すっかりサマーシーズン……いや猛暑へと突入してしまった。暑い時に嬉しいのがキンキンに冷えたビールである。
ビアホール・夏休みの旅行・BBQなどで普段以上にビールを飲む量が増え、屋台メシや焼肉、酒のつまみなども大量に口の中へと運ばれる。しかし、食べ物の全てがビールにとって「最良の友人」だとは、必ずしも言えないのではなかろうか。
例えば数年前には「ビールとジンギスカンの相性が実は良くないのでは」とSNS上で議論になっていたが、本当なのだろうか。用賀きくち内科 肝臓・内視鏡クリニックの菊池真大氏に話を伺ってみよう。

SNSで話題になった「ビールとジンギスカンは食べ合わせが悪い...の画像はこちら >>

「ジンギスカンは相性✕」に異議あり

まずは上記のとおり、SNSで話題になっていたジンギスカンについて、要注意点を菊池氏に聞いてみた。

「羊肉の脂は融点が44~55℃と高いので、冷たいビールを一緒に飲むと、胃の中で脂が固まりやすいと説明される事があります。しかし脂肪は最終的に消化酵素で分解されるため、通常量なら消化吸収に大きな支障は考えにくいですね。ただし、脂質の多い肉を大量に食べると胃排出が遅れ、胃もたれ・胸やけは起こりやすくなります」

一部で言われているほど相性自体が悪い訳ではないが、食べる量には注意が必要なのだ。また、菊池氏はビールにまつわる、ある「迷信」についても警鐘を鳴らす。

「時おり『ビールはアルコールで殺菌するから、飲んでいると食中毒になりにくい』などという話を耳にしますが、実際のところ、ビールの殺菌効果はほとんど期待できません。むしろ飲酒によって注意力が低下し、生焼けの肉や長時間放置された食品を口にしてしまうリスクがあります」

「また、健康状態を左右するのは『何を飲むか』以上に『何を一緒に食べるか』。肉類だけでなく、野菜や豆類など色々な食材を組み合わせましょう。特にブロッコリースプラウトに含まれる『スルフォラファン』は、肝臓の解毒機能や抗酸化作用に関与する成分として注目されています。
ビールを飲む前や食事と一緒に取り入れることで、健康的なおつまみになるはずです」

ブロッコリースプラウトが良いというのは、耳寄りな情報だ。筆者自身も悪酔い防止や酔いざましのため、ビールの前後でトマトジュースやしじみ味噌汁を口にすることが多い。この他にもお酒の毒を減らす食品や料理は少なくないので、自分で探して採り入れてみても悪くないだろう。

夏場の「ビールのお供」は食中毒に注意!

次に、夏場に特に多くなるお酒にまつわるトラブルについて尋ねてみた。

「大きく①急性アルコール中毒、②脱水・熱中症、③転倒・事故、そして④食中毒に分けられます。東京消防庁管内では、急性アルコール中毒による救急搬送は令和6年に 14,190人。月別では暑い時期と忘年会シーズンに多い傾向があります。また、食中毒は年間を通じて起こりますが、細菌性の食中毒は高温多湿の時期に増えやすいため注意が必要です」

高温多湿……つまり蒸し暑い真夏こそ④食中毒に強く警戒すべき、ということだ。原因になりそうな食べ物については、どのようなものが考えられるだろうか。

「非常に様々ですね。BBQの生焼け肉や、常温放置した惣菜、刺身や魚介、作り置き料理などが原因として考えられます。食材だけでなく、焼肉やBBQであれば焼く箸と食べる箸をウッカリ共用してしまうケースにも注意してください」

過去には飲食店で生肉・加熱不足・常温放置食品など要因が重なった結果、深刻な被害が出た例もある。その代表例が2011年の中頃、富山県・福井県・横浜市の焼肉チェーン店で提供されたユッケや焼肉から腸管出血性大腸菌(O111)による食中毒が発生したケースだ。


「この事件では4名もの死亡者が発生し、後には生食用食肉の規格基準整備につながっています。料理を提供する飲食店や小売の側はもちろん、消費者の側もある程度の知識や警戒はあった方が良いでしょう」

