「低脂肪」をうたった食品は体にいいのか。東京工科大学教授の佐藤拓己さんは「脂肪を減らしたことで失われた味や食感を補うため、食品会社は砂糖や異性化糖を大量に加えるようになった。
その結果、肥満化を招いている」という――。(第1回)
※本稿は、佐藤拓己『アメリカ人を巨大化し、日本人を糖尿病・脂肪肝にする果糖の正体』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
■ヘルシーなヨーグルトに潜む甘い罠
1970年代に全米で、脂肪を減らすことが緊急の課題とされた。「脂肪悪玉論」だ。脂肪の代わりに添加する物質として、白羽の矢が立ったのは、高果糖コーンシロップ(High Fructose Corn Syrup:HFCS)(※1)だった。
(※1)高果糖コーンシロップ(High Fructose Corn Syrup:HFCS):トウモロコシのデンプンから作られた液体状の甘味料で、果糖の含有率が高く、清涼飲料水や加工食品に広く使用。通常55%が果糖のものが清涼飲料水に使用されている。
HFCSが選ばれた理由は、この異性化糖が「液糖」(※2)だからだ。ドロッとした液状だから、脂肪の代わりに入れれば、味と食感はよくなり、また食品製造は大変に容易になる。
(※2)液糖:液体状にした甘味料の総称。通常、異性化糖のほとんどは、液糖のかたちで供給されるため、食品製造に使いやすい。
「脂肪悪玉論」は、消費者のやせたいという欲求と、食品会社の利潤追求という2つの大きな力を合わせて、1つの方向に動かした。
1つの方向とは、低所得層のアメリカ人の肥満化だ。
食品会社は、食品から中性脂肪とコレステロールを除き、その代わりに数倍の量の砂糖と異性化糖(※3)を入れて、舌触りがよく、甘い食品へと姿を変えて、次から次へとスーパーに並べた。異性化糖の添加は、ヨーグルトだけでなく、ほとんどの乳製品、そして他の食品にも及んだ。
(※3)異性化糖と砂糖:砂糖はブドウ糖と果糖の化合物。異性化糖はブドウ糖と果糖の混合物。
■食感を求めて甘みを足し続けた結果…
肥満の恐怖にかられた消費者は、「低脂肪」に飛びつき、異性化糖を消費し続けた。
このようにして異性化糖は、アメリカ人を巨大化に向けて静かに動かし始めた。1970年代の10年間は、この動きはじつに静かなものだった。肥満の増加もわずかだった。14%の肥満率から15%程度に増加しただけだ。
食品会社は、食感をよくするために、異性化糖を大量に入れる必要があった。
たとえば、100gのヨーグルトから2~4gの脂肪を除いて、6~10gの異性化糖を入れた。
食品会社の言い分はこのようなものだ。脂肪は1gあたり9キロカロリーであるのに対して、糖質は1gあたり4キロカロリーであるから、脂肪を除けば、その2倍から3倍程度の異性化糖を入れなければ、カロリー数は合わない。
大量の異性化糖を食品に入れたことが、アメリカ人を巨大化させることになることは、誰も予測できなかったのか?
■一部の研究者は危険性に気づいていた?
筆者の推察では、異性化糖をマウスに与えれば、脂肪肝を誘導することくらいは、実験をすればすぐにわかる。
だから一部の開発部門の研究者は、間違いなく、この危険性に気がついただろう。とはいえその研究者も、脂肪肝をすぐに証明できても、ヒトが超肥満になる、とまでは確信をもって主張できなかった。
一方、会社の経営者から見れば、当然、肥満は脂肪が原因、という前提がある。それに比べれば、脂肪肝は小さな問題と思ったのではないか。さらに政府は、異性化糖を食材として認めているのである。
研究者と経営者との間に、脂肪肝について、短い会話があったかもしれない。しかし危険性について、経営者は耳を貸さなかった。もし今、異性化糖を大量に入れた低脂肪の食品をすぐに市場に出さなければ、他社が先に出すかもしれない。そのようななかで、「この商品を出さない」という選択肢はなかった。

■日本でもガムシロップに含まれている
1970年から2000年の30年間で起こった事態の一端は、アメリカのスーパーマーケットに行けば体験できる。それは「低脂肪(low fat)」や「脂肪ゼロ(no fat)」の食品の氾濫だ。
アメリカのスーパーマーケットに行くと、生鮮食料品の隣のあたりに、乳製品が並んでいる。その広大な乳製品の陳列棚には、多種多様なヨーグルトが並んでいる。
アメリカでは、ヨーグルトや乳製品の商品の大部分は、「低脂肪」または「脂肪ゼロ」である。これらの商品には大量の異性化糖が含まれていて、食感は大変によく、そしてすごく甘い。そして今でも、大量の異性化糖が投入されている。
日本でも、異性化糖は身近にある。たとえば、コンビニのコーヒー売り場で無料で提供されているガムシロップは、異性化糖だ。また、パンケーキについてくるシロップも、メープルシロップなどと断りがない限り、異性化糖と思ったほうがいい。
消費者が、これらの甘味料を意識的に取り除かなければ、異性化糖の消費量は、生活の中でどんどん増えてしまうだろう。
■ドロッとした食感に入っている危険な糖分
アメリカの低脂肪のヨーグルトを食べると、脂肪が入ったヨーグルトよりも、しっとりとした食感がある。
異性化糖こそが「低脂肪」の正体で、食品会社が「ヘルシー」と呼ぶものだ。先にも述べたとおり、異性化糖は液糖で、しかもドロッとした食感で、ヨーグルトなどに添加されるとしっとりとした感覚を与え、そして何より甘いのだ。
低脂肪ヨーグルトが、大変に甘くて、しっとりしているのは、このようなからくりがあったからだ。異性化糖によって、消費者がおいしいと感じる。しかも、他の会社の製品と差別化ができた。
消費者が「低脂肪」や「脂肪ゼロ」の食品を求めた。食品会社が手を替え品を替え、異性化糖を含んだ数多くの商品を市場に氾濫させた。
そこから多くの利潤を得た食品会社は、「脂肪悪玉論」を強化するエビデンスの山をさらに積み重ね、「低脂肪」の製品の正当性を強化した。このような背景から、2000年頃まで、「脂肪悪玉論」に公然と異議を唱える研究者は、ほぼ皆無だった。
1985年頃から全米で、超肥満が急激に増加し始めた。1990年代には、脂肪悪玉論が肥満を製造していることに気が付いた研究者や医者が数多くいたに違いない。もし当時、この意見を公で述べれば、その時点でその人の研究のキャリアは終わる可能性が高かった。

それほど、「脂肪悪玉論」は固い信念として社会全体を覆っていた。その結果、現在のアメリカはBMI30以上が40%を超え、世界最大の肥満大国になった。

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佐藤 拓己(さとう・たくみ)

東京工科大学応用生物学部教授

1961年岩手県生まれ。岩手県立一関第一高等学校理数科、東京大学農学部畜産獣医学科卒業。京都大学大学院医学研究科修了。博士(医学)。大阪大学蛋白質研究所研究員、財団法人大阪バイオサイエンス研究所研究員、岩手大学工学部准教授、米国サンフォード・バーナム研究所研究員を経て現職。専門は神経科学、抗老化学。著書に『脳の寿命を延ばす「脳エネルギー」革命』『恐竜はすごい、鳥はもっとすごい!』(ともに光文社新書)、『ケトン体革命』(エール出版社)がある。

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(東京工科大学応用生物学部教授 佐藤 拓己)
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