現地時間18日の夜、米ニューヨーク北部の私立大学シラキュース大学のバード図書館に詰めかけた学生らは、見知らぬ恐怖のファイルをAirdropで受信した。

大学の学友会向けフォーラムにも投稿されたそのファイルには、今年初めにニュージーランドのクライストチャーチのモスクで50人以上の信者の命を奪った銃撃犯による過激な反イスラム的マニフェストが収められていた。
「我々の仲間の存続、白人の子供たちの未来を守らねばならない」というメッセージがマニフェストと一緒に添えられていた。

白人至上主義者のマニフェストの投稿は、学生や大学側が緊張状態と呼ぶ時期の最後を締めくくった。学内では人種差別的・反ユダヤ的な事件が多発しており、雪の上に鉤十字が書かれていたり、校舎の壁に人種差別的なグラフィティが描かれていたり、男子友愛会のメンバーが有色人種の女子大生に向かって侮蔑の言葉を浴びせたりしていた。連邦および州の警察当局が呼ばれ捜査を行ったが、講義は休講にならなかった。当局からは、容疑者に関する情報はほとんど公表されていない。

「この一連の事件が恐ろしい最大の理由のは、たぶん未確認事項が多すぎることだと思います」と、22歳のシラキュース大学2年生は言う。「何も知りません。単独犯なのか、複数犯なのか、それとも集団で行動しているのか、白人主義者なのか、ひどすぎる冗談のつもりなのか、期末試験を中止させようとしているのか……いくらでも考えられます。一体自分たちは誰を、何を相手にしているのか分からないんです」

学生運動家たちは数日前から、大学側が学内の嫌がらせに効果的な対応をしていないと痛烈に非難していた。そして学生主導の座り込み抗議を呼びかけ、キャンパスに新設されたウェルネス施設バーンズ・センターを約1週間占拠している。大勢の学生が怖くて家を出られないと言い、教職員らにも団結を求め、講義を休講にするよう求めた。「緊張状態がピークに来ています」と言う21歳の有色人種の学生は、全米の白人至上主義者からの嫌がらせや大学側からの懲罰を恐れて、匿名という条件で取材に答えてくれた。
「大学は、授業に出て全力を尽くせと言う。でも、いつ何時攻撃されてもおかしくない状況で教室に座っているなんて、想像できませんよ」

連続する事件と大学の不適切な対応

とはいえ、教職員や有色人種の学生たちは(大半は匿名という条件で取材に応じてくれた)、この数週間の出来事が単独の事件とはとても思えないと言う。学内の有色人種の学生にとって、ここ数週間の出来事は――学生たちが言うところの、学校側の不適切な対応と相まって――まるで歴史が繰り返されているようだ。大学内の人種差別は「昨日や今日の話ではありません」と言うのはジェン・ジャクソン博士。シラキュース大学で政治学を教える助教授で、ソーシャルメディア上で学生活動を声高に支持している人物だ。「今持ち上がっている問題を、学校側は偶発的な事件やランダムな出来事ではなく、キャンパス内の組織的問題と捉えるべきだと思います」

NotAgainSUが公開したタイムラインによれば、シラキュース大学の一連の事件の発端となったのは11月7日。この日、1年生の学生寮デイ・ホールのバスルームに、アジア系や黒人の学生を標的にした人種差別的な落書きが描かれ、ひどく荒らされていた。黒人学生向けの学内誌レネゲードマガジンによると、公安局(DPS)長官と大学運営職員は寮生を集め、ソーシャルメディアに事件の画像や動画を一切投稿しないよう指示した。一部の学生がこれを無視したため、落書きと破壊の動画はキャンパス中に広まった。加えて、ローリングストーン誌の取材に答えた学生らはみな学校側の対応を非難し、DPSが事件を学内安全警戒として報告したのは事件直後ではなく、14日朝になってやっと報告書を提出した点を指摘した。

「(運営部は)透明性を謳い、学生の安全が最優先だと言っているくせに、矛盾していますよね。こんなに時間がかかってるんですから」と、別の有色人種の学生もローリングストーン誌に語った(弊誌が大学側にコメントを求めたところ、大学の代表者はケント・シヴラッド学長の声明を転送してきた。
シヴラッド学長は、この数週間の事件の詳細には特に触れず、「数日かけて協議を重ねた結果、プログラムやリソース、その他すでに対応済みや対応中の措置について、周知と透明性の改善が必要であることが明らかだ」と認めた)。

事件と不適切な対応に対する学生たちの抗議

有色人種の学生たちは、デイ・ホール事件に対する学校側の対応に怒りを爆発させた。以前から黒人コミュニティを狙った同様の事件が起きていたことも影響した。昨冬、有色人種の学生3人が4人の白人の通行人から襲撃を受けた。加害者のうち1人は、Nで始まる差別用語を使ったと言われる。この件に対するDPSの当初の報告書は、人種差別が理由の襲撃である可能性をはじめ、本質的な内容に触れていないとして、大勢の学生が非難した。

