雅子さまが長く療養生活を送られた時期、そして愛子さまにまで心ない中傷が向けられた時期、今上陛下は常にご家族に寄り添い続けてこられました。

皇太子時代に語られた「あなたを守ります」という言葉は、単なる愛情表現ではなく、皇室の未来を支える強い決意でもあったのかもしれません。
多くの批判や逆風にさらされながらも、その言葉を貫いた陛下の歩みとは——。

本記事では『竹田恒泰の特別講義 天皇と皇族』(竹田恒泰・著/Gakken)より一部を抜粋・編集し、今上陛下の覚悟と信念を紹介します。

■愛子さまにも向けられた心ない中傷
敬宮愛子内親王殿下に対しても、ひどい中傷が向けられていました。「発達障害ではないのか」「母親の影響で情緒が不安定なのでは」「笑顔がない」などといった根拠のない憶測やバッシングが、週刊誌等で繰り返されたのです。

そのようななか、学習院初等科に在学していらっしゃった敬宮殿下が一時期学校をお休みになった際、当時の宮内庁長官であった羽毛田信吾氏が、「いじめに遭っていた」と記者会見で不用意に発言しました。

日本の報道機関は「いじめ」という表現は避けましたが、海外メディアは「日本のプリンセスが、いじめによって不登校に」と大きく取り上げました。

想像してみてください。そのような状況のなかで、妃殿下が「もう限界です」「皇室を離れたい」とおっしゃったことが、もしかしたらあったかもしれません。

しかし、たとえそうであったとしても、天皇陛下は常に「大丈夫、私が守るから」と寄り添い、その言葉を30年にわたって誠実に守り通したのではないかと拝察します。

いま、天皇としてのお務めをりっぱにお果たしになるお姿を拝見し、その歩みの重みを知る人は決して少なくありません。また、長らく公務を離れていらっしゃった妃殿下も、少しずつお務めに復帰あそばされ、現在では皇后として堂々とお役目を果たしておいでです。

■「あなたを守ります」に込められた本当の意味
「あなたを守ります」というお言葉には、一見すると「皇室としての責務よりも、配偶者を優先する」というニュアンスが含まれているようにも聞こえます。
ですが、私はむしろ逆であると考えています。

皇太子妃、そしてのちの皇后をお守りになることは、そのまま国民をお守りになるということと同義であると私は考えます。

なぜなら、天皇皇后両陛下がともに健康で、心を通わせていらっしゃるそのご様子を見て、多くの国民は安心し、喜び、皇室を心から敬愛するからです。

両陛下がともにお元気でいらっしゃることは、それ自体が国民の精神的支柱なのであり、象徴としての役割を果たしていらっしゃる証(あかし)でもあります。

そういう意味では、天皇陛下が妃殿下に語った「あなたをお守りします」というお言葉と、上皇陛下が美智子様に対して語った「私はあなたを守ることができないかもしれない」というお言葉は、語感こそ異なれど、その本質的な意味合いは同じです。

いずれも「国民と配偶者をともに守る覚悟」であり、立場の違いによって表現が変わっただけのことなのです。

■国と家庭は切り離せない
『古事記』のなかで、仁徳天皇は最後には皇后をお守りになりました。「家庭すら治められずに、どうして国を治めることができようか」とのお考えがあったように思います。

皇室において、家庭と国は決して相反するものではなく、むしろ深く連関しているのです。

天皇陛下は、ご自身の思いを語ることなく、アピールすることもなさらず、「約束」をお守りになりました。これほどの覚悟と誠実さを持った方が、ほかにいらっしゃるでしょうか。

あれほどのバッシングや誹謗中傷を受けながらも、今では多くの国民から敬愛される存在になっていらっしゃるのです。


「天皇とはこうあるべきだ」という信念と覚悟を、ご自身の内に固く抱き、寸分もぶれることなく、日々の務めを積み上げていらっしゃった。私は、今上陛下ほど、強い忍耐と信念を持った方はいないのではないかと思っています。

■親しみやすさの裏にある人間的魅力
もっとも、陛下は決して「四角四面」なお方ではありません。一方で、非常にユーモアを解す性格であることも、よく知られています。

たとえば、立太子礼(天皇が皇太子を内外に宣明する儀式)後の記者会見で、皇太子の正式な称号である「日嗣の皇子」にちなみ、「これまでは日嗣(ひつぎ)の“見込み”でしたが、ようやく日嗣の皇子(みこ)になりました」と、軽やかなユーモアを交えてお話しになりました。

また、外国からの留学生が「私は日本のアニメのナルトが好きです」と申し上げたところ、「そうですか、私はナルヒトです」とお応えになったという微笑ましい逸話もあります。

さらにある日、大学の行事にOBとして参加なさった際には、机を並べる作業中にふとした拍子に動けなくなり、その場で「“出んか(殿下)”になってしまいました」と、冗談を交えて場を和ませられたという話も残っています。

このように、天皇陛下には、穏やかさと冷静さ、そしてストイックなご姿勢の裏に、軽妙なユーモアのセンスが自然とにじんでいるのです。

天皇陛下は、形式にとらわれすぎることなく、人としての温かさや知性をもって接してくださる。だからこそ、多くの人が自然に敬意と親しみを感じるのでしょう。

この書籍の執筆者:竹田 恒泰 プロフィール
作家、実業家、皇學館大學非常勤講師。1975年、旧皇族・竹田家に生まれる。
明治天皇の玄孫にあたる。慶應義塾大学法学部法律学科卒。専門は憲法学・史学。『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)で第15回山本七平賞受賞。2021年に第21回正論新風賞受賞。『天皇の国史』(PHP研究所)、『現代語古事記』『古事記完全講義』『竹田恒泰の特別講義 天皇と皇族』(以上Gakken)など著書多数。近年は、歴史教科書の執筆・出版、古墳型墓所の設計・販売なども行っている。
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