スマホの画面の向こう、ホーチミン市の街の風景の中、クールな面持ちで画面に収まっている若い女性が、日本語で語りかける。「君たち」ではなく「チミたち」。
彼女が街にくりだし、屋台の料理の数々を紹介する動画がはじまったのは2年前。チャンネルタイトルは「ビーやねん」。当初からベトナム在住の筆者は彼女のチャンネルをフォローしている。2026年8月現在で、Instagramのフォロワーが7.8万人、TikTok7万人、YouTube3.7万人、Xが1.3万人だ。
コロナ禍があけた頃からだろうか、東南アジア各国の現地人女性のTikTokerやYouTubeが日本語で自分の国を紹介する動画チャンネルが増えてきた。日本語で一生懸命、自分の国のことを伝えようとしている。時には自虐的に自国の文化を紹介する彼女たちは天性のコメディエンヌとしての素質を備えている。かつ、かわいい。
そしてベトナムからは「ビーやねん」が参戦した。ベトナム女性らしく、どちらかというとツンデレでクールで、ちょっとノーブルなキャラクターの女性だ。
すっかりファンとなってしまった。彼女に会って取材ができないか? そう思って「ビーやねん」所属事務所に連絡をとってみたところ、快く応じてもらえた。
「ビーやねん」の透明感にたじろぐ記者…
夕方7時、約束通りの時間にやってきた「ビーやねん」。ジーンズに長袖のニットのトップスは淡いピンク。そんな彼女の装いに、一瞬たじろいでしまった。彼女のもつ透明感、清潔感は圧倒的だ。
さぁ、気を取り直して取材開始! 取材はベトナム語で行った。
彼女の本名はトゥオン・ヴィ(以下、ヴィ)、ベトナム語で「野バラ」の意味だ。ホーチミン市、2002年の生まれ。
「ごきょうだいは?」と尋ねると、
「姉が一人います。
彼女によれば、日本語はアニメで覚えたという。バレーボールの「ハイキュー!!」などのスポーツ漫画・アニメが好きなのだそうだ。耳から覚えたので、聞き取りはできても、喋る方は不得意なのだとか。
「姉は日本語学校で日本語を教えていて、N1のテストを受けたばかり。今はその結果待ちなんです」
N1といえば、日本の大学院に合格できるレベルの日本語といわれ、難度は高い試験だ。
現在、彼女はホーチミン市内の専門学校に通い、マーケティングを勉強中。現役の学生でありながら、動画を撮影して「ビーやねん」を発信している。
ビーやねんは元SGO48のメンバーだった
「実はわたし、以前、SGO48に所属していたんです。でもコロナ禍で解散してしまって。芸能活動は続けたくて動画をはじめたんです」
AKB48の国外の姉妹グループは2011年にJKT48(ジャカルタ)、2012年にはBNK48(バンコク)と、東南アジアの都市に次々と設立され、それぞれ人気を博した。満を持して、ここホーチミン市にも2018年オーディションが行われ、2019年に正式発足したSGO48。ホーチミン市の旧名、サイゴン(Sai Gon)からとられたグループ名だ。
ただ残念ながら2020年からコロナ禍でライブ活動が不可能となり、2021年には解散を余儀なくされた。
彼女は、多数の応募者の中から選ばれた。オーディションを受けたときはどうだったのか?
