目標達成に効果的な方法は何か。72歳で英検1級を取得した江田信久さんは「周囲に目標を公言して自分を追いこむことによって、成功を勝ち取ったり、パフォーマンスを上げたりした経験のある方は多い。
しかし私は英検1級を目指すことは、自分の判断だけで決めたうえで、“ある一人”を除き、そのことは誰にも伝えなかった」という――。
※本稿は、江田信久『才能やセンスは必要ない 72歳で英検1級とれた人がやっていた独学法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■試験が約8割正解で合格なら勉強も8割で
「やれる」「できる」と信じる気持ちと、あきらめないことは重要ですが、そのうえで注意しておきたいこともあります。真面目な性格の人ほど陥りやすい罠や落とし穴――そう表現してもいいかもしれません。
心掛けたいのは、完璧を求めないことです。
英検1級の一次試験(リーディング、ライティング、リスニング)の満点は2550点で、合格ラインは約80%の2028点に設定されています。二次試験(スピーキング)の満点850点に対する合格ラインは、約70%の602点です(2026年1月現在)。
いずれも、合格するのに満点は必要ありません。
であるならば、勉強もパーフェクトにすることはない。
これが私の持論です。
「英単語を新規に○個覚えるまでは絶対に寝ない」

「どんなことがあっても、毎日○時間の勉強時間は必ず確保する」
これをやっていたら疲れます。意識も目標も高いことは歓迎なのですが、さすがに高すぎるハードルを設定するのはいただけません。
張り詰めた糸がいつかぷつんと切れ、挫折をして勉強自体をやめたり、長期間休んだりするという、好ましくない事態をまねく可能性を高めてしまうでしょう。
実際の試験が約8割の正解で合格するのですから、日々の勉強も8割程度のパワーでこなせばいいのではないでしょうか。
■「完璧主義」をやめれば、挫折は消える
たとえば、240ページの参考書があったとして、
「これを1カ月でやりきるんだ! 1日8ページ、絶対毎日やる!」
とハードなスケジュールを立てるのではなく、
「1日6ページずつやってみよう。1カ月では終わらないけど、毎日やることを大切にしよう」
などと、少しだけゆるい目標設定にするのです。
私が英検1級を目指して勉強していたときが、まさにそうでした。ノルマをガチガチに決めるのではなく、日々の生活に無理なく英語を取り入れることに注力していました。そのスタンスが、奏功したと思っています。
長年続けてきている、英語版の聖書を読む趣味についても同じです。興味を持って向き合い始めた頃の私の英語力(読解力)など知れたものですし、大前提として完璧に読もうとは思っていませんでした。
これは、最初からあきらめているのとは違います。目的は完璧に読むことではなく、辞書を片手にじっくりと日本語に訳し、楽しみながら、自分なりの解釈で読むことにあったからです。
「だいたい8割くらい理解できればいい」と決めていたわけではありませんが、感覚的にはそのようなものと言っていいでしょう。

だからこそ、この趣味を何十年も続けていられるのでしょうし、いつまでも飽きないのだと思います。
繰り返しますが、勉強に完璧を求めてはいけません。
かえって目標達成から遠ざかる行為であると、個人的には考えています。
挫折をしたくなければ、継続を求めるのであれば、そしてゴールに到達したいのならば、8割くらいの力で臨むようにしましょう。
それがきっと、好結果につながるはずですから。
■英語でファンレターを送ってみたい
繰り返しになりますが、大切なことなので改めて強調しておきます。
勉強は楽しんでやること。これは必須です。とくに英語学習は、「楽しい」と思えないと長続きしませんし、成果も上がらないでしょう。
もともと嫌いなことを楽しいと感じさせるのは大変かもしれません。でも、興味や関心のあることを「もっと好き」「もっとやりたい」と思わせるコツならあります。
それは、趣味と結びつける方法です。

