しかし、生活水準を急に落とすのは難しく、突発的な医療費や介護費用が重なれば、節約だけで乗り切るのには限界があります。
では、預貯金を取り崩す一方の生活を避けるにはどうすればよいのでしょうか。1万人のビジネスパーソンを取材してきた大塚さんの著書『定年5年前からの「やってはいけない」』(PHP研究所)から一部抜粋し、預貯金を「引き算」ではなく「足し算」で考える方法を紹介します。
■給与は上がったはずなのに足りなくなるのはどうして?
役職定年や「デモーション」といった呼称で、一定の年齢になると役職を降格させる制度を採用する企業は少なくありません。
役職定年が年収に影響しない企業もありますが、3割ほど年収の下がるところが多い印象です。また、役職によっては半減するケースもあります。
某通信業界の例です。年収1800万円の部長クラスが、55歳の役職定年で900万円に半減し、60歳で定年を迎えます。65歳までの再雇用でまた450万円に半減します。
役職定年後の900万円は恵まれていると思う人もいるかもしれませんが、年1800万円の生活水準をいきなり900万円に落とすのは至難の技です。
住宅ローンは織り込み済みとしても、「晩婚化のワナ」(※晩婚化に伴って子どもを持つ時期が遅くなり、定年時にも子どもがまだ巣立っていない状況/編集部注)に当てはまる場合、再雇用による年収減と子どもの教育費のピークが合わないという問題が起こります。
役職定年後の900万円まではなんとかなっても、再雇用の450万円では場合によってはキツイかもしれません。
そうした将来の収入ダウンに備え、現役中に預貯金や投資をしますが、それなりの蓄えやキャピタルゲインがあっても、年収減による食いつぶしは目に見えています。
■「身の丈に合った生活」ならなんとかなる?
身の丈に合った「年金・預貯金額に応じた生活設計」をすればなんとかなる……。これはたしかに一面の真実ではあります。
それ以外のよい方法はなさそうですし、私自身もまずは「身の丈に合った生活を」と考えるでしょう。
65歳の公的年金の支給を待たず、企業によっては60歳から企業年金が支給されますし、個人年金を積み立てていた人も60歳から支給されます。
額としては、10万円前後が多いと推察しますが、これも再雇用の年収減をある程度は補完してくれるので、さらに「なんとかなる」気持ちが強くなりそうです。
■「定年後は節約できる」に潜む思わぬ落とし穴
でも、ここで問題提起をしたいと思います。
年収が半減しても、その範囲内でやりくりするのは「縮小均衡」思考で、ある意味「他の可能性を考えなくなる」リスクを生むのではないか、ということです。
それが、悪い結果をもたらす例も聞いています。
生活水準は簡単にミニマイズできませんし、家族の大病や親の介護など予期しない出費によって「老後2000万円問題」の脅威はいきなりストップ高になってしまいます。
よくある「縮小均衡」思考の失敗例は、年金額から社会保険料、所得税、住民税を差し引いた手取り額を計算せず、年金の額面で生活設計してしまうケースです。
生活費の原資となる金額がはなから間違っているのですから、皮算用レベルの結末です。
また、退職金を過大に想定して早期定年したものの、それより低くて計画が狂い、あわてて会社に頭を下げて復職した先輩もいました。職級はひとつ下がったものの、正社員で復職できたのですからラッキーと言えるでしょう。
■預貯金を「引き算」ではなく「足し算」で考える
定年後のクレジットカード利用額の引き落としによる貯金額の減少で「縮小均衡」思考を後悔する前に、“65歳からは「年金+収入」で月50万円を目指す”練習をしてみましょう。
支出する額より、「年金+収入」の手取りのほうが大きければ、貯金は減るどころか増えていきます。定年後の預貯金額を足し算で考えるか、引き算で考えるかは、安心や心の豊かさに直結します。
お試しレベルでかまいませんから、まずは“65歳からは「年金+収入」で月50万円を目指す”前提でポジティブな発想をしてみましょう。それを続けることが第一歩です。
「<ポイント>
定年後の預貯金を足し算で考えるにはマインドセットから。65歳からは「年金+収入」で月50万円を目指そう!」
著者:大塚寿(作家・エマメイコーポレーション代表取締役)
1962年、群馬県生まれ。株式会社リクルートを経て、サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得。現在は、オーダーメイド型企業研修を展開するエマメイコーポレーション代表取締役、オンライン研修「営業サプリ」を運営する株式会社サプリCKO。1万人を超えるビジネスパーソンへのインタビューを行い、著書多数。
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