テレビアニメ『呪術廻戦』の七海建人役などで知られる声優の津田健次郎さんが、生成AIを用いて自身の声を無断で模倣したTikTok動画が公開されているとして、動画の削除を求めて2025年11月にTikTokの運営会社を訴えていたというニュースが先日話題になりました。

■津田さんの訴える主な内容
訴状によると、問題のTikTok動画は、生成AIによって津田さんの声を模倣したナレーションを付けた都市伝説やオカルト、雑学をテーマとしたもので、提訴までの間少なくとも188本TikTok上で公開されていたようです。


津田さんの訴えによると、この動画の投稿者は津田さんが訴えた2025年11月時点で21万人以上のフォロワーを有し、動画の平均再生回数は147万回にのぼっていたそうです。動画の投稿者は、再生回数に応じて月50万~75万円ほどの収益を上げていたとみられています。

訴えられたTikTokの運営会社側は、問題となっている動画の声と津田さんの声は似ていないと主張し、争う姿勢を見せているため、津田さんの訴えがどこまで認められるか、非常に注目される裁判です。

■“声の権利”はSNS上でも度々話題に
津田健次郎さんのTikTok提訴で注目集まる「声の権利」 無断利用が“違法”となり得る3つのケースとは?
声優の声を使った動画をAI等で作成して公開したらダメなの? ※画像:筆者作成

こうした津田さんのケースをはじめ、昨今では、生成AIを使った声の無断利用が深刻な問題になっており、声に権利が認められるのかということがSNS上などでも度々議論になっています。

そのため、2026年4月、法務省はこうした問題に対して、大学教授や弁護士などの有識者らによる検討会を立ち上げて議論を始めました。法務省はこの検討会を通じて、生成AIによる声の無断利用が権利侵害となるのか、そして権利侵害となる場合にはその損害賠償請求の範囲はどの程度なのかを整理し、何らかの見解を示すことを目指すようです。

この検討会の第2回が2026年5月28日に開催され、そこには、声優事務所の81プロデュースや、声優有志として、『新世紀エヴァンゲリオン』の碇シンジ役などで知られる緒方恵美さん、『進撃の巨人』のエレン・イェーガー役などで知られる梶裕貴さんら合計6人の声優も参加して議論が行われました。

有名声優も参加した第2回検討会では、声優側から、具体的に発生している問題や声優側の求めることの訴えがありましたが、実際、生成AIによってどのような問題が生じているのでしょうか。そして、声に権利は認められるのでしょうか。知的財産権の専門家である弁理士の筆者が解説します。

■生成AIによって生じている声の問題
有名声優らが訴えていた問題行為とは、次のようなものでした。

・生成AIによって特定の声優の声で別アーティストの曲を歌わせる
・生成AIによって特定の声優の声で文章や物語を朗読させる
・生成AIによって特定の声優の声で、本人が述べたことのない発言や演技をさせる(政治的・性的なものもあり、心理的なダメージも大きいとのこと)
・特定の声優の声を学習させたAIモデルをWebサイトなどで販売・公開する

こういった問題行為によって、TikTokやYouTubeなどの動画サイトに上記のような動画が多数アップロードされ、中には声優本人が歌っている、話していると視聴者が思い込んでしまうようなケースも出ているとのこと。


動画サイトで公開されている動画が、キャラクターの絵も同時に使われているようなものの場合は(アニメなどのキャラクターのビジュアルがあって、それが声を発しているような動画の場合)、アニメの制作会社などを通じて動画サイトに権利侵害の申し立てをして削除してもらっているのが実情だといいます。

しかし、キャラクターの絵を使わずに声のみの動画や音源が動画サイトにアップロードされているような場合は、アニメの制作会社が対処できないこともあり、その場合は、声優本人か所属事務所が対応に当たるしかないということですが、動画サイトに申し立てても無視されることもあるようです。

また、81プロデュースは、違法行為を止めるための法的な裏付けが必要(声の無断利用が権利侵害であることを明確にすることが必要)ということを主張していました。

■声の権利は認められるのか
これまで声の権利を認めた法律や裁判例はありませんが、大学教授らによる学説では、「パブリシティ権」と呼ばれる裁判例で認められた権利に含まれるとする考えが多数派を占めています。

パブリシティ権とは、「人の氏名や肖像等がもつ顧客吸引力を利用する権利」のことで、顧客吸引力とは、商品やサービスがより売れるように顧客の注意を引き、関心をもたせるための魅力などのことを指します。有名なタレントやインフルエンサーが商品をCMやSNSなどで紹介すると、全く知らない人が紹介するよりも注意や関心が集まりますよね。

