「AGCやニコンが実は三菱系?」「名前に三井とあるのに住友の血も混ざっている?」など、表面的な社名だけでは見抜けない“隠れた系列”に翻弄された経験を持つビジネスパーソンも少なくありません。
現場のビジネスパーソン500人は、彼らをどう見ているのか? 東洋経済新報社の記者・山川清弘氏の著書『教養としての三菱・三井・住友』(飛鳥新社)より一部を抜粋・編集し、アンケートから見えてきた「現代の財閥」のリアルと知られざる不文律に迫ります。
■500人の証言が暴く「現代の財閥」のリアル
本書の執筆にあたり、三菱・三井・住友の3グループと仕事で関わりがある、あるいは自身がグループ企業に所属しているビジネスパーソン500名を対象に、2025年5月にアンケートを実施しました。
その結果は、驚くべきものでした。令和の今になっても、ビジネスの現場では「財閥の論理」が色濃く生き続けていたのです。
アンケートに回答してくれたのは、年収1000万円以上の層が約2割を占める、日本のビジネスの最前線にいる人々です。彼らから寄せられた「生の声」を紹介しましょう。
まず、「三菱グループ」について。多くの人が挙げたキーワードは、「組織力」「官僚的」「プライド」でした。
「三菱銀行は内部の稟議(りんぎ)体制がしっかりしていてうるさい」、「確認に時間がかかり、意思決定が遅い」といった声からは、重厚な組織体制が浮かび上がります。
ある回答者は、「三菱商事には入社から部署が変わらない『背番号制』があったらしい」と、専門性を極める一方で縦割りが強い組織文化を指摘しています。しかし、その分「有事の対応力は随一」、「グループ内で何でもそろう」といった、組織としての圧倒的な信頼感も健在です。
対照的なのが「三井グループ」です。キーワードは「自由」「個性的」「スマート」。
「組織よりも人を大切にする」、「担当者個人の裁量で話が進む」といった意見が多く、「人の三井」という言葉が今も生きていることがわかります。
一方で、「物腰は柔らかいが、腹黒い(計算高い)」、「三井系ではメールの返信時に『拝復』と書く古風なルールがあると聞いた」といった、老舗商人ならではのしたたかさや格式を感じさせるエピソードも寄せられました。
そして「住友グループ」。ここには「結束」「精神論」「実利」という言葉が並びます。
「住友の精神を入社時に徹底的に研修される」、「結束して物事を進める」という声もあり、外部からはうかがい知れない強固な身内意識があるようです。
飲み会の席での「住友=アサヒ」のルールも、このグループで最も厳格に守られているようです。
いかがでしょうか。法的な意味での「財閥」は約80年前に解体されました。しかし、ビジネスパーソンたちの実感として、三菱は「組織」、三井は「人」、住友は「結束」というそれぞれの「人格(キャラクター)」は、今も強烈なリアリティを持って存在しているのです。
■「名乗らない」財閥系企業の罠(わな)に注意
アンケートでは、取引上の注意点として「相手の背後にあるグループを意識しないと痛い目を見る」という声も多数ありました。
「この会社は財閥系ではないから、しがらみはないだろう」
そう思って提案を持って行ったら、実はガチガチの財閥系企業で、系列の義理立てから提案を一蹴された——そんな「地雷」が埋まっているのです。
実は、社名に「三菱」「三井」「住友」を冠していないにもかかわらず、グループの中核を担っている企業は山ほどあります。
たとえば、世界的なガラスメーカーであるAGC(旧旭硝子)。
この会社は、三菱財閥の創業者一族である岩崎家の次男・岩崎俊弥(いわさきとしや)が設立した企業です。血筋で言えば、これ以上ないほどの「三菱直系」です。
しかし、AGCは社名に決して三菱を名乗りません。創業時に三菱本家から反対されながらも独自の道を歩んだ、いわば「反骨精神」から、あえて“一匹狼”的な立場を貫いているのです。
また、日本郵船もそうです。三菱の源流企業でありながら、国策会社として成立した経緯から「日本」の名を冠し、「三菱」とは名乗りません。カメラのニコンも三菱グループですし、損害保険業界の雄・東京海上ホールディングスも、戦時中の統合の経緯や「東京海上」ブランドへの誇りから、三菱の名を使わずにグループの中で存在感を放っています。
逆に、社名だけで判断すると誤解を生むこともあります。
商船三井という会社は、その名に「三井」とありますが、実は住友グループの海運会社(大阪商船)と三井グループの海運会社(三井船舶)が合併してできた、いわば「ハーフ」の企業です。
また、三越伊勢丹ホールディングスも、三井の源流である「越後屋」をルーツに持ちながら、現在は三菱UFJ銀行を主力取引銀行の一つとするなど、旧財閥の枠を超えた動きを見せています。
このように、日本経済の地図は、表面的な社名だけでは読み解けない「隠れた線」で無数に結ばれています。
戦後の財閥解体から約80年。法的な縛りはなくなったはずなのに、なぜこれほどまでに「系列」や「グループ」の引力は残り続けているのでしょうか。。そして、それぞれにどのような「性格」の違いがあるのでしょうか。
本書では、そんな現代ビジネスの大海原を生き抜くための「実践的なルーツ」を提供しています。
この記事の執筆者:山川清弘(東洋経済新報社 記者) プロフィール
1967年、東京都生まれ。東洋経済新報社に入社後、記者として放送、ゼネコン、銀行、コンビニ、旅行など担当。『会社四季報プロ500』編集長、『会社四季報』副編集長、『週刊東洋経済プラス』編集長などを経て『株式ウイークリー』編集長および「会社四季報オンライン」編集部編集委員。著書に『世界のメディア王 マードックの謎』(今井澂氏との共著、東洋経済新報社)、『ホテル御三家 帝国ホテル、オークラ、ニューオータニ』(幻冬舎新書)、『教養としての三菱・三井・住友』(飛鳥新社)など。
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