だが、その投稿が「自分から借りたお金を返さないまま投稿されたもの」だったとしたら、受け取り方は大きく変わってくる。
友人間の金銭トラブルは、暴力や裏切りのようにわかりやすい事件にはならないことが多い。むしろ多くの場合、誰も悪者になりきれないまま、関係だけがゆっくりと壊れていく。
今回は、20年来の親友に貸した5万円が、気づけば30万円にまで膨らみ、静かに関係が崩壊していったエピソードを紹介する。
親友から届いた「5万円の相談」
田中康二さん(仮名・47歳)には、大学1年で出会って以来、20年以上の付き合いになる親友がいる。松本さん(仮名・47歳)だ。「就職も結婚も、お互いの節目はだいたい一緒に飲んで報告し合ってきた仲でした。困ったときはお互い様、みたいな空気が自然とあったんです」
異変が起きたのは、去年の春のことだった。松本さんから「ちょっと相談あるんだけど」とLINEが届く。
「1週間だけでいいから、5万円貸してくれないか。来月の給料で必ず返すから」
20年の付き合いだ。田中さんは特に深く考慮せず、その日のうちに振り込んだという。
「正直、5万円くらいなら、何かあっても仕方ないかなって感じる金額だったんですよね」
雪だるま式に借金が30万円に膨らむ
1週間後、約束の日に返済はなかった。代わりに届いたのは「ごめん、もう少し待って」の一言。「まあ、誰にでもあることかなと。それくらいの感覚でした」
しかし1ヶ月後、今度は「10万円、また貸してくれないか。まとめて返すから」という連絡が来たという。
「正直、少し違和感を覚えたんです。でも、ここで断れば、関係がこじれるのではないかと危惧したんです。20年分の信頼を天秤にかけている心境でした」
その後も似たような連絡が続き、気づけば貸した金額は合計30万円に膨らんでいた。
「この時点では、まだ松本を信頼していたんですよね。困ってるなら助けたい、という気持ちのほうが強かったので」
「取り立てるのか」とまるで被害者のような口ぶり
半年が過ぎた頃、田中さんはさすがに「そろそろ返済のめどを教えてほしい」とLINEを送った。しばらく既読のまま返信はなく、数日後に届いたのはこんな言葉だった。「そんなに取り立てるのか。お前らしくないな」
田中さんはスマホを持ったまま、しばらく固まったという。
「『取り立て』って言葉が出てくるとは予想していなかったです。お願いされて貸しただけなのに、なんで自分が悪者みたいになってるんだろうって」
共通の友人たちも被害を受けていた
モヤモヤを抱えたまま、田中さんは大学時代の共通の友人・山田さん(仮名)に何気なく相談した。すると、思いがけない言葉が返ってきた。「実は俺も、ちょっとだけ貸してるんだよね……」
さらに話を進めると、もう一人の仲間・鈴木さん(仮名)にも同様の借金があることが判明する。
「3人で『え、お前も?』『俺も』みたいな会話になって。笑えばいいのか、ドン引きすればいいのか、よくわからない空気になりました」
その後、グループLINEで誰からともなく松本さんに事情を聞こうとする流れになった。しかし、返信は曖昧、その内返信もポツポツと減っていき、ある日、松本さんは静かにグループから姿を消した。
「責めるつもりはなかったんです。ただ、状況を整理したかっただけで。でも、向こうにとっては都合が悪かったんでしょうね」
それから連絡は完全に途絶えた。電話も出ない、LINEも既読がつかない。
「もう関わることもないんだろうなと、半分諦めの境地にありました」
転機が訪れたのは、それから半年後のことだった。山田さんから田中さんに、1枚のスクリーンショットが送られてきたという。
見ると、松本さんのインスタグラムが、久しぶりに更新されていた。
南国らしいビーチを背景に、満面の笑みでピースサインをする松本さんの写真。
「一瞬、誰の投稿か認識できなかったんです。こっちは半年間連絡もつかなかったので、あんなに楽しそうにしている姿と松本が重ならなくて」
しばらく画面を見つめたまま固まっていたが、キャプションに目をやった瞬間、今度は別の感情がこみ上げてきたという。
「人生リセット! 新しい自分でスタートです」
「それを読んだ瞬間、なんか力が抜けちゃって。笑うしかなかったですね。もう、怒りとかを通り越して。清々しいくらい『あいつらしいな』って」
貸した金は返ってこなかったけど…
田中さんは苦笑いを浮かべる。「正直、30万円が返ってこないのは、まあ仕方ないかなと、今は割り切っています。それより惜しいのは、20年分の時間とか、信頼みたいなものですね」
責めるでも恨むでもなく、どこか達観したような口調だった。
「あの投稿を見てこっちは置いてきぼりですよ(笑)」
怒るほどでもない、でも忘れられるほどでもない。そんな「あきれ笑い」のような感情は、田中さんだけでなく、山田さんや鈴木さんの中にも、今もきっと同じように残っているのだろう。
3人はあれ以来、松本さんの話題が出るたびに、ちょっと笑って、ちょっと黙る。
<TEXT/maki>
【maki】
ライター・エッセイストとして活動中。趣味は人間観察と読書。取材からエッセイ、コラムまで幅広く執筆している
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