嫌いなものや苦手なことはその人の趣味になるわけがないので、趣味と言えるものがあれば、それは好きなものややりたいことと同義と考えていいでしょう。
英語版の聖書を読むこと以外に、もうひとつ、私には英語との距離を縮めてくれる趣味がありました。
それは、音楽鑑賞とギター演奏です。
アメリカの有名なギタリストのチェット・アトキンスが奏でるカントリーミュージックやジャズとの出会い。これが大きなきっかけになりました。高校1年生のときに初めて彼の曲を聴いたその瞬間、完全に惚れこんでしまったのです。
以来、レコードを何枚も買って聴きこみ、さらにはギターにもチャレンジして、彼の弾き方を一生懸命まねしようとしました。もちろん、素人の趣味レベルなので技術は足元にも及びませんが、私なりに頑張って練習しました。
高校卒業後も、音楽といえば一にも二にもチェット・アトキンス。好きが高じすぎるあまり、いつしかファンレターを送ってみたいと思うようになりました。
これが30代なかばのことです。
そして実際に、チェット・アトキンスへの手紙を彼の事務所宛てに送る決意をしました。
もちろん、英語で、です。
■「やりたいこと」と「英語」を結びつける方法
それまで個人的に英語の手紙など書いたことがなかったので、とても苦労しましたし、試行錯誤もしました。辞書を引き、何度も書き直し、上手とは言えない英文で「高校生のときにあなたの演奏に出会い、感動しました」とか、「今でも頻繁に聴いていて、心の支えになっています」とか、伝えたい気持ちを精一杯したためました。チェット・アトキンスへの思いがそこまで強くなければ、わざわざ英語でファンレターを書くことはなかったでしょう。
でも、好きという気持ちと彼に対する感謝の念が「英語で手紙を書くのは大変」という思いを上回りました。これも英語との距離を縮めてくれるかけがえのない出来事だったと言っていいでしょう。
みなさんが好きでやっていることや趣味は、英語との結びつきがあるでしょうか。なんらかの関連性があるようなら、「同時に楽しむ」ことをおすすめします。
とくに音楽や映画(ドラマ)は親和性が高いと思うので、ただメロディーを聴いたり、字幕スーパーの文字を追いかけたりするだけでなく、今まで以上に英語の歌詞やセリフに意識を向けてみてはいかがでしょう。
英語を勉強する際、それがプラスになることはあっても、マイナスになることは絶対にありません。
ちなみに、英語学習とは関係ない話になってしまいますが、私がチェット・アトキンスに手紙を送った約半年後に、想像だにしなかった驚きの“事件”が発生しました。
なんと、チェット・アトキンス本人から、直筆サイン入りの写真が送られてきたのです。
こちらから一方的に送ったファンレターに対して、リアクションがあるとは、ましてや返信をしてくれるとは夢にも思っていなかったので、本当にびっくりしました。
以来、趣味のギターにさらに熱が入るようになったことは言うまでもありません。好きなことはとことん突き詰めてやるべきということは、間違いなく言えると思います。
■「目標は周りに宣言しない」で逃げ道を作る
「自分は、何か新たな目標を達成しようと思ったら、そのことを周囲に公言するようにしています。家族とか、友人とか、会社の同僚とか。失敗したら恥ずかしいし、格好悪いですからね。そうならないために、頑張らなきゃという気持ちになりますし、実際に体も動きます。自らにプレッシャーをかけ、退路を断ち、背水の陣を敷く。そんなスタイルを貫いたほうが、絶対に成功しやすいと思うんですよ」
以前、ある知り合いがこんな話をしていました。おっしゃることはよくわかりますし、同じような考えを持っている方もたくさんいるでしょう。そして実際に、あえて周囲に公言して自分を追いこむことによって、成功を勝ち取ったり、パフォーマンスを上げたりした経験のある方は多いと思います。
しかし、これが万人に共通する成功法かといえば、私は違うと考えます。
プレッシャーに弱い人や、人知れずコツコツ努力をするスタイルのほうが向いている人も、世の中には大勢いるからです。
私はどちらかというと、自分を追いこまず、マイペースで物事に取り組んだほうが、うまくいくタイプです。英検1級を目指すことは、誰かの影響を受けたり、勧めがあったりしたわけではなく、自分の判断だけで決めました。そして“ある一人”を除き、そのことは誰にも伝えませんでした。
だから、気がラクでした。
「何回落ちても、いつまで経っても合格できなくても、それを知っているのは自分だけなのだから、みっともなくはないし、バカにされることもない」
こんな感じで、肩の力を抜いて勉強に取り組むことができました。
私は現在、妻と二人暮らしをしています。子どもたちはみな独立し、別々の場所で生活を送っています。
この事実をみなさんに伝えると、先ほど触れた“ある一人”は「おそらく奥さんだろう」と思うことでしょう。
本書の冒頭で述べたとおり、違います。英検1級を目指すことを、妻にはいっさい伝えませんでした。宣言をしたところで、怪訝な表情を浮かべ、「何も、わざわざ疲れることをやらなくてもいいんじゃない?」と、ぼそっと言われるに決まっています。
■英検1級合格と同じくらい胸に沁みた友の言葉
だから、黙っていたのです。
勉強をスタートしてから、仕事以外の私の家での時間の使い方や行動が変わってきたので、何か企んでいるということは途中で妻にバレていたようですが、目標が英検1級であることは、合格するまで口にしませんでした。
目標を達成するためには、周囲に公言して自分を追いこんだほうがいいか、それとも、誰にも伝えずにマイペースで努力したほうがいいか。どちらが正しいとは言えません。人には、性格の違いや向き不向きがあるからです。
でも、私と同世代かそれ以上のシニアの方が、生活のためでも収入のためでもなく、人生の新たなチャレンジとして何かを目指すのであれば、黙ったまま取り組んだほうがいいような気もします。仮にうまくいかなくても、誰にも迷惑をかけることはありませんからね。
あらかじめ逃げ道を用意しておいて、ノープレッシャーで、失敗を恐れずに、コツコツやっていきましょう。
なお、先ほどからもったいぶって述べている“ある一人”の正体は、小学生の頃からの腐れ縁が続く、幼なじみの友人です。本当に誰にも言わないのはさすがに張り合いがなかったので、なんでも話せる関係のこの友人に、電話で伝えました。
「おまえ、ばっかじゃねーのか! そんなもん、無理に決まってんだろう!」
電話の向こうで彼はこう叫び、呆れていました。
だから、合格したときはまさに「してやったり」でしたね。そして、翌年のお正月に彼から送られてきた年賀状に、こんなメッセージが書かれていました。
「相変わらず頑張るね。たいしたもんだよ」
ふだんは軽口ばかりで、お互いを褒め合うことはなく、つねにいじり合う間柄なので、この言葉は胸にしみました。英検1級に合格したのと同じくらい、うれしかったです。

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江田 信久(えだ・のぶひさ)

さわやかカウンセリング代表、吃音カウンセラー

山形県在住の73歳。70歳を迎えた際、「何か新しいことをやってみよう!」と一念発起、突如、英検1級を目指して猛勉強を開始する。仕事の傍ら、毎日コツコツと学習を重ね、2年かけて英検1級を取得。その喜びを動画にしてYouTubeにアップしたところ多くの反響を呼び、YouTuberとのコラボ動画にも出演した。現在は、かつて吃音に苦しんだ経験をもとに、「さわやかカウンセリング」にてオンラインで吃音の改善指導をしている。

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(さわやかカウンセリング代表、吃音カウンセラー 江田 信久)
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