「高脂肪・高塩分」と「生焼け」は油断大敵

夏場は普段以上に様々な場面でビールと食べ物に触れる形となる。例えば、酒席の王道である居酒屋やビアホールでの注意点はあるのか。

「唐揚げ、フライドポテト、ソーセージ、餃子、ピザ、ラーメンといった、高脂肪・高塩分メニューには注意してください。ビールが進むぶん、胃もたれ、逆流、翌日のむくみ、血圧上昇、脂質異常症・脂肪肝の悪化につながりやすくなります」

唐揚げやフライドポテトは、特に大人数用のパーティーメニューとしては定番中の定番。また、ビールをしこたま飲んだ後でシメのラーメンを好む人も少なくない。時おりたしなむ程度ならまだしも、週に1度、2度、あるいはそれ以上のペースで飲んでいる場合は、油物を意識的に控えた方が適切と思われる。

また、夏場はBBQやお祭りなど、外での飲酒と食事が普段より多い季節でもある。ここに潜んでいる危険についても菊池氏に質問した。

「BBQなどでは酒のせいで温度管理が甘くなり、肉類・海鮮の生焼けや交差汚染(病原菌に汚染された食品に、汚染されていない食品が接触して病原菌が拡大すること)が起こりやすくなります。焼く時は中心温度75℃で、1分以上を目安に十分加熱しましょう。お祭りの縁日や若者向けのフェス系イベントでも多くの飲食物(たこ焼き・焼きそば・きゅうり一本漬け・かき氷・チョコバナナなど)が屋台に並びますが、これらも作り置き・手指衛生・温度管理が不十分だとリスクになりやすいですね」

温度管理が不徹底な食品は飲酒の有無に関わらず危ないが、その時にアルコールで判断力が鈍っていると、「少しぬるい」「火が甘い」食品でも食べてしまいやすいのだ。
同様に、自宅で飲む時の刺身やローストビーフ、ポテトサラダなども、「少しだけだから」と常温で出しっぱなしにしていると食中毒の原因になり得るという。お酒の力で気が大きくなっている時ほど、油断大敵である。

菊池氏がお酒とセットで薦める食べ方は、特別な裏技ではない。菌を付けない・増やさない・十分に加熱するといった基本を守って飲食をすることだ。BBQなら肉を焼く係と食べる係の箸を分け、鶏・豚・ひき肉料理は十分加熱。脂っこいものばかりにせず、枝豆、冷奴、焼き野菜、魚、浅漬けなどを挟むと、飲み過ぎ・食べ過ぎを防ぎやすくなる。ビールを飲む時にハメを外したい気持ちはよく分かるが、そういう時ほど節制や一工夫、ちょっとした注意が大事である。

<取材・文/デヤブロウ>

SNSで話題になった「ビールとジンギスカンは食べ合わせが悪い」は本当?専門医が明かす真相と、真夏の飲酒に潜む意外な盲点
菊池真大氏
【菊池真大】
慶應義塾大学医学部卒業、東海大学医学部客員准教授、米国ペンシルバニア大学消化器内科元博士研究員、日本アルコールアディクション医学会理事日本総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓学会専門医、日本内視鏡学会専門医、日本人間ドック健診専門医、日本病態栄養学会専門医、日本抗加齢医学会専門医2024年秋、メタボとロコモを同時予防管理する未来志向型クリニックを東京・用賀の地に開業。

【デヤブロウ】
東京都在住。2024年にフリーランスとして独立し、ライター業およびイラスト業で活動中。ライターとしては「Yahoo!ニュース」「macaroni」「All Aboutニュース」などの媒体で、東京都内の飲食店・美術館・博物館・イベント・ほか見所の紹介記事を執筆。プライベートでも都内歩きが趣味で、とりわけ週2~3回の銭湯&サウナ通いが心のオアシス。
好きなエリアは浅草~上野近辺、池袋周辺、中野~高円寺辺りなど。X(旧Twitter):@Dejavu_Raw
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