「パワハラ」という言葉を聞いたとき、多くの人が思い浮かべるのは、怒鳴り散らす中年男性の姿ではないだろうか。机を叩く、人前で罵倒する、理不尽な叱責を繰り返す――そういったイメージだ。
しかし女性が増えた職場で起きているハラスメントは、なかなか表に出てこない。
昨今、新卒採用における総合職や営業職の女性比率は上がり、政府は「2030年までに女性役員比率を30%以上」という目標を掲げている。数字の上で女性のキャリア推進が進んでいる会社も多いだろう。しかし問題は、その実態だ。

女性が活躍しやすい職場の代表格として語られやすい生命保険会社。今回は筆者自身が約5年前に働いていた頃の事例をもとに、「女性が多い職場」で起こるハラスメントの実態をお伝えしたい。

「バカなの!?」女性上司の怒鳴り声が響く生保の日常。傍から見...の画像はこちら >>

指導のつもりが容姿批判に?

筆者が働いていた支部で、管理職を務めていた女性の多くは在籍10年程度、年齢は30代後半から40代前半が多かった。子育てをしながら成果を出し続ける、いわゆるバリキャリママだ。会社の中では「デキる人」として評価され、後輩の指導役も担っていた。

成果を出してきた女性が指導役に就くこと自体は、歓迎されるべきことだ。問題は、マネジメントの質が問われないことにある。しかも数字を出してきた人ほど、自分のやり方を疑わない。管理職のひとりが実際におこなっていた内容を具体的に挙げる。


①ロープレ中の無断撮影

20代半ばの後輩から聞いた話だ。営業ロープレの最中、突然スマートフォンを向けられ、無断で写真を撮られたという。画面を見せながら言われたのが「こんな顔でお客さんの前に出るつもり?」という言葉だった。上司の意図はおそらく、ロープレの段階から表情を意識しろという指導だったのだろう。

確かに、緊張でこわばった表情だったと後輩は言っていた。だがやり方は、容姿そのものを批判しているようにも受け取れる。朝礼後、周りに多くの人がいる中でのことだ。傍から見ればいじめの現場にも映りかねない。後輩はひどく傷ついた様子だった。

厳しい叱責の果てに…

②怒鳴り、手を上げる

怒鳴り声は、筆者自身も何度も耳にした。ミスをした部下に向かって「バカなの!?」「時間ねぇんだよ」と声を荒らげる場面だ。注意の域を超えた威圧だが、誰も言い方に口を挟まない。怒りの矛先が自分に向かないよう、むしろ「今日は自分じゃなくてよかった」と安堵しているくらいだ。
周囲は黙って目を伏せるだけであった。

さらに衝撃だったのは、契約内容のミスが発生した際に、上司が部下に手を上げた場面だ。支部長が同席していたにもかかわらず止められなかった。支部長すらも黙認、というよりも容認とも言える光景であった。

自腹を切って当然の空気感

③強制的な自費での購買

これは筆者を含め、職員全員が当事者であった。自分の担当外であっても、上司やチームメンバーの顧客が販売する商品のチラシを渡され、購入を求められた。確定申告で経費計上するが、あくまでも自費だ。

クリスマスケーキに始まり、お中元、お歳暮と、季節のイベントごとに繰り返される。「甘いもの苦手なので結構です」と断ると、「いつもお世話になっているでしょ」「家族やお客さまへの贈り物として買えばいいのよ」と返ってきた。言葉を重ねられると、断れる空気ではなかった。

ハラスメントをおこなう上司は、たいてい仕事に熱心だ。ルールを守り、理不尽にも耐え、数字を出し続けてきた。なのになぜ部下は同じようにできないのか……怒りが、指導という名のハラスメントに変わる。
本人に悪意はなく、むしろ正しいことをしているという確信がある。だからこそ始末が悪い。

会社からすれば部下を引っ張って数字もついてくる、ありがたい存在だ。「厳しいけど正しい」という評価が先に立つと、言動は「熱意ある指導」として解釈される。実際に営業部長に相談しても、返ってきたのは「ちょっとやり方はすごいけど……彼女はいつもそれで皆に結果を出させるからねぇ」という言葉だった。注意するどころか、半ば称賛に近いニュアンスであった。

訴えが無視される仕組みを構築

仮にパワハラ被害者が「訴えよう」と決意したとして、生命保険の営業職員の場合は新たな壁が立ちはだかる。

生命保険会社の営業職員、いわゆる生保レディは、入社時は労働契約を結んだ正規の職員だ。しかし成績基準を満たせない場合、「外務嘱託」と呼ばれる委任契約に移行させられる制度を設けている会社が一部に存在する。

委任契約に移行すると労働契約ではなくなるため、労働基準監督署に相談しても「対応できない」と門前払いにされるケースが多かったという。泣き寝入りできずに会社と裁判で争った人もいるが、結果は完敗。大手生保はトラブルの火消しに慣れているからだ。
長年、生保レディたちの相談は多く寄せられ続けてきたにもかかわらず、法的な受け皿は乏しかったようである。

今回取り上げたエピソードは、生命保険業界ならではの背景もある。採用も営業も成果主義で回る職場だからこそ、数字を出す人間が絶対視されやすい。

ただ、管理職の質が問われないまま女性が上に立つことは、生命保険業界に限った話ではない。「女社会ってこわい」「女はこんなもんだよね」という言葉で片付けられてきた問題を、そろそろ正面から問い直す時期ではないだろうか。

<TEXT/大崎アイ>

【大崎アイ】
関西出身、東京都在住の30代。営業畑を渡り歩いた末、2024年にフリーランスへ転身。旅と酒をこよなく愛する。フットワークの軽さがウリ。フリーランスの日常はnoteで気ままに綴ってます。Xアカウント: @aia___iiiii note:大崎アイ
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