明日2月27日に開催される、東京マラソン2011。約3万6千人のランナーが参加するこの大会で、50台のはとバスが、ランナーたちを“収容”するのをご存知だろうか。


このバスは「収容バス」といって、ケガや体調不良、制限時間切れのランナーを収容していくもの。関門で待機していたり、ランナーの最後尾からじわじわと追いかける、頼もしくもあり脅威でもある存在だ。
この収容バス、乗るチャンス……というかピンチはそうそうないから、中の様子は、ランナーでもあまり分かっていない。

そこで、収容されると一体どんな扱いを受けるのか、東京マラソン財団広報渉外部に話を伺った。
「医師や看護師は乗車しておりませんが、収容された方が安心してフィニッシュ地点まで輸送されるよう、医療系の勉強をしている学生ボランティアが乗車します。また関門にて毛布、水、アミノバリューなどを配布し、バスの中に持ち込んでいただいています」

中の様子として、東京マラソンの中継がテレビに映ってるとか、何か特徴は?
「そうしたことは特にありませんが、大型観光バスなので乗り心地は良いです」
ただし車内にいるのは、リタイアした他人同士。
乗り心地は良くても居心地が……。

そうしてランナーを乗せた収容バスは、フィニッシュ地点の東京ビッグサイトにある、手荷物返却所近くまで移動。バスから降りると、体調に応じて付き添いや車いすを用意してもらえる。そこからは、完走したランナーたちと合流。スタート前に預けた手荷物を受け取り、更衣スペースで着替えて帰路につく。
完走メダルを首から提げたランナーと一緒に着替えるときは、切なさに耐えるトーキョーハートが必要かもしれない。


と、ざっとそんな流れ。ちなみに手荷物を預けていなければ、リタイアしても収容バスに乗らずに、そのまま帰ることも可能。サクッと帰る人も、中にはいるようだ。

最後に、収容バスがなぜ「はとバス」なのか、東京マラソンの立ち上げに奔走した著者の本『東京マラソン』(遠藤雅彦著/ベースボール・マガジン社新書)から、ちょっとしたエピソードを。

それは、東京マラソン初開催に向けての準備でのこと。交通規制についての理解を求めるため、事務局は多くの業界団体や企業へ説明しに行った。
中でもその影響をモロに受けると考えられたのが、はとバス。浅草や銀座、東京タワー、皇居など、東京の観光地を巡る東京マラソンは、そのままはとバスの人気コースでもあった。

当然、東京マラソン当日は、観光バスを運休しなきゃならない。東京マラソンのせいで、売り上げはガクッと落ちることが予想された。ところがそんな状況にもかかわらず、はとバスは東京マラソンの趣旨を理解。それどころか数日後、著者とはとバスに勤める知人との雑談の中で、こんな話になったという。


はと「お前、ずいぶんひどいことをするじゃないか」
著者「どうせバスと運転手が余るのなら、こっちで使ってもいいよ」

そんな笑い混じりの言い合いがきっかけで、はとバスは東京マラソンに提供されることになったんだとか。それ以来ずっと、はとバスは収容バスなどとして、東京マラソンを無償でサポートしている。

そんないきさつから生まれた、はとバスによる協力。でもランナーとして、やっぱり収容バスには乗りたくない。
とはいえリタイアしちゃったらしょうがないから……気持ちを切り替えて、名所を巡らないはとバスを味わうという、貴重な体験を楽しむのもいいのかもしれません。
(イチカワ)