よって、顧客吸引力を利用する権利であるパブリシティ権は、有名人に発生しやすい権利であるといえます。そもそもこの権利が認められる発端となったのは、1970年代に活躍した女性ユニット「ピンク・レディー」のライブ写真などが週刊誌に無断で掲載され、その掲載によって損害を受けたとしてピンク・レディー側が週刊誌を訴えた事件です。

この事件よって、パブリシティ権が認められ、以降有名人の名前や顔写真などを無断で利用した場合の事件で度々出てくる権利となりました。
津田健次郎さんのTikTok提訴で注目集まる「声の権利」 無断利用が“違法”となり得る3つのケースとは?
パブリシティ権とは ※画像:筆者作成

パブリシティ権における、「人の氏名や肖像等がもつ顧客吸引力」の「肖像等」に、声も含まれるとするのが大学教授らの学説で多数派です。法務省の検討会でも、「肖像等」に声も含まれるため声はパブリシティ権で守ることができるという見解が多数を占めています。

これらを踏まえると、声優などの声もパブリシティ権で守ることができるという流れになるように思えます。


では、声がパブリシティ権で守られるとして、どういった声の無断利用をした場合に違法となるのでしょうか。また、津田健次郎さんが裁判で訴えたケースではどうなるのでしょうか。

■声の無断利用が違法となると考えられる3パターン
法務省の検討会では、先述したピンク・レディー事件の裁判で示されたパブリシティ権についての考えを踏まえた上で、以下3つのいずれかを無断で行った場合に違法(パブリシティ権の侵害)となるという考えでおおむね一致しているように見受けられます。

▼1:声そのものを独立して鑑賞の対象となる商品などに使用する場合例:有名人のボイスメッセージ、ボイススタンプ、芸能人のボイスアラーム、オーディオブックなど

▼2:商品などの差別化を図る目的で声を付す場合例:目覚まし時計、GPSナビゲーション、電子辞書、スマートスピーカーなど

▼3:声を商品などの広告として使用する場合例:テレビCM、店内アナウンス、商品サービス名を有名声優の声で読み上げるなど

例えば、人気声優の声をAIに無断学習させてその声優の合成音声を作成し、声優の許可なくインターネット上で配信して収益を得た場合は、1のパターンに当てはまります。

ゲーム開発会社が、声優の声をAIに無断学習させてその声優の合成音声を作成し、声優の許可なくゲームのキャラクターのボイスとして利用した場合は、2のパターンに当てはまります。

広告制作会社が俳優の声を無断でAIに学習させてその俳優の合成音声を作成し、俳優の許可なくCMナレーションに利用した場合は、3のパターンに当てはまります。

しかし、3パターンのどれかに該当するとしても、その声優や俳優の声が全国的に認知されているような場合や、その商品やサービスのユーザー層において高い認知度を有しているなどの事情がなければ、違法(パブリシティ権侵害)であると主張するのは難しいかもしれないとも検討会では述べられています。このあたりは今後、検討会で議論していく中でより具体的になっていくと思われます。

■津田さんのケースはどうか
先日話題になった津田さんのケースは、先ほどの2のパターン「商品などの差別化を図る目的で声を付す場合」が当てはまると筆者は考えます。

そうした場合、あとはそのTikTok動画で流れている津田さんの声を模倣したナレーションというものがどこまで津田さんの声に似ているのか、そしてその声を聞いた人が津田さんの声だとパッと分かるか、といったところが問題になってくるでしょう。

おそらく裁判でもこの部分が一番争われるところで、この裁判の判断が、今後の声優などの“声の無断利用”についての考えを示す重要なものになるのではないかと考えます。

法務省の検討会でも、声が似ているということをどのように判定すべきか、どこまで似ていれば違法になるのか、といった点を議論していますが、非常に難しい問題で、現時点ではなかなか方向性が固まっていないように見受けられます。


今後も、法務省の検討会の進捗や、津田さんの裁判の動向から目が離せません。

▼藤枝 秀幸プロフィール大手IT企業などでSEとしてシステム開発などに従事した後、2009年に「藤枝知財法務事務所」を開業。以降、IT分野やエンタメ分野を中心に契約書業務や知的財産業務を行う。メディアや企業のコンテンツ監修なども手がけている。All About 弁理士ガイド。
編集部おすすめ