「60歳になっても担当する仕事は同じ。目標は前年プラスアルファ。
それなのに、給与だけが下がる」——。定年後も同じ会社で働くつもりなら、決して他人事ではありません。

パーソル総合研究所の上席主任研究員・藤井薫さんによると、60歳時の処遇見直しで給与が下がる企業は全体の9割近くを占める一方、仕事の役割や責任が変わらない人も相当数いるといいます。

なぜ、仕事が変わらなくても給与は下がるのでしょうか。藤井さんの著書『定年前後のキャリア戦略 データで読み解く60代社員のリアル』(中央公論新社)より一部抜粋・編集し、企業の年収見直しの実態と、その背後にある人事制度の問題を紹介します。

■仕事が変わらなくても給与は下がる
「仕事がこれまでとまったく変わらないのに給料が下がるのが納得できない。おまけに期首の目標シートも目標が低いと『全員、前年プラスアルファの水準で目標設定をお願いします』って言われて、修正されるし」

60歳時の処遇見直しで給与が下がる企業は、全体の9割近くを占めます。そして、60歳で役割・責任が軽減される人、変わらない人はほぼ同じくらいの割合です。ということは、やはり、仕事が変わらないのに給与が下がる人が相当数いるということになります。

それでは、状況を詳しく見てみましょう。

60歳時での年収低下率ごとに担当職務の状況を見ると、年収低下率が大きい企業ほど「59歳以前とほぼ同様の職務」を担当する人の割合が減り、「同様の職務だが、責任範囲や業務量を縮小」される人が増えていきます。

「同様の職務」を担当する人は、「年収がほとんど変わらない」企業では5.9割ですが、「50%程度以上下がる」企業では3割と半減します。


一方、「責任範囲や業務量を縮小」する人は1.9割ですが、「50%程度以上下がる」企業では4.2割と倍増します。給与と仕事をある程度連動させようと考える企業が多いということです。
仕事は同じ、目標「前年プラス」なのに給与ダウン……60歳社員の給料を一律で下げる企業の理不尽
※画像出典:『定年前後のキャリア戦略 データで読み解く60代社員のリアル』(藤井薫・著/中央公論新社)


■年収が50%程度以上下がっても「仕事は同じ」が3割
しかし、あくまで「ある程度」です。たとえば、「50%程度以上下がる」企業であっても、仕事が変わらない人が3割いるからです。

つまり、程度問題であって、低下率が50%であれ10%であれ、仕事が変わらないのに給与だけ下がる人がいることには変わりありません。

もう一段深掘りすると、先ほどの図表で示した年収低下率は企業ごとの平均です。

「平均50%程度」の企業で低下率が30%から70%まで幅があって平均50%になっているとは考えにくいものの、「平均20%程度」の企業ならば0%から40%までバラついていて平均20%ということもありそうです。

ちなみに、判例では、再雇用時の年収低下率が60%を超えても一概に違法とは断定できないようですが、企業にとってリスキーであることは確かです。

■給与を「全員一律」で下げる企業は3分の1
さて、60歳時の年収見直しの基準は、3種類に大別できます。「全員一律基準」が全体の3分の1、役職や等級、人事評価成績、職種などの「グループごと基準」が約6割、「個別対応」が1割弱です。

仕事は同じ、目標「前年プラス」なのに給与ダウン……60歳社員の給料を一律で下げる企業の理不尽
※画像出典:『定年前後のキャリア戦略 データで読み解く60代社員のリアル』(藤井薫・著/中央公論新社)
「グループごと基準」や「個別対応」であれば、これまで通りの役割・責任を担う人は、企業内では相対的に年収低下率が小さくなりそうです。

あくまで、企業内における相対的なものでしかありませんが、各人の仕事の状況をある程度配慮することが可能です。


一方、「全員一律基準」の企業でも、「ほぼ同様の職務」を担当する人が4割を超えます。
全員一律基準では、仕事が変わらない人も軽くなる人も低下率が同じになるので、役割・責任が変わらない人にとっては、不条理や不平不満を感じる状況になりそうです。

そのような人が4割を超えるとなると、企業にとっても由々しき事態です。企業は深刻に受け止める必要があります。

■「全員一律なら公平」は実際には悪平等
それにもかかわらず、なぜ「全員一律基準」を採用する企業が3分の1もあるのでしょうか?

実際は悪平等でしかないのですが、「全員一律なら効率的で公平だ」という人事部の安直な判断であり、怠慢です。

厳しい言い方をしましたが、現実問題として企業側の事情を考慮すると、「全員一律基準で年収を引き下げたくなるだろうなぁ」というケースもなくはありません。

それは、50代以下の社員の給与があまりに年功的で、管理職も高度専門職も、あるいは担当者であっても大差ないという企業です。

もともとの年収が役割・責任を反映していないので、今さらそれを持ち出してもそれほど意味がない、みんな一律に下げてしまえばいいだろうというわけです。

とりあえずの60代処遇施策としてわからなくもないですが、本来は、まず50代以下の社員の処遇制度を適正なかたちに整えておくべきです。やはり、人事部の不作為が問われます。
著者:藤井 薫(パーソル総合研究所 上席主任研究員)
電機メーカーの人事部・経営企画部を経て、総合コンサルティングファームで20年にわたり人事制度改革を中心としたコンサルティングに従事。その後、ソフトウェア開発企業の取締役を経て、2017年にパーソル総合研究所入社。
2020年4月より現職。
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