネコとの混血を示す中間的な数値を示さなかった。
母親からのみ受け継がれるミトコンドリアDNAも、尾の短い個体は他のツシマヤマネコと同じ型で、母方の祖先にもイエネコとのつながりは見られなかった。
比較のためにゲノム解析をした他のツシマヤマネコ15頭からも、近年イエネコと交雑したことを示す証拠は見つからなかった。
ただし研究チームは、今回の方法ではもっと古い時代の交雑や、ごくわずかな交雑までは検出できないと説明している。
短い尾の個体が現れた原因は不明なまま
イエネコとの近年の交雑の証拠は見つからなかったが、なぜ短い尾を持つ個体が複数現れたのかという疑問は解明されていない。
研究チームは、尾に異常のある個体が島内の複数の場所で見つかっていることから、先天性要因や、成長の過程で生じた要因が原因の候補になると考えている。
個体数が少ない集団では近親交配の影響で骨格に異常が生じる場合があるが、今回の尾の短い個体の近親交配の度合いは他のツシマヤマネコと同程度だった。
イエネコの尾を短くする原因として知られる遺伝子の変異も、尾の短い個体からは見つからなかった。
他の個体はカメラの画像でしか確認できていないため、研究チームは、尾の異常の程度や原因をまだ詳しく調べられていない。
研究チームは、野生動物の保護の現場では見た目の異常だけで判断せず、遺伝情報に基づいて正確に確かめることが大切だとしている。
対馬では過去に、イエネコからうつったとみられる感染症が野生のツシマヤマネコで確認されており、飼い猫の適切な飼育が引き続き求められている。
研究チームは今後、尾に異常のある個体の調査を重ねるとともに、ふんに含まれるDNAを使ってツシマヤマネコを捕獲せずに遺伝的な状態を見守る方法の確立を進めていく予定だ。
References: DOI.10.1016/j.gecco.2026.e04365[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S235198942600315X] / The first short-tailed Tsushima leopard cat | EurekAlert![https://www.eurekalert.org/news-releases/1142864] / 短い尾をもつツシマヤマネコをゲノム解析、イエネコとの近年の交雑を⽰す証拠は認められず:京都大学[https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/2026-09/web-2609-Murayama-f13cbe32e237d4eff7a415e1d879ec3b.pdf]











