嫌味や上から目線を向けられると、つい腹を立てたり、傷ついた表情を見せたりしてしまうもの。しかし、その反応こそが、相手の望んでいる“ご褒美”かもしれません。


脳科学者・中野信子さんによると、マウントは相手が「屈辱に顔を歪める姿」を見て、初めて完結するもの。反応した瞬間、「つけ込む隙」と「ドーパミン(快感)」を与え、相手をさらに勢いづかせてしまうといいます。

では、悪意を向けられたとき、相手の思惑に乗らず、攻撃を無力化するにはどうすればよいのでしょうか。中野さんの著書『ロンドン紳士と脳科学に学ぶ 品格のあるマウントのとり方』(日経BP)から一部抜粋し、相手の醜さを映す「鏡」と、攻撃する気を失わせる「鈍感力」の使い方を紹介します。

■「鏡」となり、相手自身の醜さに気付かせる
「鏡」の沈黙の強さを知りましょう。相手の粗野な衝動を、静かなる慈悲で迎え撃つのです。

マウンティングという行為の正体は、己の欠乏を埋めるために他者の尊厳を糧とする、極めて不格好な「飢え」の露呈です。ロンドン紳士がそのような非礼に直面した際、彼らは剣を抜く代わりに、一枚の「鏡」を差し出すでしょう。

それは相手を攻撃するためではなく、ただ「貴方は今、このような姿で世界と対峙していますよ」という事実を、無慈悲なまでの礼節をもって突きつけるためです。

そもそも「マウンティング」という言葉の原義を、私たちは再確認すべきです。それは霊長類が交尾の姿勢を模して優劣を示す、極めてプリミティブなポーズです。

もし誰かが貴方にマウントを仕掛けてきたなら、心の中でこうつぶやいてさしあげなさい。


「驚きました。ここは文明化された社交場だと思っておりましたが……。どうやら私は、本能の命ずるままに性的な誇示を繰り返す、情熱的なお猿さんの檻に迷い込んでしまったようですね」

■相手が「猿山のルール」で挑んできたら?
私たちは、記号や言葉の裏側でうごめく「サピエンスの業」を飼い慣らす知性を持っているはずです。

相手が猿山のルールで挑んでくるなら、貴方はただ「人間」であることをやめなければいい。それだけで、相手の仕掛けたマウンティングは、接続先を失って虚空を彷徨うことになります。

マウントをとる人間が最も恐れているのは、自分の「格」が下がることです。ならば、その心理を逆手にとり、相手が自らの品性を恥じるまで、徹底的に「驚き」をもって遇するのが正解です。

相手が悪意を剝き出しにしてきたら、怒るのではなく、ただ不思議なものを見るような目でこう問いかけなさい。

「まあ……貴方、大丈夫ですか? 今、ご自身がどのような表情で、どのような音を立てていらっしゃるか、自覚がおありですか?」

「そんなに悪意を剝き出しにしてしまって……。貴方を育んだ環境では、それが『洗練』だと教えられたのでしょうか。実に独創的な教育ですね」

相手が恥ずかしさで身動きがとれなくなるまで、こちらの「正気」を呈示し続ける。それは反撃ではなく、迷える霊長類への「教育」という名の慈愛なのです。


■悪意には「心のシャッター」を下ろす
京都の老舗バーやロンドンのクラブで、手練れの人たちが使う技法があります。それは、相手の言葉が届く直前で、心のシャッターを静かに、音を立てずに下ろす方法です。

「日本人は(英国人は)、わざわざ足を運んでくださったお客様に、そのような不躾な物言いはいたしませんけれど……。貴方が信奉されている文化圏では、それが『歓迎』の作法なのですか?」

ぜひとも、品格という名の護身術を使いましょう。

マウントをとる人は、他人の目線を気にしすぎるあまり、自分の顔が「猿」になっていることに気づいていません。

貴方がすべきことは、その滑稽な姿を、ただ冷徹に、かつ優雅に映し出すことだけ。

「ここは猿山ではありませんから」

その一言を、最高に美しい微笑みに添えて。

■最強の盾「鈍感力」を使え
最もエレガントな勝利とは、鮮やかにやり返すことではありません。相手が必死に構築した攻撃回路を、無関心というボタンを押して「オフにする」ことです。

マウントとは、相手が「屈辱に顔を歪める姿」を見て、初めて完結する依存性の高い快楽です。ならば、私たちはその快楽を一切提供しない、最高に「コスパの悪い相手」になりきればいいのです。

仕掛けてくる人は、実は極めて視野が狭く、自分の世界観の小ささを露呈している「ダサい」存在です。
そんな相手に対して、私たちがとれる最強の手立ては、「気づかないこと」です。

相手が「格の差」を示そうと躍起になっていても、「へえ、面白いわね」と植物図鑑でも眺めるような目で受け流す。

人間は、自分が思っているほど賢い生き物ではありません。多くの場合、深く考えずに短絡的な本能で吠えているだけです。そんな「考えていない人」の言葉を正面から受け止めるのは、人生という貴重な時間の無駄遣いというものです。

■反応すれば、相手に「快感」を与えてしまう
もし、貴方が相手のマウントに気づいてしまったとしても、決して反応してはいけません。反応した瞬間に、相手に「つけ込む隙」と「ドーパミン(快感)」を与えてしまうからです。

マウントしたのに貴方がキョトンとしている、あるいは全く別の話題にすり替えられる。この「肩透かし」をくらったとき、相手は強烈な不満を覚えます。

「攻撃したのに、手応えがない。なんてコストパフォーマンスの悪い人間だ」

そう確信したとき、相手は次のターゲットを探しに、貴方の前から去っていきます。

マウンティングは、いわば根比べです。


相手が「気づくまでやってやる」と固執してくることもあるでしょう。しかし、相手が費やすコスト(時間とエネルギー)に対し、貴方から得られるリターン(貴方が示す屈辱や動揺)がゼロであれば、いずれその計算は破綻します。
著者:中野信子(脳科学者、医学博士、認知科学者)
東京都生まれ。東日本国際大学特任教授、京都芸術大学客員教授、森美術館理事。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピン勤務を経て帰国。脳や心理学をテーマに、人間社会の事象を科学の視点から解説する。
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