傑作が残したまさかの誤算
まず、ドラクエがダークな世界観を取り入れようとしたのはなぜでしょうか。「ドラクエ11」は2017年7月29日に発売しました。前作からおよそ5年の歳月を経てのリリース。この「ドラクエ11」はシリーズの中でも王道中の王道とも言える作品で、ファンの間では非常に評価が高いものとして知られています。練り込まれたストーリーは感動を呼び、キャラクター造形も優れていました。冒険の中で仲間と絆を深め、最終的に魔王を倒す物語はファンタジーの定番であり、万人におすすめできるRPGに仕上がっていたのです。しかし、セールス的には振るわない結果となりました。「ドラクエ11」を発売したスクエニの2018年3月期のHD事業の売上高は、前期比でおよそ3割の減少となる656億円だったのです。
「王道」と「ダークな世界観」の間で揺れ動く
スクエニは2016年11月に「ファイナルファンタジー15」を発売していました。ドラクエとファイナルファンタジーは、スクエニにとって2台巨頭とも言えるタイトル。しかも、当時はこの2つの派生ゲームをモバイル向けに出しており、それが収益の安定化にも寄与していました。つまり、会社としてIPの影響力を落とすわけにはいかなかったのです。また、当時はゲームファンを中心にダークな世界観が受け入れられていた時代でした。2011年の「ダークソウル」、2012年の「ドラゴンズドグマ」、2017年の「シャドウ・オブ・ウォー」などです。
スクエニはプレイステーション向けの開発を得意としていた会社。このゲーム機は特にコアなゲームファンが遊ぶものであり、複雑なストーリーや重厚な世界観、ゲーム難易度の高さが求められるようになっていました。その傾向が如実に表れたのが2022年の「エルデンリング」で、世界累計出荷本数は3000万本を突破しています。「ドラクエ11」という王道作品で思うような結果が出なかったドラクエが、ダークな世界観という新たな方向性を見出してもおかしくはないでしょう。
しかし、異変が起こります。2024年3月期に220億円ものコンテンツ等廃棄損を計上したのです。開発プロジェクトの見直しなどを行ない、選択と集中を図ったのです。このとき、スクエニは経営方針の大きな軌道修正を行ないました。マルチプラットフォーム戦略への転換です。
ホームランを捨てた、生き残り策
プレイステーションの開発に強みを持っていたスクエニが、ニンテンドースイッチなどの任天堂プラットフォーム展開を強力に推進すると発表したのです。任天堂のゲーム機は、プレイステーションとは対極に位置します。しかも、スクエニは選択と集中を進めるため、数々のモバイルゲームから撤退しました。2025年から2026年にかけては、「星のドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス」「スクールガールストライカーズ2」などの長期間運営していたタイトルを打ち切りました。
その影響もあって売上高は減少傾向にあります。2026年3月期の売上高は2976億円。2022年3月期は3652億円ありました。700億円近く下がっているのです。一方、開発タイトルを絞り込んでいるため、利益率は高まりました。2026年3月期の営業利益率は18%、2022年3月期は16%です。
売上成長に対しては必然的に看板タイトルへの依存度が大きくなります。そして、特大ホームランを狙うよりも確実なヒットを出して売上と利益のバランスをとる方が、会社として健全な成長ができるでしょう。ファイナルファンタジーの最新作は経営陣の期待する数字に届かず、経営戦略の変更にまで迫られる結果になったからです。
「鳥山明の不在」をどう乗り越えるか
「ドラクエ12」の新たな映像を巡っては、キャラクターの違和感が拭えないという声が聞こえてきます。これは、2024年3月1日に鳥山明さんが死去した影響があるのではないでしょうか。キャラクターデザインは当初のダークな世界観を基に作っているはずで、路線変更後の修正がかなわなかった可能性が多いにあります。また、「ドラクエ12」の制作発表は2021年5月でしたが、そこから5年経過したにも関わらず、お披露目された映像は開発途上という印象が強いものででした。映像の公開は、ゲームの方向性が変わったことをファンに示したかったという意図があるのでしょう。リリースまでにはしばらく時間がかかる模様で、ファンは新たな情報を心待ちにしています。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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