日本の職場を静かに蝕むのが「あの人がいるだけで精神的になぜか削られる」“毒社員”の存在だ。反論すれば攻撃され、排除しようとすれば組織に波風が立つ彼らの対処法として、実は生物学の知見が有効だ。
ダニやヒアリの研究で知られる生物学者にその具体的な方法を聞いた。

気づかれない戦略も有効

「あの人がいるだけで精神的になぜか削られる…」職場の“毒社員...の画像はこちら >>
ダニの研究や特定外来生物・ヒアリの防疫で知られる生物学者の五箇公一氏は、会社で自己利益に走り、組織や同僚にダメージを与える“毒社員”への対策をこう話した。

「例えばマダニは、気づかれないことで生き残っています。蚊は血を吸うために刺すことで人に気づかれて殺されますが、マダニの口にあるハサミのような器官は、人間がほとんど痛みを感じることなく皮膚を切開できる。脅威となる相手に一切気づかれずに血を吸うことが可能なのです。

もしも会社に“毒上司”がいるなら、気づかれない戦略も有効でしょう。刺激せずスルーしたほうが、エネルギーコストもかからない。反論や抗議も禁物。虫の世界で下手に攻撃したら命に関わるように、相手が上司だけに手痛い反撃に遭う可能性もあります」

毒を持つ生物と共生する例も

自然界には、毒を持つ生物と共生する例も少なくない。

「共生とは、相互利用のこと。花と昆虫も、元を辿れば昆虫は、先に進化していた植物を根こそぎ食べていた害虫という位置づけ。花にとってはまさに“毒”だったわけです。

そこで植物は反転攻勢に出て、蜜を出して昆虫を騙して花粉を運ばせるよう進化した一方で、チョウや蜂などの昆虫も蜜がもらえるから花から花へと飛び回ったほうが得になるので、花粉媒介昆虫として進化した。お互い、利用し合っているわけです。


会社でも、“毒社員”の役に立つ部分を見抜いて、使ってあげればいい。“毒社員”はスタンスを変えずに済むので得だし、うまく利用すれば自分にとっても、会社組織にとっても得です」

何かと理由をつけてはサボる“毒社員”の対処法は?

「あの人がいるだけで精神的になぜか削られる…」職場の“毒社員”は追い出してはいけない理由
写真はイメージ
何かと理由をつけてはサボる“毒社員”もいるだろう。アリの社会でも、働かない個体がどの巣にも存在する。

「一見、すべてのアリが働いたほうが効率が良く思えますが、全員が働く前提で組織が回っていると、環境変化による欠員が出たときにコロニー全体が機能停止に陥ります。一方で働かないアリがいる巣では、緊急時にサボっていたアリが働き始める。実は、働かないアリは予備兵で、いざというときのための待機という“仕事”をしていたのです」

ここから読めるのは単純な“サボり”の肯定ではない。

「アリは遺伝子のプログラミングで行動しているが、人間は自らの考えで行動する。だから、サボることしか考えてない人は、ずっとサボり続けます(笑)。大事なのは、社員それぞれに個性と能力があるという認識の下、適材適所で社員を生かすこと。“毒社員”の能力を見いだし、うまく活用すべきです」

“毒社員”だから排除しようという考えも、慎むべきだと五箇氏は言う。

「環境が変化したとき、みんな同じ遺伝子の集団は滅んでしまう。人間社会も同じで、模範的で優秀な社員ばかりの会社は、一律な対応しかできず脆いもの。ニーズが多様化している現在は、なおさらです」

“毒”もうまく利用すれば、効用をもたらす薬になるのだ。


自然界から導く毒対策3か条

①ダニのように隠れろ

②花のように“毒”を利用せよ

③アリのように強みとして生かせ

「あの人がいるだけで精神的になぜか削られる…」職場の“毒社員”は追い出してはいけない理由
[隣の(毒)社員]撃退マニュアル
【生物学者 五箇公一氏】
昆虫学者。生態学者。大手化学メーカーの殺虫剤研究開発職を経て国立環境研究所に入所。学術的な知見をユーモアを交えて解説

※2026年8月4日号より

取材・文/週刊SPA!編集部

―[[隣の(毒)社員]撃退マニュアル]―
編集部おすすめ