移動に欠かせない交通手段のひとつである電車。しかし、通勤や通学の時間帯は混雑するため、殺伐とした雰囲気がある。
車内では譲り合いの精神を持って、お互い気持ちよく過ごしたいものだ。
 今回は、通勤・通学で利用する電車で見かけた迷惑行為に対し、“ある一言”で状況が一変したという2人のエピソードを紹介する。

ドア前を占領する“主”にイライラ

「すみませーん!」満員電車で“ドアの前から絶対に動かない男性...の画像はこちら >>
 田中正人さん(仮名・20代)は、毎朝の通学電車で小さなストレスを感じていたという。

「満員電車で地味に困るのが、ドア付近から絶対に動かない人。混雑した電車内では、ドア付近は乗客の出入りが集中します。しかし、次の駅で降りるわけでもないのに、頑なに動かない人もいまして……」

 SNSなどでは、こうした乗客を“ドア前地蔵”と呼ぶこともある。

 その日も乗り換え駅に近づくと、ドア前にどっしりと構えた男性がいた。スマートフォンを見ながらイヤホンをつけ、自分の世界に入り込んでいる様子だったそうだ。

「周りの人も『この人邪魔だな』って感じでチラチラ見ていたんですが、まったく動く気配がありませんでした」

電車内に響いた「すみませーん!」

 そんな中、後ろから体格のよい男性がやってきた。身長も高く、存在感のある男性は、ドア前の乗客に向かい、かなり大きな声で「すみませーん!」と声をかけたそうだ。

 その声は、電車内によく通る大きな声だった。すると、ドア前の男性はハッとした表情で振り返った。そして、周囲から視線が集まっていることに気づいたのか、気まずそうな顔を浮かべながら車内の奥へと移動していったという。

「申し訳なさそうな感じで、そそくさと奥の方に入っていきました。
それによって、それまで停滞していた人の流れが一気に動き出したんです。文句を言うのでもなく舌打ちするでもなく、一言で解決したのがすごいなと思いました。他のお客さんも同じことを思っていたんでしょうね。なんとなく口元が緩んでいました」

 堂々とした一言で場を収めた男性に、田中さんは今でも感心しているそうだ。

一本待って並んでいたのに

 山口誠さん(仮名・40代)が遭遇したのは、駅のホームでの出来事だった。利用している駅は始発駅のため、一本待てば座れるという。

「私は毎朝、あえて一本見送って座るようにしているんです」

 その日も列に並び、次の電車を待っていた。すると、前に並んでいた学生のもとへ友人らしき人物がやってきたのだ。すると、自然な流れで列の途中へ入り込んだという。周りの人たちも気づいていたようだったが、誰も何も言わなかったそうだ。

「一人割り込まれると、座れるか座れない微妙な位置に並んでいたんです。注意したほうがいいのかなとも思いました。でも、朝から揉めるのも面倒ですし……」

 山口さん自身も、結局は黙ったまま様子を見ることしかできなかった。


スーツ姿の男性が放った一言

 モヤモヤした空気が流れる中、突然後ろから落ち着いた声が聞こえてきた。声の主は、山口さんの後ろに並んでいたスーツ姿の男性だったという。

「怒鳴るわけでもなく、本当に落ち着いた口調で『一番後ろに並びなさい!』と言いました」

 そのひと言には、不思議な説得力があったという。学生も、自分が割り込んでいるという自覚があったのだろう。会釈をすると、気まずそうな表情で列を離れ、最後尾へ向かった。

 その姿を見たとき、山口さんの胸につかえていたものが消えた。

「ルールを守るのは当たり前なんですが、その当たり前をきちんと伝えられる人って意外と少ないんですよね」

 自分では言えなかった一言を代わりに伝えてくれた男性。その姿が、とても頼もしく見えたという。

「おかげで、朝から気持ちよく出勤できました」

 電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。

<取材・文/chimi86>

【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。
出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
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