一方で、国家資格である行政書士資格をもち、平日は行政書士事務所に週5日勤務し、実務には黙々と向き合っている。今回は、行政書士としての仕事と芸人としての表現活動、そのふたつをどう両立させているのか、そのリアルな日常に迫った。
行政書士事務所では寡黙…“いけあず”とは真逆の素顔
——行政書士事務所ではどのような仕事をされていますか?池城どんぐし(以下、どんぐし):車庫証明に関する手続きを中心に、お客様のかわりに自動車の登録や名義変更などを行っています。もともとは書類作成や、お客さんや役所への電話対応といった内勤が多かったのですが、最近は警察署や運輸支局へ書類を届ける外回りが中心です。決まった時間に席を離れられない内勤と違い、外回りは自分で段取りを組めるぶん、芸人として急なオーディションが入ってもスケジュールを調整しやすいんですよね。
——1日の流れを教えてください。
どんぐし:基本的には平日は週5日、9時から16時まで行政書士事務所でアルバイトをして、仕事終わりはカフェでネタ作りをしていますね。事務所の稽古場が借りられた日は、そこでネタの練習。ライブがある日は夕方から出演する、という感じです。
——芸人としての活動頻度は?
どんぐし:ライブは月2回ほどで、事務所ライブと友人主催のライブにそれぞれ1回ずつ出ることが多いです。あとはオーディションが月1回くらい。本来なら「ほかにYouTubeとかもやってます」とか言えればいいんですが、まだ始められてなくて。
どんぐし:すごく寡黙で、黙々と仕事に取り組んでますね。業務は確実に遂行したいタイプで、わからないことは先になくしておきたいんです。そのほうがラクですし、何か聞かれたときも、先に勉強しておいてすぐ答えられたほうがいいので。
そういう性格なので、前職のコールセンターでもリーダーが辞めたときに役職を引き継ぐことになったりしました。今の職場でも、やることをきちんとやっているからか、変なイジりをされることもなく穏やかに過ごせています。『MXグランプリ』でネタを見た人からは、「池城さん、かわいかったです」といっていただける、あたたかい雰囲気ですね。
子連れの先輩芸人との遭遇で“闇の夜勤生活”から脱却を決意
——行政書士資格はいつ取得されたのでしょうか?どんぐし:2022年1月ですね。当時はコールセンターの夜勤をしていて、38歳には体力的にも厳しくなってきて、売れなかったときにほかに仕事を探すのも厳しいなと不安になってきている状態だったんです。芸人を続けるためにも、昼の安定した仕事に切り替えたいと思ったんです。
——当時、芸人として「このまま続けていけば売れるかもしれない」という手応えはありましたか? それとも、どこかで限界も感じ始めていましたか。
どんぐし:そうですね。2014年にコンビ解散するまでは、事務所のピラミッドライブの一番上を行き来したり、「おもしろ荘」のオーディションにも残ったりして、そのときは先々で売れるかもと思っていました。
けれど解散してからは、“土の中のモグラ人間”状態で。
それでも、舞台に出て自分が面白いと思っていることをやって笑ってもらえるうれしさや、芸人とつるんでいる時間の楽しさは代えがたくて。正直、売れることよりも、続けること自体が目的になっていた時期かもしれないですね。
どんぐし:それでも楽観的に過ごしていたんですよね。でも、夜勤明けに缶ビールを飲みながら、ご機嫌になって、「自分は今、最強かも」と思いながら歩いていると、正面から先輩芸人が来て。すごくきちんとした格好をしていて、奥さんとお子さんもいて。
「今日、保育園の入学式だったんだ」っていわれたときに、さっきまで最強と思ってた自分が恥ずかしくなってきて。「全然、最強じゃないかも。そっちの人生のほうが幸せかも」って現実に直面して。闇の生活ではなく、光の生活に憧れるようになったんですよね。
「36歳の自分には正社員は厳しそう…」行政書士を目指したワケ
どんぐし:大学卒業後すぐに芸人になったので職歴がなく、当時36歳の自分には正社員は厳しそうだなと。だったら資格を取ろうと考えていたときに、知人から行政書士の資格を勧められたのがきっかけですね。
——難関の国家資格「行政書士」を取得するのに、どれぐらい勉強されましたか?
どんぐし:僕は3回受けて、やっと合格しました。
行政書士資格を取得してもアルバイトを選ぶ理由
——苦労して取得された行政書士資格ですが、その後の生活はどのように変わっていきましたか?どんぐし:現実はなかなか厳しくて、資格があっても、実務経験がないと正社員としては採用してもらえなかったんですよね。だから、まずはアルバイトで経験を積む必要があって、今の職場にたどり着きました。
——アルバイトとはいえ、資格をもっているとかなり優遇されそうですね。
どんぐし:僕も正直、すごい給料をもらえるのかなと思っていたんですけど、フタを開けてみたら普通のアルバイトと同じくらいで。なかなか、うまくいかないもんですね。
——現在までバイトを続けてこられている中で、少しずつ経験も積み重ねてこられたと思います。それでも今もアルバイトという形を選んでいる理由は?
どんぐし:実際に働いてみて、社員になるには今の自分にはまだ知識が足りないと感じてますね。今は与えられた業務をこなすだけですが、社員になれば一つひとつの業務に責任が伴いますし、法律も定期的に改正されるので勉強を続けなければいけない。
そう考えると、社員になるにはしっかりとした覚悟が必要ですし、芸人としての活動とのバランスもあらためて考えなければいけなくなる。ちょうど今は『MXグランプリ』をきっかけにお仕事をいただけるようになってきていて、このタイミングで社員になると、どうしてもスケジュールの融通が利きづらくなってしまうんです。だから今は、あえてアルバイトという形を続けています。
子どもたちに喜んでもらえるのが嬉しい
——最後に、今後の目標について教えてください。どんぐし:ずっと芸人を続けていきたいですね。昔は「土の中のモグラ人間」みたいな存在でしたが、優勝したことで知り合いから「子どもに見せたらめっちゃハマってるよ」といった声をもらえるようになって。子どもたちに喜んでもらえるのがすごくうれしいと感じたので、今は子ども向け番組に出演することを目標にしています。
* * *
異端芸人としての顔と、行政書士としての堅実な日常は、一見ちぐはぐにも見えるが、そのどちらも手放さずに続けているのが池城どんぐしさんの現在地だ。
表現したいことと目の前の現実。その折り合いをつけながら、自分にとって自然な選択を積み重ねてきた結果、気づけば誰も歩いていない道を進んでいた——。そんな生き方こそ、“異端芸人”という肩書きにふさわしいのかもしれない。
取材・文/福永太郎
【福永太郎】
1988年東京生まれ。ライター・編集者。俳優、スポーツ選手、芸人などの著名人から、メーカー担当者や経営者まで幅広くインタビューを担当。家電専門メディアにてレビュー記事執筆も手がける。
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