■食品もiPhoneも住宅ローンも…
今年の秋、これまでに例のないほど、モノやサービスの値上げがやってきそうだ。9月、国内の大手食品メーカーだけで、4900品目を超える値上げを実施するという。
それによって、年初から11月末までの値上げが分かった。食品数は1万9000点を超えるようだ。
これだけ大きな値上げの背景には、世界的な原油や穀物などの価格が上がっていることに加えて、国内の人件費の上昇、さらには円安による輸入物価の上昇などがある。当面、これらの要因に大きく変化しない可能性が高い。わが国の物価には、さらに上昇圧力が掛かることが懸念される。
物価の上昇に伴い、国内の金利にも上昇圧力が掛かっている。金利が上がると、預金など金融資産を保有している人にはメリットがある一方、家計の住宅ローンの返済負担や、企業の借り入れコストが上がる。それらは、私たちの生活にも無視できない影響を及ぼすことになる。
私たちの生活負担が急増することが懸念される。生活を守るためにも、今の内に、冷静に日常生活を見直すなどして、必要性が低い支出などを減らす工夫をすることが必要になりそうだ。
食品以外にも、価格が上方改定されるモノやサービスはかなり増えている。
インフレ懸念の高まりは日本だけに限らない。
半導体の不足と値上がりによって、米アップルはiPhoneを値上げした。新シリーズ「iPhone 18 Pro」の日本国内での価格は21万9800円~、初の折りたたみスマートフォン「iPhone Duo」も36万4800円~となった。政府の補助などでコストが抑えられている中国でも、ファーウェイの主力スマホ(Mate80)シリーズが最大で17%値上げされた。
■「マイカー世帯」を圧迫する自動車保険料
代表的なレアメタルであるモリブデンなどの価格も上昇した。銅鉱石の副産物として採取される金属で、鉄鋼の添加剤や工業用部品などに使われているが、高騰の背景には銅鉱石の供給不安や、中国の再生可能エネルギー需要の高まりがある。基礎資材の値上がりは半導体、自動車、家電製品などの追加的な値上がりの一因になる。
サービス分野でも値上げは増えている。夏以降、損害保険大手が自動車保険料も引き上げた。人件費の上昇や、資材価格の高騰で修理費用の増加などが影響した。
6月、損害保険料率算出機構は、自動車保険料の算出目安となる「参考純率」を平均14.4%引き上げる届出を金融庁に行った。工賃などのコスト増に加え、インバウンド需要増加でレンタカー費用の上昇も影響したようだ。
■値上げラッシュを引き起こした「犯人」
新築住宅価格、住宅リフォームの価格も上昇している。

