百貨店を訪れると、ひときわ目を引く、おしゃれなルイボスティ専門店。「H&F BELX」は、豊富なフレーバーのノンカフェインティーを自由に試飲できる新しいスタイルで、多くの女性を中心に支持を集め、全国へと店舗を広げてきた。
その仕掛け人が、H&F BELX代表取締役の吉田一治氏だ。
 栄養士としてキャリアをスタートし、食品開発、海外留学、外資系コンサルタントを経て起業。25歳で2000万円の借金を背負うというドン底も経験しながら、それを乗り越え、独自の「戦わない経営」で成功を築いてきた。初の著書『常識を疑え――99%“戦わない”経営 実践編』を上梓した吉田社長の、逆境から学んだ人生哲学、夢を持つことの意味、そしてAI時代に人間が磨くべき力について語ってもらった。

25歳で2000万円の借金…すべてを失った男が人気のルイボス...の画像はこちら >>

◆栄養士からコンサルタント、そして起業家へ

――百貨店の中のルイボスティ専門店が人気ですよね。まずはこれまでのご経歴と、現在のお仕事について教えてください。

吉田 もともとは栄養士として学校を出て、その後、大手食品ベンダーでセブンイレブンのプライベートブランドの開発をしていたんです。そこで世界中の食材に触れたり、ヒット商品を作るノウハウを学びました。

 ただ、もともと起業家を目指していたので、グローバルなスキルを身につけるために中国と米国に留学し、中国語・英語を習得したうえでMBAを取得しました。その後、外資系のコンサル会社で海外を中心に15年ほど働き、2013年に帰国してノンカフェイン専門店を創業した、というのが大まかな流れです。

 現在は実業家として、また不動産・金融投資家としても活動しています。表向きは「お茶をやっています」と答えるのですが(笑)。

――お茶のビジネスを始めたきっかけは何だったのでしょうか。


吉田 南アフリカのスーパーマーケットに行ったとき、棚一面に100種類以上ものルイボスティーがさまざまなフレーバーで並んでいたんです。どれもかわいくておしゃれで、おいしい。これは日本の女性に絶対に喜ばれるんじゃないかと直感しました。

 当時、日本ではルイボスティーといえばドラッグストアに置いてある1アイテムというイメージ。そのギャップを埋める形で、フレーバーが豊富なノンカフェイン専門店という業態を持ち込みました。

 現在は50種類ほどを展開しており、フルーツ系やはちみつ系に加え、最近ではアーモンドクリームやピスタチオといった穀物系が人気です。

――反応はいかがでしたか。

吉田 最初に驚いたのは、雇ったパートさんが初日に全員、商品を自分で買っていったことです。そのときに、このビジネスにはニーズがあると確信しました。お茶を自分で作って持ち歩くというスタイル自体が、当時の方々には新鮮に映ったのだと思います。

◆25歳で背負った2000万円の借金

――経営者人生のなかで、多くの失敗も経験されたと思います。最大の失敗とはどのようなものでしたか。

吉田 25歳のとき、友人の会社の連帯保証人になってしまったことです。
化粧品を売って成功していた友人が融資を引っ張りたいと言ってきた。普通は断りますよね。でも、当時の私は「早く成功したい」「ショートカットで豊かになりたい」という気持ちと、婚約していた彼女にいいところを見せたいという思いが重なって、承諾してしまったんです。

 すぐに彼は逃げてしまいまして、気づけば私が2000万円ほどの借金を抱えていました。他人の借金ですから、気分は最悪でしたね。

――そこからどのように立ち直られたのでしょうか。

吉田 借金だけでなく、それが原因で彼女とも別れることになりました。極度のストレスで体調を崩し、原因不明の肺炎で2か月ほど隔離病棟に入ることになったんです。お金も愛も健康も、すべてを失った感覚でした。

 ただ、どこか冷静な自分もいて、「このままではいけない」という気持ちはありました。いくら一生懸命働いても結果が出ない。そこで、今まで自分がやってきたことの逆をやってみようと考えました。


 一番行きたくない場所はどこか、一番やりたくないことは何かと考えたとき、ある先輩から2年越しで声をかけられていた群馬の山奥の仕事が頭に浮かんだんです。海が好きでサーフィンもやっていましたから、「死んでも行かない」と言っていた場所でした。

 でも、会社を辞めた日の夜にそのまま群馬へ向かいました。住み込みで働きながら、休みの日は温泉に入って自分を見つめ直す。それぐらいしか、当時はできませんでした。

――群馬でどのような展開が待っていたのでしょうか。

吉田 半年後に群馬で会社を立ち上げました。将来独立してお店を持つつもりで内装の勉強をしていたのですが、その知識を活かして大型店舗の内装を手がける会社をつくり、ゼネコンから仕事をいただく形で事業を軌道に乗せました。2年で借金を全部返して、失った自信も取り戻すことができた。

 自分の計画にないことをやって、人生が変わった初めての経験でした。「あなたの成功は、あなたが思っているものとはまったく違う形で訪れる」という言葉を本で読んだことがあったのですが、まさにそれを体感した瞬間でしたね。自分の成功は他人によって作られているんだと気づきました。


◆29歳で「リセット」を選んだ覚悟

――これまでの人生で「正しかった」と思える決断は何でしょうか。

吉田 29歳のときに、うまくいっていた群馬の会社を畳んで、中国と米国に延べ6年間留学した決断です。会社はすごくうまくいっていて、借金も返せて貯金もできていました。でも年商100億円という目標を持っていましたから、このままでは届かないという感覚がありました。

