今年のサマーソニック東京初日のヘッドライナー、ザ・ストロークス(The Strokes)の3年ぶりとなる日本でのライブは、思わず「うおおっ!」と驚きの声が漏れてしまう嬉しいサプライズから始まった。最新作『Reality Awaits』に伴うツアーやフェス出演では三作目『First Impressions of Earth』の曲を冒頭に持ってくることが多かったのだが、今回の幕開けを飾ったのは最新作収録の「Lonely In The Future」。
しかもこれがライブでは世界初披露である。冒頭からいきなり特別な瞬間が用意されていたことに、不意を打たれたと同時に興奮せずにはいられなかった。

前回の来日ライブの一曲目は「The Modern Age」、そして前々回の一曲目は「Is This It」。無論どちらも往年のファンにとっては最高の幕開けだ。しかしそれは、現在よりも過去の名曲を聴きたいという人々の期待に応えたものだった。だからこそ、今回のライブで一曲目に世界初披露の新曲を持ってきたことには、彼らのモードの抜本的な変化を感じる。詳しくは後述するが、前作『The New Abnormal』を契機にストロークスの立ち位置やファン層には変化が起きた。それを受け、今のオーディエンスは過去の名曲だけではなく、現在進行形のストロークスも求めているという自信と確信をバンドは持っている──それがライブ一曲目の選曲からは伝わってきた。そして結論を急げば、その結果、過去数回の来日公演を遥かに凌ぐ、最高のライブをこの日は見せたのだ。

【サマソニ総括】ザ・ストロークスは「今」を生きている──過去最高の来日パフォーマンスで示した現在地


【サマソニ総括】ザ・ストロークスは「今」を生きている──過去最高の来日パフォーマンスで示した現在地


【サマソニ総括】ザ・ストロークスは「今」を生きている──過去最高の来日パフォーマンスで示した現在地


『The New Abnormal』がバンドにもたらした変化とは何か。同作は彼らに初のグラミー賞の栄冠をもたらした、初期二作以来の傑作。そしてその収録曲「The Adults Are Talking」は2021年にTikTokでバイラルし、Z世代にとってストロークスへの入り口となった。
Spotifyでは今年7月頃、遂にバンド最大のアンセム「Last Nite」を抜き、最多ストリーミング数の曲にまで上り詰めている。そしてこの曲からストロークスを掘り始めた若者たちの間で、同アルバム収録の「Selfless」「Ode To The Mets」も発見され、初期曲に比肩する人気曲として定着した。つまり、音楽的に極めて充実した2020年の作品によって、ストロークス初期の栄光を知らない新たなファン層が生まれたのである。そして、こうしたバンドを取り巻く状況の変化がライブパフォーマンスにも非常にいい影響を与えていることを、この日は強く実感できた。

長年のファンには周知の事実だが、ストロークスのライブにはかなり波がある。特にジュリアンの出来に左右されることが多い。しかしこの日のジュリアンは過去数回の来日とは別人かと見違えるほど好調だった。音程やリズムはいつになく安定し、最後まで集中力も途切れない。前回来日時にアンコールで「Last Nite」をやったときは、ほとんど流して歌っているような投げやりさを感じたが、今回はそのような瞬間が一度もなかった。それどころか、この日は「Last Nite」を花道に出てきて(!)歌ったのである。まさかこの曲でそんなサービス精神を見せるとは思いも寄らなかった。一時期、ジュリアンは「初期の曲をやるのに飽きている」と発言していた。
だが今はそんな様子を微塵も見せない。現在のストロークスに確かな手応えがあるからこそ、過去にも斜に構えることなく向き合えている。

研ぎ澄まされたアンサンブルで「今」を鳴らす

ジュリアンの好調ぶりと呼応するように、バンドのアンサンブルもタイトに引き締まり、脂が乗っていた。今年4月に配信されたコーチェラのライブ映像の時点でバンドの調子がいいことは伝わってきていたが、その時よりもさらに5人の呼吸は合い、研ぎ澄まされている。アルバムでは軽快なサウンドの「Going Shopping」が、生で聴くとヘヴィにドライブするロックンロールとして迫ってきたのも、この4カ月間、ツアーでライブを重ねてバンドが仕上がってきた証だろう。