10月からは、火災保険料も値上がりする。戸建てかマンションかで料率の変化は異なるものの、個人向けで3%程度の上昇が見込まれている。日本が、デフレからインフレの環境へ移行したことで、家屋の修理費用などが増えた影響は大きい。
大手電力10社が発表した9月使用分の電気料金は8月分より補助額が減少し、全体として値上がりする。中東情勢の影響もあり、ガス料金も値上がりする。
光熱費や食品などの上昇に対応するため、公立小中学校の給食費や学校用品の価格も上昇した。そうしたインフレ懸念の高まりで、金利の上昇傾向も鮮明化している。変動・固定型の住宅ローン金利上昇も家計の負担増加要因だ。
一連の値上げラッシュの要因として、エネルギーや穀物などの上昇に加えて、円安の影響はかなり大きい。これまでのところ、円はドルやユーロなど主要通貨に対して事実上の独歩安だ。
また、高市政権の財政拡張政策は、わが国の財政悪化懸念を一段と押し上げた。さらに、デフレからインフレへ日本経済が移行したにもかかわらず、高市政権は、日本銀行に対して緩和的な金融政策を維持するよう要請を強めたと言われている。
異次元緩和策の正常化が遅れるとの観測の高まりも、円売りの有力な材料になっている。
■名目賃金は「34年4カ月ぶり」の伸び
イラン戦争や世界的な気温上昇、AI開発のための電力争奪戦なども無視できない要素だ。世界的にモノやサービスの価格は上昇している。特に、イラン戦争の長期化は、世界の原油、天然ガス、ガソリンや塗料の原料であるナフサの価格上昇につながった。
中国のレアアース輸出規制などに対応するため、供給網(サプライチェーン)の多角化に取り組む企業が増えたこともコストアップ要因になる。また、鳥インフルエンザやアフリカ豚熱など感染症も、農畜産物の生産量の減少と価格押上げ要因になっている。
食料やエネルギー資源を海外に依存する日本の輸入物価は円安によってかさ上げされている。7月の輸入物価は、前年同月比29.1%上昇と非常に高い。これは企業の原材料調達コストの増加に直結する。
国内では、人手不足で人件費が上昇している。厚生労働省の「毎月勤労統計調査(速報値)」によると、7月名目賃金(現金給与総額)は前年同月比4.7%上昇した。6カ月連続で3%以上となるのは34年4カ月ぶりとなる。
実質ベースでは2.4%上昇し、7カ月続けて名目賃金の伸びがインフレ率を上回った。
■住宅ローンより先に保険の見直しを
企業は、従業員の生活を守るために賃上げを行う。また、人工知能(AI)や財務、マーケティングなどのプロ=専門人材確保のため高い給与を提示する。そうした企業は増えている。レストランチェーンの中には、バイト確保のために深夜料金を引き上げるところもある。世界的な金利上昇による収益性低下に対応するため、値上げを検討する事業者も増えつつある。
国内の物価は、これからまだ上昇するだろう。今のうちに、生活を守る準備をしておくことが大切だ。
9月上旬の時点で、国内の長期金利(新発10年物国債の利回り)は30年ぶりに3.00%を超え、変動・固定型ともに住宅ローン金利の上昇が懸念される。繰り上げ返済をするなどして、金利上昇に備えることは重要だ。
それよりも先に手を付けやすいのが保険だろう。まずは各種保険の支払い料金を確認することが大切だが、例えば自動車保険は毎年保険会社を変えることで、負担を減らせる可能性が高い。

■都道府県民共済やネット保険で1円でも安く
また、医療・生命保険の見直しも検討するとよいだろう。生命保険などに加入した後、保険が必要か定期的に確認する人は少ないといわれている。中には、契約したことを忘れる人もいる。必要でないのに加入を続ける人も多いだろう。いちいち確認するのは煩わしいという人もいるかもしれないが、さまざまな固定費の負担増に備えて早めに見直すのは有効だ。
同じ補償内容でも、都道府県民共済やネット保険を活用すると、月々の支払いを抑えられる。自分の健康状態を考えて、契約している保険を確認し、継続するか否かを家族で話し合うのもよいだろう。
■減らされる支出を徹底的に洗い出す
「プライベート・ブランド」の積極活用もお勧めしたい。大手小売企業が自社開発した食品などは、大手食品メーカーのブランド(ナショナル・ブランド)より安い。
プライベート・ブランド商品の製造は、大手食品メーカーなどが受注している。大手食品企業は、自社ブランドの値上げで収益性を維持・向上させようとする。一方、プライベート・ブランドは、低価格志向の消費者ニーズの取り込みや、工場の稼働率維持のために重要性が高まっている。
企業サイドにとっては、ある意味では難しい選択になるのだが、消費者にとって価格帯の低いプライベート・ブランドはメリットがある。
欧州や米国でも、食費を抑えつつ一定の満足感を得るためにプライベート・ブランド商品を選好する消費者は多い。
これから、わが国のインフレ率はさらに上昇すると懸念される。物価の上昇は、個人消費を下押しし、景気が減速する公算も高まる。そうなると賃上げが難しい事業者が増えることも考えられる。特に中小規模の企業では、一部で雇用不安が高まることも考えられる。
そうした懸念に備え、今のうちから、減らせる支出を洗い出しておくべきだろう。それは、日々の生活の安心と安定を守る方策の一つになる。とにかく、今後、モノやサービスの価格が上昇する日常が、私たちの目の前に出てくるはずだ。頭の中を整理して、経済環境の変化にしっかり対応することが大切だ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)

多摩大学特別招聘教授

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)
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