 国際感覚もスキルも、世界には通用しないとも感じていた。だから一度リセットして、人生を作り直そうと決めたんです。

 中国の上海で3年間語学留学をして中国語の資格を取り、その後、米国で2年間英語を学び、大学院でMBAを取得しました。合計6年かかりました。

――その間の生活はどうされていたのでしょうか。

吉田 中国では仕事はできませんから、群馬時代の貯金で細々と生活していました。米国の大学院に入ってからは生活費を自分で稼ぎましたが、36歳のときはほぼ一文なしでしたね。デートもできないし、恋なんか絶対できない(笑)。

 でも留学で得た語学力やビジネスセンス、多くの経験が、今の事業を加速させる本当の意味でのブーストになりました。
あの決断をしていなければ、今の自分はなかったと思います。

◆「夢と使命感」が人を動かす

――成功する人と失敗する人の違いは何だとお考えですか。

吉田 経済的な成功という意味で言えば、目先の給料や売上といった欲望に一喜一憂している人が成功しているケースはほとんど見たことがありません。99%の人がそういう状態にあると思っています。

 成功する人は、まず大きな夢を持っていて、それを軸に長期的なビジョンを持って生きています。夢があるからこそ、目先の誘惑を断ち切れる。留学中にすぐ就職することもできましたが、そうしなかったのはその目標があったからです。

――吉田さん自身はどのような夢や使命感をお持ちだったのでしょうか。

吉田 25歳でどん底を経験したとき、「必ず成功して本を書く」という使命を自分に課しました。一生懸命生きても報われない人がいたとき、「ここで諦めちゃいけない」と胸を張って言えるためには、自分が夢を叶える必要があると思ったんです。

 100億円という数字は達成できなくても、1億でも5億でも10億でもいい。でも必ず成功して本を書くという夢だけは捨てない。そういう使命感が、本当につらいときの支えになってくれました。


◆「戦わない経営」の本質

25歳で2000万円の借金…すべてを失った男が人気のルイボスティ専門店を全国展開できた理由

――吉田社長は「常識を疑う」という考えをお持ちですよね。それはどのような思考プロセスを指しているのでしょうか。
吉田 やれることはないと思っていること自体が、常識に振り回されている証拠だと思っています。どの企業にも、やりたくないこと、作りたくないものがある。それを見抜くことが大事なんです。

 たとえばテレビのビール広告は、おいしいからではなく、粗利率がいいからやっているわけです。企業は利益のために動いている。だとすれば、企業の常識は世の中の非常識なはず。そう考えると、まだまだチャンスは見つかります。

――「99%戦わない」経営のなかで、残りの1%に力を注いだのは何でしょうか。

吉田 誰もやらないこと、誰もやりたくないことです。全商品を無料で試飲できるスタイルがそれにあたります。5種類からスタートして、20、30、40種類と増えるにつれ、すべてを試飲提供するのは店舗への負荷が大きくなる一方です。でも、誰もやりたがらないからこそ差別化になる。

 後発で資金力のない会社が厳しい市場で生き残るために唯一できること、それは苦労することと知恵を絞ることです。

――渋谷の「ヒカリエ」への出店が創業から8か月で実現したのも、その哲学があったからでしょうか。

吉田 東急百貨店の方に最初に言われたのは、「私たちは新しいサービスを探している」という一言でした。売上の話をする前に、「弊社がここにいることで、このフロアにこんな賑わいが生まれます」というプレゼンができたことが響いたのだと思います。

 セルフ販売・無人化が進む中で、全種類を試飲できておしゃれなテイスティングバーというのは、商業施設にとっても魅力的な提案だったんです。その相談は15分ほどで決まりました。

◆若い世代へ伝えたいこと

25歳で2000万円の借金…すべてを失った男が人気のルイボスティ専門店を全国展開できた理由
――もし今、20歳の頃の自分に会えるとしたら、どんな言葉をかけますか。

吉田 何も言いません。遠回りで不器用な人生を歩んだからこそ、心の筋肉=忍耐力が育てられた。語学力も、ビジネスセンスも、多くの経験によって磨かれました。

 長い人生においては、夢が遠ざかるような時期もほんのわずかな時間にすぎない。そこを乗り越えることで大きく成長できる。だから、何も言わなくていいんです。

――最後に、若い世代へ伝えたい人生の教訓をお聞かせください。

吉田 まず夢を持ってほしいですね。学生時代に優秀だったり人気者だった人が、社会に出てから成功しているケースをあまり見たことがないんです。学生は「自分が優秀であること」が評価される世界ですが、社会では「他人を幸せにする人、他人を成功させる人」が評価される。その基準の違いを、若いうちに知っておいてほしい。

 もう1つ、夢の持ち方が大事だと思っています。「いい会社に就職したい」「金融機関で働きたい」というのは夢ではなく、手段です。まず人生で何を成し遂げたいかという大きな夢を持つ。私が若いころに持っていた「ビッグになる」というざっくりしたものでいい。抽象的でかまわない。その夢をもとに具体的な手段を考えていけばいいんです。

【プロフィール】吉田一治(よしだ・かつじ)
H&F BELX Holdings株式会社代表取締役社長。実業家・ブランドプロデューサー。デカフェ・ノンカフェイン専門ブランドを全国展開。20 代で多額の借金を経験後、中国・アメリカへの留学を経てMBA を取得。外資系企業や大手企業での経験を積みながら、「人生は後半で逆転できる」という独自の哲学を築く。長年にわたり、事業再建、人材育成、商品開発、海外ビジネスに携わり、“ 遅咲きの成功論” を発信。効率化、拡大、スピード、成果主義——。多くの人が正しいと信じる“ 常識” に疑問を投げかけながら、「人生を守るための経営」を追求。初の著書『常識を疑え――99%“戦わない”経営 実践編』では、「常識を疑え」というメッセージを通じて、“99%戦わない”独自の経営哲学のもと、これからの時代の豊かさと成功のあり方を描いている。
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