もちろん、ニック・ヴァレンシの不在が気にならなかったと言えば嘘になる。サポートギタリストを務めるロングウェイヴのスティーヴ・シルツの演奏は、「Reptilia」のギターソロや、「The Adults Are Talking」でのアルバート・ハモンドJr.とのギターの掛け合いを聴くと、どうしても物足りなさを感じる。端的に言えば、ニックのプレイにおけるハードロック的な艶やかさが欠けている。だがスティーヴは、ストロークスとはデビュー前からの盟友であり、アルバートのソロにも参加していた。彼がニックの代役としてベストチョイスなのは間違いない。実際、ほとんどの瞬間において彼の演奏はストロークスに自然と溶け込んでいた。そしてそんな彼の貢献が一翼を担うバンド全体の充実は、ニックの不在を補って余りある。


【サマソニ総括】ザ・ストロークスは「今」を生きている──過去最高の来日パフォーマンスで示した現在地


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「new intro, old song(新しいイントロの、古い曲)」とジュリアンが紹介した「Life Is Simple in the Moonlight」は、その言葉通り録音版とは全く異なる新たなイントロをつけて演奏された。「One Way Trigger」も、録音版にはないアルバートのギターとジュリアンのハミングを冒頭に追加。他にもジュリアンがメロディを微妙に変えたり追加したりしている曲が幾つもあった。これは今回のツアーの特徴だが、ここにも過去の曲を往年のファンのニーズに応えてやるだけではなく、今の自分たちの視点で捉え直してプレイするのだ、という前向きさが感じられる。アレンジを大幅に変えていない初期の曲──例えば「Hard To Explain」や「What Ever Happened?」であっても、その生き生きとした演奏からはバンドの曲に向き合う姿勢が健康的であることが伝わってきた。

そのシニカルな性格に照れが混じることで、ジュリアンのMCは観客を困惑させる奇妙で婉曲的なものになる場合が多い。何しろアメリカでのライブでは、最後に「また会おう」の代わりに、「地獄で会おう」と言ってしまうような人なのだ。だが今回はそんなMCも控えめで、「ニッポンハ、ブンカテキニ、ススンデイルト、オモイマス(日本は文化的に進んでいると思います)」と日本語で話す場面まであった。個人的にはジュリアンのシニカルなMCも味わい深くて好きなのだが、今回はそれを最小限に留めたことでライブがより引き締まったことは間違いない。

本編最後は、2020年代のストロークスが生んだ新たなアンセム「The Adults Are Talking」。そして3曲披露したアンコールは、ゼロ年代の代表曲群「You Only Live Once」「Soma」に続き、最後はやはりZ世代に人気の「Ode To The Mets」。ライブ本編の最初と最後、そしてアンコールの最後という重要な位置に、新曲と2020年代の代表曲を据えたところに、現在の彼らのモードが端的に表れている。
そう、ストロークスは決して過去の功績で生き延びている老いぼれなどではない。2026年の今を生きているバンドなのだ。ライブの最後の最後、「Ode To The Mets」のドラマティックなエンディングに合わせ、客席では自然とスマホのライトをつけて大きく左右に振る動作が広がっていった。その美しい光景は、現在のストロークスの理想的な在り方と、この日のライブの素晴らしさを讃えているかのようだった。

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Photo by Riei Nakagawara

The Strokes | #ザ・ストロークス
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【サマソニ総括】ザ・ストロークスは「今」を生きている──過去最高の来日パフォーマンスで示した現在地

ザ・ストロークス
7thアルバム『Reality Await|リアリティ・アウェイツ』
発売中
再生・購入:https://TheStrokesJP.lnk.to/RealityAwaitsRS

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