三浦しをん原作のアニメ『舟を編む』がフジテレビ「ノイタミナ」枠で放送中だ。出版社の辞書編集部を舞台に、“辞書作り”という地味かつ遠大な事業に挑む人々の姿を描く。

「舟を編む」今夜3話。辞書作りの達人は「エスカレーター観察」が好き説
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アニプレックス

先週放送された第2話「逢着」は、主人公の馬締(まじめ)光也(演:櫻井孝宏)が辞書編集部に異動してきたところから始まる。馬締の歓迎会に出席しているのは、ベテラン編集者の荒木(演:金尾哲夫)、契約社員の佐々木(演:榊原良子)、老国語学者の松本(麦人)、そして馬締の同期である西岡正志(演:神谷浩史)という顔ぶれだ。

酒の席ではその人の性格が出るもの。歓迎会でも辞書編集部の面々の性格が端的に表れている。
馬締は両手でグラスを持ち、視線が落ち着かない。人付き合いがまるっきり下手そう。

辞書編集部を長年取り仕切ってきた荒木は、辞書作りへの情熱を隠さない。
落ち着いた女性の佐々木さんは、西岡に厳しい反面、不器用そうな馬締には優しさを示す。
松本先生は物静かでありながら、荒木と同じく辞書作りの意義を熱く語る人物。
西岡は第1話よりずいぶんC調になった。酔っているせいか、話題や行動にも脈絡がない。その一方、松本先生の食べ物の好みをしっかり把握して、皿に料理を取り分けていたりする如才なさを発揮している。


なお、携帯電話についての西岡と馬締のやりとりでわかるかもしれないが、『舟を編む』の時代設定は今より少し昔とされている(西岡はガラケーで、馬締は携帯を持っていない)。
映画版でははっきりと「1995年」と示されているが、原作では時代設定は曖昧で、だいたい2000年前後だとされている(原作ではすでにインターネットがあり、登場人物は携帯でメールをやりとりしている)。

辞書とは、言葉の大海原を渡る一艘の“舟”


Aパートでは、辞書作りの難事業ぶりと意義について語られる。松本先生は、辞書作りの意義について紹興酒片手に滔々と語る。

「辞書は言葉の海を渡る舟です。言葉がなければ自分の思いを表現することも、相手の気持ちを深く受け止めることもできません。
人は辞書という舟に乗り、最もふさわしい言葉を探して、暗い海面に浮かび上がる小さな光を集める。
言葉は光なのです。
しかし、刻々と変化する世界でうまく言葉を見つけられず、行き場を失った感情を胸に葛藤の日々を送る人もいる。
そういう人々にも安心して乗ってもらえるような舟。それが、我々が作ろうとしている辞書。大きな海を渡ると書いて『大渡海』です。
言葉の大海原を渡る一艘の舟を編む。
新しい言葉を積極的に取り入れ、簡潔かつ明瞭な語釈を心掛けましょう。
『大渡海』を人々の思いに寄り添う辞書にするために」

『舟を編む』というタイトルの意味を一気呵成に説明する長セリフである。
「大渡海」は「だいとかい」と読む。原作では馬締が「だいとかい」と聞いて、「あ~あぁ~ はってし~な~い~」と突拍子もなくクリスタルキングの「大都会」を歌い始めるシーンがあるのだが、アニメにはない。
そういえば、荒木が「まじめ」を「真面目」だと勘違いするギャグもアニメではなくなっていた。アニメでは小説よりギャグが少なくなっているようだ。


松本先生は、辞書を「みんながより理解し合える世界を築く一助になるもの」と言い表している。辞書に限らず、このような考えで書籍の編集に取り組んでいる出版人は(少数かもしれないが)いる。

荒木によると、辞書作りは10年以上かかるものだという。それでも古今の日本語をすべて集めることはできないし、時間が経つにつれて日本語自体も変わっていく。辞書作りとは、終わりのないマラソンのような仕事なのだ。

なお、馬締の趣味「エスカレーター観察」が辞書作りに関連付けられて語られているが、広辞苑の編纂者である岩波書店の編集者・平木靖成氏の趣味も「エスカレーター観察」なのだそうだ。
原作者の三浦が平木に取材した際、趣味の話を聞いたらおかしかったので、そのまま主人公の趣味に採用したのだという。(朝日新聞2012年5月22日)

ついにヒロイン・香具矢登場


Bパートでは、馬締とヒロイン・香具矢(演:坂本真綾)のファーストコンタクトの模様が描かれる。
満月を背にして、たっぷりのカット割で登場する香具矢。名前のとおり、“かぐや姫”のイメージだ。実際は普通の板前修業中の女性なのだが、それだけ馬締にとっては衝撃的な出会いだということだろう。

全体的に、キャラクターは非常によく動く。いちいち無駄な仕草が多く、それがキャラクターをとても人間らしく見せている。ジブリ映画のようでもあるが、ジブリのキャラクターが目的を持って演技をしているのに対して、『舟を編む』は普通に動いているような感じだ。

本日放送の第3話は「恋」。まさしく馬締くんが香具矢さんに恋に落ちるお話だ。はたしてどんな語釈がついているのかも楽しみである。
(大山くまお)