前年2018年の春には、工学部の学友会シータ・タウの入会の誓いの動画が広まった。入会を誓う寸劇の中でシータ・タウのメンバーは、黒人やユダヤ人、ラテン系の人々を人種差別的な言葉で侮辱した。学友会のメンバーは停学処分にされたが、学生らはあの動画はまさにキャンパス内に蔓延している慣習の好例だと考えた。「こうした行動は学友会に限ったことだと言えればいいのですが、実際はそうではありません」と、とある学生は大学新聞デイリー・オレンジ紙に語っている。「これはこの大学に存在する、潜在的排他主義の問題なんです」 学生たちは大学側、特にケント・シヴラッド学長の対応にも怒りを募らせている。シヴラッド学長は学生から意見を聞く集会に姿を見せず、#WheresKent(ケントはどこだ)というハッシュタグが生まれた。
対応策としてシヴラッド学長は、学友会のメンバーを永久退学とし、デモ参加者と「差別や憎悪を徹底して拒絶する全ての人々に」感謝を述べた。

「やるべきことは山積しています。今日私が皆さんの前でお話するよりも、ひとつずつ着実に進めていくことが重要です」というメールをキャンパス全域に発信した。

大学側の腰の重さに業を煮やした黒人学生の活動家たちは、自分たちの不満を発信して行動を呼びかけるべく学生フォーラムを開催。それが先の座り込み抗議やハッシュタグ#NotAgainSUなどの集団活動へと発展した。バーンズ・センターの抗議参加者は、有色人種の学生が安心できる環境作りを目指す要求リストを作成。その中には、新規雇用者やスタッフに対する多様性の研修の義務化、ハラスメント不寛容の運営方針の制定などが含まれており、大学側が要求の受け入れると同意するまではバーンズ・センターを占拠すると宣言した。

だが、デイ・ホールの落書き事件の後も、学内のヘイトスピーチは野放しのままだった。14日にはさらに多くの建物に反アジア的な内容のグラフィティが描かれ、学生寮の前の雪には鉤十字が書かれていた。先週土曜日には、とある学生がすれ違いざまに、アフリカ系アメリカ人の学生に人種差別的な言葉を浴びせたという。その数時間後、学友会アルファ・チー・ローのメンバーの1人が黒人の女子学生にいきなり近づいて、人種差別的な侮蔑語で呼んだそうだ(アルファ・チー・ロー本部は関与を否定しているものの、大学側は事件以降、今学期中全ての学友会の活動を禁止した)。メキシコ系ユダヤ人の教授の元には、反ユダヤ的なヘイトメッセージが書かれた匿名のメールが送られた。
メールには「オーブンに入れ、そこがお前の居場所だ」という脅迫的な文章も書かれていた。

根深い人種差別問題

こうした事件に対し、大学側も1人で外出するときは護衛をつけるよう生徒に呼びかけたり、校舎周辺のパトロールを強化するなど、それなりの安全強化措置は取っている。シラキュース警察のケントン・T・バックナー署長も記者会見を開き、FBIや州警察がマニフェストの捜査に当たっていると述べたが、これまでシラキュース大学の有色人種学生に対して「特定の脅威はなかった」と発表している。教職員や有色人種の学生らはそれだけでは不十分だと言い、大学側は自分たちの身の危険への心配に取り合わず、学内に蔓延る不安感や恐怖感を過小評価していると非難した。

特に注目すべきは、大学側が授業を休講する代わりに、構内を歩くときは護衛をつけて自分の身を守れと学生に呼びかけた点だ。「学校側は学生がこんな状況の中で生活するのにどれだけ不安を感じているかを理解するより、通常通り業務を行うことを最優先にしているんでしょうね」とジャクソン博士は言う。ついにはアンドリュー・クオモ州知事も乗り出し、学内のヘイトスピーチに対するシヴラッド学長の対応は、「このような無謀で、忌まわしい、非難すべき行為に対する州の厳しい姿勢を反映していない」と非難した(声明の中でシヴラッド学長は、ここ最近の事件を「非常に悩ましい」と表現している)。

米シラキュース大学の根深い人種差別問題 Airdropで送信された恐怖のファイルとは?

2019年11月15日、シラキュース大学のギフォード講堂で行われたアジア系アメリカ人・アジア人留学生主催のフォーラムで、ケント・シバラッド学長の不在を叫ぶ学生(Photo by Jessica Tran)

シラキュース大学の有色人種の学生らがはっきりさせたいのは、この数日間の抗議はマニフェストや、以前から続く人種差別・反ユダヤ的な事件だけに対するものではないということだ。むしろ目的は、キャンパス内の多様性の問題に対する大学側の不適切な対応に、世間の関心を向けることにある(シラキュース大学の学生は圧倒的に白人が占める。フォーブス誌によると、学生全体の60%が白人でアフリカ系アメリカ人はわずか7%)。「哀しいかな、この学校では、マイノリティがトラウマになるような経験をするのがたった1回で済めばラッキーな方だ、というのが真実なんです。座り込みをして、学校側にどうにかしてくれと叫ぶのはもううんざりです」と、有色人種の学生は言った。
学生運動家によるバーンズセンターの座り込みは、今度の水曜で1週間を迎える。この日の午後5時にはシヴラッド学長と会合を開き、彼らの要求に対する公式な返答を聞くことになっている。学長の返答次第では座り込みが終結する可能性もあるが、有色人種の学生たちが学内で不安と肩身の狭い思いをさせられてきた歴史に幕が下りることはなさそうだ。

「こうした出来事を個別の事件だと決めつけると、これが文化の一部だという事実に背を向けることになります」とジャクソン博士。「重荷を負わされている、社会から除外されてきた人々の体験を踏みにじることになるのです」
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