著者・鹿島茂氏は律儀なひとだ。学生のころ吉本隆明『共同幻想論』が理解できなかった。
『共同幻想論』は「幻想」の概念が独特だ。唯物論のマルクス主義の向こうを張る。返す刀で天皇制の元を断つ。執筆意図は実に明白だ。
幻想の機序を対幻想/自己幻想/共同幻想に三分し、柳田国男の『遠野物語』を素材にその力学を検証する。量子力学の実験のようだ。世界でも独自で最高水準の達成である。
マルクス、エンゲルスは人類学を援用した。モーガンの『古代社会』だ。トッドの人類学は、食糧生産など経済基盤から家族類型の変遷を追う歴史的考察。
本書は『共同幻想論』を巻末から逆に読み進み、最後に元の順序で整理する。日本の歴史の、そして近代の根底にあるテーマは家族なのだ。『共同幻想論』は永く読み継ぐべき知的遺産。吉本隆明の独創的業績への深い敬意に基づく労作である。
【書き手】
橋爪 大三郎
社会学者。1948年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。執筆活動を経て、1989年より東工大に勤務。現在、東京工業大学名誉教授。著書に『仏教の言説戦略』(勁草書房)、『世界がわかる宗教社会学入門』(ちくま文庫)、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『社会の不思議』(朝日出版社)など多数。近著に『裁判員の教科書』(ミネルヴァ書房)、『はじめての言語ゲーム』(講談社)がある。
【初出メディア】
毎日新聞 2026年7月4日
【書誌情報】
『共同幻想論』に挑む ――家族人類学的考察著者:鹿島 茂
出版社:筑摩書房
装丁:単行本(640ページ)
発売日:2026-03-11
ISBN-10:4480815910
ISBN-13:978-4480815910