「自分がメンバーになれたのは、とってもラッキーだったんです。友だちがSGO48のオーディションを受けるというので、『じゃあ、私も一緒に受けてみようかな』と軽い気持ちで受けました。でもオーディションを勧めてくれた友人は不合格。私だけ合格しちゃったんです」
オーディションでは「自己アピール」「歌」「踊り」の3つが試された。彼女は「恋するフォーチュンクッキー」の振りを覚えて披露したという。
歌といえば、自宅にあったスマホでYouTubeのカラオケに合わせてベトナムの男性グループの歌を歌っていたぐらいだった。だが7000超の応募者の中から、29名のひとりに彼女は選ばれた。
「合格した時にはうれしくて泣いてしまいました」
デビューに向けて練習がはじまった。午前は高校に通い、午後は練習に通った。
「休日は自宅から練習場まで20kmはある距離を母がオートバイで送り迎えしてくれました。平日は高校が終わったら、母が仕事場を抜け出して私を練習場にまで送り届けてくれました」
そうした過酷な練習を2年間続け、AKB48のヒット曲のベトナム語カバーバージョンを歌い、ステージもこなした。
コロナ禍でグループは解散、動画配信で芸能活動に再挑戦
結局、2021年には活動の継続が難しいと運営が判断し、SGO48も解散が決定した。
芸能活動が継続できなくなった彼女はその道を諦め、働きに出た。
働きに出たことで、かえって学歴のあるなしで、自らに巡ってくる機会が異なることに気がついたので、仕事を辞め、あらためて専門学校に入学、マーケティングの勉強をはじめた。2024年のことだ。
ちょうどその頃にベトナム・ホーチミン市を拠点とする映像制作会社の日本人ディレクターと出会った。再び憧れだった芸能活動を続けることができるかもしれない……。
彼女は「ビーやねん」をスタートさせた。「ビー」は名前のヴィから、関西弁の「やねん」をつけて親しみのあるネームにした。こうしてインフルエンサーとして動画を撮影して様々なプラットフォームで配信するようになったのだ。
「自分は普段から顔に表情をあまり出さないほうなんです。ビーやねんは無理に笑顔を作ったりしないで、まったく自分と同じキャラだから続けられるのかも」とヴィはいう。
動画についた日本語のコメントもすべて読んでいるそうだ。日本語のコメントはAI翻訳を利用して読んでいる。もしわからない単語や文章があるときは、お姉さんに翻訳してもらうそうだ。
41年前のヒット曲をうたい、再生回数11万回を記録
「え、ビーやねん、うまい。そして歌が懐かしすぎる」「鬼ウマい」「面白い、可愛い、歌上手い、そして日本の歌をうたってくれることに感動した」など、コメント欄も好評価で埋めつくされた。
YouTubeの登録チャンネル数3万人突破を記念に日本の歌をうたおうと、曲を5つ聞いて、ヴィが気に入ったのが、この「恋に落ちて」だったそうだ。
歌詞の中には「ダイヤル」という言葉が出てくる。
「昔の電話は穴の空いた円盤を回してたんですよね、写真で昔のダイヤル式の電話機をみたことはありますが、自分でダイヤルを回したことはありません」と指先をくるくるまわして、電話をかける真似をしながら、「ダイヤル回して、手をとめた~」と歌ってくれた。
彼女は2002年生まれ。ダイヤル式の古い電話機など知るはずもないが、だからこそ新鮮に映るのだろう。
「現在フォロワーはまだ7万人台ですが、これを700万人にまで増やしたいです!」といって、このときばかりは照れたような笑顔になった。
専門学校を卒業したら今度は日本語を本格的に学ぶつもりだとのこと。彼女の夢はますます膨らむばかりだ。
つぎの歌の動画も準備中だとか。配信が待ち遠しい。さらに! 11月8日には東京・お台場でファンミーティングも開催予定だ。「ビーやねん」をご存じないみなさんもぜひこの機会に動画を見てみてほしい。チミたち、ビーやねんに絶対にハマるnha!
【ビーやねん】
Instagram:@vyyanen
X:@vyyanen
TikTok:@vyyanen
YouTube:「ビーやねん」
<取材・文・撮影/新妻東一、一部写真/ビネプロ提供>
【新妻東一】
ベトナム在住22年。商社、旅行業、取材コーディネーターを経て、経済、鉄道、不動産、歴史から超能力者、UMA、UFOまで、ベトナムに関してなら、社会・芸能ネタからトンデモネタまでリサーチをし、執筆している。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員
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