テレ東ではじまり、各局がコンテンツに
歴史は、1989年にさかのぼる。現在の『日曜ビッグバラエティ』(テレビ東京系)の前身にあたる『日曜ビッグスペシャル』枠で、大食い選手権が放送され、人気を集めた。1992年に始まった『TVチャンピオン』にも受け継がれ、番組を代表する企画になっていく。赤阪尊子、小林尊、ジャイアント白田ら、個性の強い選手が登場。どこまで食べられるのか、誰が最後まで残るのか。食べる量と速さが、スポーツの記録のように注目された。
その熱気は、バラエティの枠に収まらなかった。2000年7月、日本テレビは草彅剛主演、野島伸司の企画による連続ドラマ『フードファイト』を放送した。大食いが、ドラマにまでなったのだ。
毎回、対決する料理がチャーハン、ラーメン、カレーと変わり、草彅に挑む相手も、現在の松本幸四郎である当時の市川染五郎、田口浩正、いしだ壱成ら豪華な顔ぶれ。俳優たちが料理を食べ競う姿を、毎週の見せ場にしていた。
3年間の空白が生じた背景には…
2001年には、TBSでも大食い特番『フードバトルクラブ』が始まる。大がかりな会場やセット、最高1000万円の高額賞金で、選手同士の対決をショーアップした。そして2002年1月3日、両局の大食い番組が裏かぶりする事態に。しかも、出場する選手にも同じ顔ぶれが並んでいた。
当時のテレビ東京社長は定例会見で、パーティーでTBS社長に会った際、「大TBSが、小テレ東のマネをするのはいかがなものか」と言ったことを明かしていたという。冗談交じりの言葉でも、育ててきた企画と目玉選手を他局にも使われる、先駆者としての意地がにじむ。いずれにしても社長同士のやり取りが話題になるほど、大食いはテレビ局にとって重要なコンテンツだった。
だが、局同士が競い合うブームのさなかに、痛ましい事故が起きた。
2002年1月、愛知県の中学校で、男子生徒が給食のパンの早食い競争をして、喉に詰まらせた。意識不明の状態が続き、約3カ月後の4月に死亡。同級生は「テレビ番組をまねた」と話したと報じられた。
市の教育長は、「テレビ番組の影響があったとすれば、判断力が十分に備わっていない生徒への影響を考えてほしい」と訴えた。
『フードバトルクラブ』の続編は中止となり、テレビ東京も大食い番組の放送を見合わせた。
ブームの絶頂で起きた自粛だった。テレビ東京が『元祖!大食い王決定戦』として再開したのは、その3年後、2005年春だ。視聴者の要望を受けた復活とされ、収録への医師の立ち会いなど、安全対策も強化された。
救世主・ギャル曽根の登場で再度脚光を浴びる
批判の中、再出発した大食い番組。そのとき救世主ともいえる存在が現れる。それがギャル曽根だった。2005年秋の『元祖!大食い王決定戦』に登場し、結果は6位だったが、ギャルの風貌と、勝敗だけにこだわらず自由に食べる姿で存在感を示した。
食事中にもメイクを直し、おいしそうに料理を口に運ぶ。苦しさに耐えて限界を競うだけだった大食いに、明るさと親しみやすさを持ち込んだ。2007年には、新語・流行語大賞のトップテンに「大食い」が入り、ギャル曽根が受賞者となった。
さらに彼女の大食いをお茶の間の定番にしたのが、2013年に始まった『有吉ゼミ』(日本テレビ系)だった。
店が特別に用意するデカ盛り料理に、ギャル曽根と俳優、芸人、スポーツ選手らが挑む「チャレンジグルメ」。現在では、『有吉ゼミ』と聞けば、まず彼女の大食いを思い浮かべる人もいるだろう。
初期には約4キロのチキンライスを30分以内に食べるような挑戦もあった。一方、最近は3キロ台の料理を制限時間50分で食べる回も増えている。料理ごとに条件が違う以上、一概には決めつけることはできないが、ルールを緩くすることで、女王の“胃”を守っているのではと、ささやく者もいる。
それでも、毎回のように難関を強調しながら、最後は彼女が余裕を見せる。その展開が定着するほど、本当の勝負というより、女王の強さを確認するための企画になっていく。
情報番組とバラエティの落差に違和感
大食いを続けているのは、日本テレビだけではない。テレビ東京系の『デカ盛りハンター』は2020年に始まり、休止を挟んで2024年4月にレギュラー放送が復活。巨大ラーメンや寿司、ご当地料理などに、大食いの実力者が挑んでいる。
『世界くらべてみたら』(TBS系)でも、はらぺこツインズやぞうさんパクパクらが、海外のデカ盛りや現地の大食い系YouTuberとの対決に挑む。舞台を世界へ広げても、大量に食べる姿が見せ場になる点は共通している。
根強く支持される理由はわかる。自分にはできないことを見る驚きがあり、完食できるかというわかりやすい筋もある。
だが、その娯楽を生んだころと、今とでは、食卓を取り巻く空気が違う。
値上げを前に、買う量を減らし、安い食材に置き換え、残り物を使い切る。そんな暮らしの一方で、テレビでは何人分もの料理を1人の前に積み上げ、「まだ食べられる」と盛り上がる。
情報番組では節約や食品ロス削減を勧める一方で、バラエティでは大量消費を楽しませる。この落差に違和感を持つ人がいても、不思議ではない。
“飽食の時代の遺産”なのか
「残さず食べた」「残った分はお持ち帰り」と説明しても、その疑問は消えない。問われているのは、食べ残しの有無だけでなく、大量に食べることを競わせ、盛り上がるテレビの姿勢なのだ。ギャル曽根の強さを頼りに、同じ展開を続けるテレビ。90年代から続く大食いブームの成功体験にすがり、大食い番組・大食い企画を“飽食の時代の遺産”にしてしまっているのは、見せる側なのかもしれない。
大食い番組が安全対策を変えてきたように、時代に合わせて見せ方を考えることもできるはずだ。例えば、量の迫力だけに頼らず、料理や店の魅力をより伝えるなど、食べる量以外にも見せ場は作れるだろう。
ただ、見せ方をいくら変えても、ギャラをもらって食べるテレビタレントは満腹になる一方、食費を気にする視聴者は、空腹のまま「うまそう」とつぶやくという構図だけは残念ながら変わらないのかもしれない。
<TEXT/川瀬孝雄>
【川瀬孝雄】
テレビ業界に身を置く傍ら、フリーライターとして芸能・テレビ番組を中心にコラムや分析記事を執筆。テレビ番組のトレンドやドラマの傾向、芸能人の動向などを独自の視点で読み解き、ニュースサイトを中心に寄稿している。
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