日本民営鉄道協会が2025年度に実施したアンケートでは、「扉付近での滞留」が車内迷惑行為の第4位に新たにランクインしました。挙げた人の割合は27.6%。およそ4人に1人が、口には出さないまま違和感を抱えているという計算になります。
今回ご紹介するのは、過去に大きな反響を呼んだ実録エピソードから、通勤ラッシュの満員電車で“頑なに動かない人”に出くわした2人の話。リュックを背負ったまま堂々と乗り込み、車内中央でスマホ動画を大音量再生する男性。そして、ドアの真ん中を“自分のテリトリー”のように占領し続ける男性――。
記事の後半では、男性回答者のランキングに表れた“ちょっと意外な結果”や、声をあげにくい車内で、それでも動いてくれた一人の駅員さんの存在について、少しだけ考えてみました。
* * *
【エピソード1】満員電車でも“自分だけ快適ならOK”の迷惑行動
「車内は混雑していて、私はドア付近でなんとか壁にもたれて立っていました」
そんななか、30代くらいの男性がリュックを背負ったまま堂々と乗り込んできたという。
「おいおい、リュックを前に抱えるとか、網棚に置くとか、そういう気遣いないのか……正直モヤっとしました」
ここまではよく見る光景だが、問題はその後に起きた。
男性は、リュックで周囲の人たちを押しのけながら、強引に車内中央へと進んでいった。そして、スマートフォンで動画を大音量で再生したのだ。
「イヤホンをせず、音はそのまま響き渡っていました。周囲の空気が一気にピリつきましたね。さらにイラっとしたのが、動画を見ながら笑ったり独り言を呟いたりしていたことです」
混雑のストレスに加えて、男性の“自分だけ快適ならOK”という態度は、金本さんの神経を本気で逆なでしてきたという。
誰も注意できない現実
「私の隣にいた人も、男性をチラッと睨んでいましたが、誰もなにも言えません。注意して逆ギレされたら……と思うと、結局我慢するしかないですよね」さらに混んでいく車内でも、男性は足を広げて立ち、周囲にぶつかろうがお構いなし。その姿はまさに“俺ルール”で生きているようだった。
「やっと男性が降りたとき、空気が一瞬和らぎました。みんな口には出さないけど、同じようにムカついていたんだと思います」
金本さんは、「これぞ、“日本の通勤電車あるある”だなと、改めて感じました」と吐露した。
【エピソード2】満員電車で“自分のテリトリー”を死守する男性
通勤ラッシュで満員電車に揺られていた井上浩太さん(仮名・40代)。車内は隙間もないほどの混雑ぶりだった。そんななか、一人の男性がドアの真ん中に立ち、動こうとしなかったという。
「男性は背が高く、リュックを背負ったまま、まるでそこが“自分のテリトリー”であるかのように仁王立ちしていました」
「何度ドアが開閉されても、一歩も動こうとしない態度に、周囲の乗客たちもイライラしていましたね」
そして、いよいよ混雑がピークになる主要駅に到着したとき、ついに駅員が動いた。
駅員の一言で車内に変化が…
ホームに立っていた駅員が鋭く状況を察知。すぐに車内をのぞき込んではっきりとした声で注意したのだ。
「お客様、ドアの前を塞がないようお願いします!」
普段は穏やかな案内をする駅員が、このときは力強い口調で一喝してくれたという。
「男性は驚いたように顔を上げて、周囲を見渡しました。ようやく自分がどれだけ邪魔だったのかに気づいたようで、気まずそうな表情を浮かべていました」
「駅員さんのおかげで、気持ちよく仕事へ向かうことができました」
電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
<取材・文/chimi86>
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■「ドアの前」は、誰のテリトリーでもない
冒頭でも触れましたが、日本民営鉄道協会の2025年度アンケートで「扉付近での滞留」が、車内迷惑行為のランキングに今回初めて登場し、いきなり4位(27.6%)に飛び込んできました。前年までは選択肢にすら無かった項目が、いきなり上位――。それだけ多くの人が、日々の通勤・通学のなかで「ちょっと、どいてほしいな」と感じている、ということなのかもしれません。ちなみに同じ調査で長年トップ3に入り続けているのは、「周囲に配慮せず咳やくしゃみをする」「座席の座り方」「騒々しい会話」。どれも、今回のエピソードに登場した男性たちの行動と、どこか地続きのようにも見えてきます。
さらに興味深いのが、男性回答者のランキング。これまで長らく1位だった「咳やくしゃみ」が5位に下がり、代わりに「座席の座り方」(34.0%)と「扉付近での滞留」(32.5%)がワンツーフィニッシュ。「スマートフォン等の使い方」も25.8%で4位に食い込みました。今回のエピソードに登場した男性たちの行動が、まさに男性自身からも“いちばん気になる迷惑行為”として挙げられている――。なんとも示唆的な結果と言えそうです。
■小さな一声が、車内の空気を変える
それでも今回、井上さんのエピソードで救いになっているのは、ホームに立っていた駅員さんの「ドアの前を塞がないようお願いします!」というひと声でしょうか。普段は穏やかに案内をしている方が、必要な場面でははっきりと声をあげてくれた――その瞬間、車内の空気が一気にゆるんだという描写には、思わず一緒にホッとしてしまいます。声を上げにくい場面で、それでも一言を発してくれる人がいる。乗客同士では難しくても、駅員さんという立場の方が動いてくれることで、救われる場面は確かにある。いつもの通勤電車も、そんな小さなやりとりに支えられているのかもしれません。
ドアの前は、誰のテリトリーでもありません。乗る人、降りる人、その奥でぎゅっと立っている人。
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
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