昔ばなし研究者の沼賀美奈子さんは、「昔ばなしの読み聞かせは、子どもの心に『何があっても大丈夫』という安心感と生きる力を引き出す魔法の杖のような存在。使い方が大事です」と語ります。
2026年6月に出版された著書『本当の頭のよさが育つ昔ばなしの魔法』(青春出版社)から、読み聞かせのコツを7つ紹介します。
■コツ1:読み聞かせは、「声のベビーマッサージ」
昔ばなしを、子どもを賢くするための教材だと感じていませんか? 沼賀さんは、「まずは『面白い』『楽しい』と夢中になる時間を大切にしてほしい」といいます。
「絵本の読み方・選び方では、子どもの年齢や発達、季節感を考慮する以上に、読む人自身がその作品を好きかどうかが大切です」
「この主人公、面白いんだよ」「お母さんはこの話が大好きなんだ」と親自身がワクワクすることで、その熱量が子どもを物語へと引き込みます。
大事なのは、親の心地よい声と楽しさで子どもを包み込むこと。「声のベビーマッサージ」だと捉えましょう。子どもが途中で立ち上がっても、視線を外しても大丈夫。互いにリラックスして触れ合うことが大切です。
■コツ2:感想は深追いしない
読み終えた後、つい「どうだった?」と感想を催促していませんか。
「質問攻めは今夜からやめて」と沼賀さん。楽しい物語の時間が、お母さんが喜ぶ正解を探すテストの時間に変わってしまうからです。
物語は子どもの心の中でひそかに発酵し、熟成していくもの。もし子どもが、「怖かった」「面白かった」と感想をポツリと口にしたら、「そうだね」とだけ受け止めましょう。「何を言っても否定されない」という安全な場所を作り、余韻を共有することが大切です。
■コツ3:「いつもの声」で読むことで、子どもの想像力につながる
役になりきって、感情たっぷりに演じる必要はありません。
昔ばなしは、細部を語らない「抽象文芸」。鬼がドスを聞かせた声で話し、お姫様が甲高い声で語ると、物語のイメージが子どもの中で固定されてしまい、頭の中で自由に描く想像の余地を奪ってしまいます。
「大切なのは、声で子どもを抱っこすること。いつもの声で読んであげてください」
親が子育てと仕事に疲れてイライラしているときには、昔ばなしという平面的な語りに身を任せてみましょう。親自身の情緒が安定します。現実はボロボロで動けない状態でも、物語の主人公が子どもたちと旅に出て楽しませてくれるからです。
親の情緒の安定は、心理学研究でも認められているほど大切です。
「昔ばなしで親が癒され、安定することは、子どもに手渡せる何よりの教育であり、プレゼントです」
■コツ4:残酷さと残忍さの違いを知ろう
『かちかち山』では、おばあさんがタヌキに殺され、『ヘンゼルとグレーテル』では、子どもが親に捨てられます。
「親が先回りして、残酷さを隠さないで」と沼賀さん。「昔ばなしの残酷さは、子どもが不確実な世界を生き抜くための心の免疫になるから」といいます。
大事なのは、人生には理不尽なことがあるという「残酷さ」と、その痛みを生々しく描く「残忍さ」の違いを理解すること。昔ばなしに残酷さはあっても、残忍さはないのです。子どもは物語を通して、怖いことや理不尽な目に遭う疑似体験をたっぷりと味わいます。
■コツ5:ウオーミングアップで読み聞かせの導入を作る
子どもたちはスマホのショート動画に夢中。そんな家庭が増えてきたのではないでしょうか。
沼賀さんは、「親の視線と声が自分だけに向けられている特別感が、スマホの興奮を落ち着かせる」と語ります。
とはいえ、ショート動画やスマホに慣れた子どもたちが、読み聞かせに飽きることもあるでしょう。
「テンポの速い映像に慣れた子どもを、静かな物語の世界へ誘うにはちょっとした工夫が必要です」
いきなり昔ばなしを始めるのではなく、まずは声や体を使った「わらべうた」や「手遊び」を30秒間だけでも取り入れてみましょう。
一緒に手を動かし、目を合わせて笑いあう。
■コツ6:つらいときは短い昔ばなしを選んで
子どもが飽きやすかったり、親が疲れている状況では、すぐに終わる短い昔ばなしを選びましょう。
物足りなくて子どもが騒いだときには、「今日はこれでおしまい。また明日のお楽しみね」と、「もっと聞きたいな」という腹八分目で終わらせる日を作ればいいのです。
■コツ7:創作話を語る夜があっていい
仕事や体調不良で忙しく、本を開く気力すら残っていない夜は、「親自身が一冊の本になればいい」と沼賀さん。記憶の中の昔ばなしを語り、子どもたちを主人公にした創作話を披露するのです。
「本はなくても、親の声と存在そのものが、子どもをすっぽりと包み込む物語です」
声を出す気力すらないときは、オーディオブックや朗読アプリ、自分で読み聞かせする声を録音して流すのもいいでしょう。子どもと同じお話の空間を共有することが大切です。
■昔ばなしは、親子で楽しむ
昔ばなしは義務ではなく、あくまで親子で楽しむ空間づくりが大切です。一緒に楽しんだ時間が、子どもにとって一生の力を授けることでしょう。沼賀美奈子 プロフィール
昔ばなし研究者/大学講師。小澤昔ばなし研究所に所属し、昔ばなし研究の第一人者・小澤俊夫 に33年間師事。
この記事の執筆者: 結井 ゆき江
フリーランスの編集者・ライター。中学受験雑誌の編集者として勤務した後に独立。小学校で発達障害グレーゾーンの児童をサポートした経験から、教育分野を中心にライターとして活動する。









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